第4話 洞窟の再会
ネレイアが案内したのは、洞窟だった。
「……ここに、大公さんがいるの?」
「うん。みんな、ここに住んでる」
「……洞窟に?」
「そうだよ」
彼女はそう言って洞窟に入る。海賊団たちもそれに続いた。
「……湿ってるね」
「この洞窟、海に繋がってるから」
「海に?」
「うん。潮に沈んじゃうところは人魚が、沈まない高いところは人間が使ってる。こっちは市場だよ」
ネレイアはそう言って洞窟の中を進む。少しずつ人や人魚の姿が増えてくる。小さなランプに照らされた市場には、魚の骨でできた道具や貝細工、網や釣り針が並んでいた。人はいる。けれど、食べ物を並べた店は一つもなかった。
「ここが市場だよ」
「……市場?」
「食べ物、売られてないっすね」
「配給制だから。大公さんが、そうした方がいいって」
「……食べ物は少ねえのか?」
「……魚は、いっぱい取れる。けど、野菜や果物がほとんどない。薪も少ないから、お鍋は順番なんだ。人魚は生で平気だから、人間に火を回せるようにしてるの」
「……生で」
「本当は蒸した魚を食べたいよ」
「海の中でも、温められるんすか?」
「ティアマールなら、熱水で調理してた。海底から湧くんだ。貝のお鍋でじっくり蒸した魚は、ほろほろで美味しいの」
ネレイアは足元を見つめた。
「……また、食べたいよ」
アレグは静かに眉を動かす。そして、ミレーユに耳打ちした。
「……なあ、やっぱり」
「報酬を聞いてから」
「……だよなぁ」
やがて、小さな洞穴にたどり着く。そこでは一人の男性が、何度も削られた跡のある木の板と睨めっこしていた。彼はかりかりとペンを動かす。
「……果物は……いや、二丁目の夫婦は妊娠していたはずだ。なるべく回してやりたいが……」
「大公さん」
ネレイアが声をかけると、大公は顔を上げる。
「ネレイア、戻ったか。怪我はない、か……」
彼の動きは静かに止まる。その視線はレオに向けられていた。
「……レオナール、か……?」
「……レオ、って名乗ってる。……ほんとの名前は、覚えてない」
レオは静かにそう答える。大公は「……そうか」と呟いた。ネレイアはゆっくりと口を開く。
「……人魚の歌を、歌えたよ。匂いも、レオナールと同じだった」
大公はレオを見つめたまま、ゆっくりと息を吐く。
「……そうか」
大公の喉が小さく鳴った。その瞳から、涙が一粒溢れた。
「……生きて、いてくれた、のか……」
「……あなたが、僕のおじさん?」
彼は震える手をゆっくりと伸ばした。
「……そうだ。……今は、レオ、だったな……。顔を……よく、見せてくれ」
「……うん」
レオはこくりと頷くと、大公と視線を合わせる。
「……ああ、大きく、なったな……。兄上に……義姉上に……よく、似ている……」
「……そう、なんだ」
「……ああ。そっくり……だ……」
レオはそっと大公の背を撫でる。大公は口を開いたまま、言葉を失った。肩が震える。ぽた、ぽた、と涙が膝へ落ちる。もう止めることはできなかった。
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