第16話 新しい乗組員
翌日。セイルヴィアの空は青く晴れ渡っていた。たくさんの避難民たちが見送りのために港に出てきている。海へと視線を向ければ、人魚たちが見送りに来ていた。
「……約束の金貨だ」
「確認するよ」
ミレーユが金貨を確認する横で、ノエルとガルドが人魚の工芸品を積み込んでいる。
「これも持っていけ!」
「これも、これも!」
「そんなに乗り切らないっす!」
レオは静かに視線を向けると、「ノエルを困らせないで」と笑った。
「……レオ」
顔を上げる。声をかけたのは、エドガーだった。
「……行くのか」
「うん。僕は、アレグ海賊団の航海士、レオナールだ」
「……そうか」
二人の間を海風が通り抜ける。
「……いつでも、帰ってきていい」
「……うん」
レオは静かに何かを考え込む。少し考え込んでから、口を開いた。
「……ねえ、船長」
「どうした?」
「……セイルヴィアの港を拠点にするの、だめかなぁ」
「いいぞ。こんないい港、拠点にしないほうがもったいねえ」
「……ありがと」
エドガーはアレグを見る。そしてゆっくりと口を開いた。
「略奪だけは、遠慮してくれ」
「おう。というか、そもそもやってねえ」
「……やってない?」
「うちの仕事は商船の護衛とか、危険な航路の案内さ」
「後はせいぜい荷運び、ってとこっすねー」
「……なぜ、海賊なんだ……?」
「正規の武装船じゃねえからな」
アレグは豪快に笑う。ミレーユも「略奪はコストばっかかかる。うちみたいな小さいのだと、どうしてもね」と笑っていた。
「……海賊の定義が分からなくなってきた」
「安心しな。うちは特殊例さ」
後ろで「もういいっすよー!」というノエルの声が聞こえる。
「残りはわが国で買い取るから、それくらいにしておきなさい」
「はーい」
エドガーの言葉に、人魚たちは大きく返事をする。その時、とたとたという足音が近づいてきた。ネレイアだ。彼女はそっとレオの手を握る。
「……レオ、行っちゃうの?」
「うん。……僕は、海賊だから」
レオは静かに答える。……だが、手には少しだけ力が入っていた。
「……レオ」
「何?」
「……ついて行っても、いい?」
「……シレネさんが、何ていうか……」
「いいわよぉ」
海からおっとりとした声が響く。シレネの声だ。
「レオくんのところなら、安心だわ〜」
「……陸だと息が切れるでしょ」
「じゃあ、泳いでついてく」
「……夜の海は危ないよ。サメとかシャチとかに食べられちゃうかも」
「じゃあ、夜は船で寝る! ロープだけ降ろして」
「それなら、縄ばしごを下ろすけど」
レオはアレグへと視線を向けた。
「……船長に、確認しないと……」
「えっと、こういうときは、エイギョウだよね? えっと、えっと! 魚とか貝とか取ってこれます! 海の中も見てこれます! 後は、人魚の歌、いっぱい歌えるよ!」
「例えば?」
「魚寄せの歌に、魔物よけの歌。勇気の歌に、セイレーンの逆さ歌!」
「よし、採用!」
「やったー!」
ネレイアは両手で万歳をする。
「またあたしに相談しないで……」
「やったっす! 初めての後輩っすね!」
「……騒がしくなるな」
海賊たちは笑う。レオも「……これから、よろしくね」と笑った。
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