↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/19

第10話 帰ってこれたから

 そろそろ船の完成が見えてきた日の、まだ太陽が昇っていない早朝のことだった。レオは一人、洞窟の中を散歩していた。


「……」


 鞭が空気を裂く音が、まだ耳の奥に残っている。ただの夢だ。そう分かっている。分かっているのに。


「……はぁ」


 皆が眠っているためだろう、洞窟内では、レオの足音だけが響いている。


「……こういうときは、騒がしいくらいがちょうどいいんだけどな……」


 体も冷えてきたし、そろそろ戻ろうか。そう考えたときのことだった。


 ——ぴゅ、ぴゅ〜。


 レオは思わず足を止める。船乗りの笛だ。自分の居場所を知らせる合図の音。

 音は弱く、とぎれとぎれに震えている。レオはなんとなくそちらに足を向けた。

 空へぽっかり開いた洞の岩場には、満ちた潮が小さな水鏡を作っていた。そこで、ネレイアが一人笛を吹いている。


「……なるほどね」

「……だって、人魚だもん。強く吹き込めない」

「知ってる」


 レオは笑い声をこぼし、そっと隣に座った。


「船乗りの笛、知ってたんだね」

「……昔、レオが教えてくれた」

「そうだったんだ」


 レオは首を傾げて「迷子?」と笑う。


「違うもん」

「ごめんごめん。……じゃあ、なんで?」

「……願掛け」


 ネレイアの言葉に、レオの笑みがふっと消えた。


「願掛け?」

「うん。……私たちはここにいるよって。……そしたら、みんな帰ってくるかもしれないから」

「そっか」


 レオはちょっと考えて、ポケットをまさぐる。


「あ、あったあった」

「笛?」

「うん。僕も、一緒に吹いていい?」


 ネレイアは静かに笑う。


「……レオの笛だったら、届くかも」

「ネレイアの笛も、届いてるよ。……僕も、帰ってこれたから」

「……そっか」


 ネレイアは笑って笛を吹き始める。レオも笛を構えた。


 ——ピッ、ピーッ!


 まっすぐ空気を切り裂く、力強い笛の音。その音に寄り添うように、柔らかい笛の音が重なる。

 空へ開いた穴から、星が一雫こぼれ落ちた。

読んでくださりありがとうございました。評価、いいね、ブックマークをしてくださると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。