↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/19

幕間① レオが怖いもの ※嘔吐表現注意

 大海原を航海する小さな海賊、アレグ海賊団の船にて。レオは甲板に座って、うとうとと居眠りしていた。傍らに置かれた竿の先がぴくぴくと反応しても、レオは微動だにしない。


「……そろそろ、やばいっすね」


 荷運びをしていたノエルは、作業の手を止めてぽつりと呟いた。


「今日で……五日目か」

「っすね」

「近々停泊してやらねえとな」


 ミレーユとアレグも小さくうなずく。舵輪を動かしていたガルドが静かに口を開いた。


「……夜中の散歩が、増えている」

「やっぱりか。……気を付けて見てやらねえと」

「……ネレイアに、説明したか?」

「あ」

「……まだっすね」

「説明しとくよ」


 ミレーユが立ち上がった、その瞬間だった。


「レオ、釣り?」


 ネレイアがレオの後ろから近づく。竿を見た彼女は、そのまま大声を出した。


「レオ! 魚、かかってる!」


 波で船が揺れる。かしゃりと、鎖がこすれる音がした。レオの肩が、大きく跳ねる。


「はっ、かひゅ……、ふっ……」


 レオは大きく目を見開き、荒い呼吸を繰り返す。口元を抑え、その場にうずくまった。アレグたちはすぐにレオに駆け寄る。ネレイアはそっとレオの背中に手を伸ばそうとした。


「やめろ」


 アレグはその腕を慌ててつかむ。


「……え?」

「大丈夫だ。ちょっと下がってろ」


 彼はにかっと笑い、ネレイアを下がらせる。そのまましゃがみ込んで、レオに呼びかけた。


「こっち向けるか?」


 レオはゆっくりとアレグへ体を向ける。アレグはゆったりとした調子でつづけた。


「ここはおれの船だ。大丈夫だ」

「ほら、ゆっくり息を吐きな」


 ミレーユはゆったりと言葉を続ける。レオは彼女のカウントに合わせて、少しずつ息を吐き始めた。


「レオさん、桶っす。ここに吐いていいっすよ」


 ノエルは桶を渡す。レオはその桶を抱え込んだ。


「おえっ、げほっ……」


 口から吐瀉物があふれ出る。レオは肩を震わせて吐き続けた。ガルドは何も言わず、レオの前にしゃがみ込む。


「……どうしよう、どうしよう……」


 こんなレオは、見たことがない。レオが苦しそうなのに。


「落ち着きな。大丈夫さ」


 ミレーユの声が響く。……落ち着ける? ……なら。


「~~」


 ネレイアは静かに歌い始める。不思議な言葉でできた歌。レオの震えは、少しだけ収まった。


「……落ち着く声だね」

「レオにも、効いてんな。ネレイア、続けられるか?」

「うん」


 ネレイアは頷いて、ゆったりと歌を続ける。少しずつ吐く間隔が空いていく。やがてレオは大きく息を吐き、顔を上げた。


「……ごめん」

「落ち着いたか?」

「……うん」

「水、飲めるっすか?」

「……なんとか」

「一応診とくっすよ」

「……ありがとう」


 ノエルは診察を始める。アレグはそれを見ながら、口を開いた。


「レオ、今日はもう寝ろ」

「……でも」

「海図はおれでも読める。近くの港につけるくらい、できる」

「……分かった」

「寝れるか?」

「……ここが、いい」

「荷物にもたれて寝な。見といてやるから」

「……うん」

「……立てるか?」

「……ちょっと、むり」

「分かった」


 ガルドはレオの肩を支え、隅に置かれた荷物へと連れていく。レオは樽に背中を預け、目を閉じた。ミレーユは小さく息を吐き、ネレイアを見る。


「ネレイア、こっち来な」

「うん」


 手招きするミレーユに、ネレイアはぱたぱたとついて行った。



「はい、ココア」

「……ありがと」


 ネレイアはココアの表面を見つめる。ミレーユは静かに「びっくりしたろ?」と聞いた。


「……うん」

「悪かったね。説明するの、忘れてたよ」

「……説明?」


 ネレイアはこくりと首を傾げる。


「……レオが奴隷だった、ってのは知ってるね?」

「うん」


 ミレーユは少しだけ笑顔を浮かべた。


「何されてたのかは、あたしらも知らない。けど、相当ひどいことされてたみたいでね」

「……ひどいこと」

「記憶飛ばすくらいだ。相当だろ」

「……そっか」


 ココアにネレイアの顔が映る。


「……たまに、眠れなくなる時があるみたいで」

「眠れ、ない?」

「そうだ。早朝の散歩をしてること、なかったかい?」


 ネレイアは視線を上に向ける。


「……そういえば。洞窟にいたころ、だけど。……朝早くに、洞窟内を歩いてた」

「そうか」

「うん。一緒に、願掛けしてくれて」

「ネレイアが一緒にいてくれたんだね。ありがとよ」

「ううん。私も、元気づけてもらったから」


 ミレーユは静かに笑う。


「寝不足が続くとね、大声とか鎖の音とか……縄を打つ音みたいなのが駄目になることがあるんだ」

「だめに?」

「うん。びっくりして、ごくたまにああなっちまう」

「びっくりして……」

「そうだよ。今日みたいな日は、後ろから近づかれるのも駄目なんだ」


 ネレイアは顔を上げ、ミレーユを見た。


「……私」

「あたしらが教えるの、遅くなっちまった。次から気を付けてやってくれ」

「……分かった。……私、どうすればいい?」

「普通にしてやって」


 ミレーユは笑う。


「普段は大丈夫なんだ。うちの人も声でかいし、背中ばしばし叩くし。でも、平気だろ?」

「……うん」

「ほんとにたまに、昔の傷が疼くみたいでさ」

「……たまに」

「そうだよ。うたたねが増えた時は、気を付けてやんな」

「うたたね?」

「ああ。釣りしてんのに、歌ってなかったろ?」

「うん」

「歌バカが歌ってる時は平気さ」

「……歌バカって」

「事実だろ」

「……そうだけど」


 ネレイアはくすくす笑う。


「……じゃあ、レオがうたたねしだしたら、寝かしつけた方がいい?」

「本人に聞きな」

「はあい」

「さて、停泊の準備だ。手伝っておくれよ」

「うん。先に港、見てくるね」

「気を付けるんだよ」


 ネレイアはぱたぱたと駆け出す。


「走ると息が切れるんだろ?」

「これくらい平気!」

「声が大きい」

「あっ」


 ネレイアは口を押さえつつ、「行ってくるね」と海へと飛び込んだ。

読んでくださりありがとうございました。評価、いいね、ブックマークをしてくださると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。