第5話 海賊団への依頼
洞窟の中には、誰も言葉を発さない時間が流れていた。啜り泣きの声が落ち着いた頃、ネレイアが遠慮がちに口を開く。
「……それでね。レオたち、船に乗ってきたんだって」
「……船か。……動く、のか?」
「ガルド」
「……時間はかかるが、直せる」
アレグが促すと、ガルドは静かに答えた。
「……大砲などの装備は?」
「小せえが海賊船だ。ないと思うか?」
「……なるほどな……。いける……か?」
大公は顎に手を当て、しばらく黙り込んだ。
「直すのに、どれくらい時間と材料が要る?」
「……三週間。木材、縄、帆布、松脂。人手も要る」
「……木材は、少し多めに伐採すれば……。縄と松脂は作ればどうにかなる。……セイルヴィアの避難民の中には、何人か船大工として働いていたものもいる。……問題は帆布か……。人魚の布は、確か……」
「海獣の皮だよ」
ネレイアがすぐに答えた。
「……帆には少し重いか……」
「帆布ならこっちでもある程度積み込んでる。帆一枚には……ちょっと足りないね」
見かねてミレーユが口を挟む。
「……人間の服を海獣の皮に変えれば……」
「……人間の服?」
「そうだ。協力してくれる人を募る必要があるが」
「……じゃあ、また海獣を狩りに行かなきゃね」
「その問題があったか……」
「……でも、みんな協力してくれると思う」
ネレイアは笑う。大公は「……そうだな」と小さく笑った。
「報酬の話をしたいんだけど」
「それもそうか。……成功報酬で、構わないだろうか。……この集落には余裕がない」
「だろうな。……ミレーユ、さすがにいいだろ」
「内容を聞いてから」
「分かったよ、分かった」
アレグは両手を上げる。
「……復興予算も残したいから……金貨百枚でどうだろうか」
「……一年間は遊んで暮らせるじゃないか。いいのかい?」
「国に戻れば、国庫や王家の金庫から金貨は多少出せる。二つの王国を取り戻した暁には、必ず払おう」
「……多少って額かい。お国は違うねえ」
ミレーユは笑う。ネレイアは首をこてん、と傾げた。
「……じゃあ、人魚も何か支払った方がいい?」
「出せるのならね」
「分かった。金貨は出せないかもしれないけど……工芸品なら、どうかな?」
「ティアマールの工芸品は昔から高値で取引されていたな」
「高値? ……セイルヴィアは高く買ってくれたけど」
「真珠細工や海晶硝子、歌貝細工……ティアマールにしか作れない品ばかりだった」
「詳しいっすね」
「当たり前だろう。世界中に流通させたのはセイルヴィアだ」
大公は笑う。そして表情を引き締めた。
「……君たちの名前は?」
「アレグ海賊団だ」
「……私も、まだ名乗っていなかったな。エドガー・アルヴィン・エストレアだ」
「おう。船長のアレグだ。よろしくな」
「よろしく頼む」
ミレーユがくすりと笑う。
「律儀だね」
エドガーは静かに口を開いた。
「アレグ海賊団、クラーケンを倒し、二つの国を取り戻す手伝いをしてほしい」
彼は一歩前へ出る。そして深々と頭を下げた。
「……どうか、頼む」
アレグはミレーユに目配せをして、そして頷く。
「お安い御用だ! おれたちに任せとけ!」
どん、と胸を叩いた音が、辺りに響いた。
読んでくださりありがとうございました。評価、いいね、ブックマークをしてくださると励みになります。




