第14話 勝利の宴
「今夜は飲むぞ!」
「おー!」
セイルヴィア王宮の大広間に、まだ使える椅子と机が並べられていた。肉や魚などのごちそうが、大皿に盛り付けられている。ミレーユの作ったバター焼きもあった。
「酒は持ったかぁ?」
「はーい」
セイルヴィアの人たち、ティアマールの人魚たち、そしてアレグ海賊団の面々が手に持ったジョッキやグラスを掲げる。
「クラーケン勝利を祝って! 乾杯!」
「かんぱ~い」
ガツンガツンとグラスやジョッキがぶつかる。「ぷはーっ」という声が、あちらこちらから上がった。
笑い声が弾み、焼きたての魚の香りと酒の匂いが大広間いっぱいに広がっていく。
「ねえねえ、バター焼きってなあに?」
「これ。おかみさんの作るバター焼きは、本当においしいんだ」
「とってとって!」
「いいよ」
レオはネレイアのお皿にバター焼きを取る。ネレイアはスプーンで魚をすくい、ぱくりと口に含んだ。
「ん〜! 美味しい!」
「でしょ?」
レオは笑う。その隣では、ノエルが「ずるいっす! それ、オレの肉っすよ!」と手を伸ばしていた。
「船長特権だ」
「ずるいっす! 姐さん、言ってやってくださいよ!」
「みんなの肉だよ。ノエルも独り占めしない」
「……っす……」
ノエルがしょぼんと肩を落とす。その時、エドガーが「レオ」と声をかけた。
「……飲んでいるか」
「うん。……えっと」
「……好きな呼び方でいい」
「じゃあ、おじさん。おじさんも、飲んでる?」
「ああ」
「おじさん、お疲れさま」
「そちらこそ」
エドガーは小さく笑って、自分のグラスを軽く合わせた。
ジョッキを傾けていたレオは、唐突にハミングを始める。
「お、レオのリサイタル、始まったか」
「……リサイタル?」
「観客がいようがいまいがお構いなし。一人で勝手に歌ってるリサイタルさ」
「セトリもレオさんの気分次第! リクエストならお早めに!」
「……酔うと、話を聞かなくなる」
「……そうか」
「……変わらないな」とエドガーは笑う。
「そうなんすか?」
「ああ。一度歌い始めたら止まらない。よく『式典のときはやめなさい』と、兄上や義姉上に怒られていたな」
「あったね。一緒に歌ってたから、私も怒られてた」
ネレイアはくすくす笑いながらジュースを飲む。
「お酒って、どんな味なんだろ」
「君はまだ未成年だ」
「分かってるよぉ」
ネレイアは唇を尖らせる。その時、レオの歌声が響いた。
「海原に差す白い帆よ、船乗りの歌は海に乗り」
エドガーはぴたりと動きを止める。セイルヴィアの人々は一斉に顔を上げた。
「……その歌、は……」
「あ、レア歌っすね。本当に気分いい時しか出ないやつっす」
「……そうか」
「なんすかね、これ」
「……セイルヴィアの、国歌だ」
喧騒は止まる。皆、ただレオの歌を聞いていた。
「……王子の中にも……残って、おりましたな……」
誰かがぽつりとこぼす。歌は、静かに続いていった。
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