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『絶対に、家へ帰る。』── 帰れないと言われたので、帰ることにした。  作者: M006
境界の向こう側へ

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2/9

護衛は異形、治療は噛みつき

どれだけの時間が経ったのだろう。


ふと意識が戻ると、見覚えのない荒涼とした道の上だった。

なぜ、こんな頼りない街道をトボトボ歩いているんだ。


ただ、あの時……脳内で鳴り響いたアナウンスのせいか、不思議と頭は驚くほど冷静だった。

というか、あらゆる物事がどうでもいい。


ふと、後ろを振り返る。


いつの間にか二匹のモンスターが、まるで最初からそこにいたかのように静かにこちらを見上げていた。


(……なんか、増えてね?)


カサカサカサカサ……と不穏な足音を立てる多足歩行肉塊――個体識別名『M001』。

ぬちゃ……ぬるぬる……と這い寄ってくる淡い桃色半透明の触手軟体塊――個体識別名『M002』。


客観的に見れば悪夢のような光景だが、今の俺の視界は、プロテクトがかかったみたいに奇妙なことになっていた。

こいつらの特にエグい部位――おぞましい無数の目や口のあたりに、まるで映像の自主規制みたいな粗いドットや不規則な破片がチラチラとかかっているのだ。


(……なんかボカシもかかって見えるな)


スキル?『モザイク』の効果はこれか。

視覚的なグロテスクさが物理的に遮断され、さらに『精神保護』が強制的に脳を平穏に保つ。


(……ま、いっか)


背後にラスボス級のヤバい異形を二匹も従えているというのに、俺の心は驚くほど穏やかだった。道端の花とか流れる雲をのんびり眺める、謎の「心の余裕」すらある。

脳がバグるって最高だな。


(……ん? なんか変な気配がした。 この先、確かEランクくらいの魔物か――)


──そこで思考が止まった。


(……待て) (“Eランク”って何だ?) (しかも“この先”って……なんで俺、ルートを知ってるんだ?) (冒険者ギルドにも行ってないよな……?) (……は? 何これ。なろうかよ)


……どうやら認識汚染とやらのせいで、俺の頭は時系列ごとグチャグチャになっているらしい。


その時、ガサッと街道の茂みが激しく揺れ、獰猛な小型の魔獣が飛び出してきた。

鋭い牙を剥き、俺の喉元へ跳躍する。


ドガッ!!!!(凄まじい肉塊の衝突音)


「キェーギュギュギュギュッ!!」と意味不明な咆哮を上げながら、モザイクまみれのM001が俺の前に割り込み、凄まじい質量で魔獣を吹き飛ばした。魔獣は一撃で絶命。俺を守る盾としてはこれ以上ないほど有能だった。


だが、強引に割り込んだせいで、M001の禍々しい肉体の一部がピキピキと裂けた。

黒い不気味な液体(体液)がドクドクと流れている。もちろん、そこにもデジタルモザイクが激しく明滅している。


と、その瞬間。

俺の視界に、妙なログがノイズと共に割り込んできた。


【概要】

主(有馬 透)への影響を避けるため、 本来の出力を極限まで抑えた肉体を生成。


【結果】

シミュレーション誤差により損傷。


【補足】

M001は『計算高い貞淑な乙女』です。

心配されることを密かに期待しているようです。


(計算高っ……! ていうか、わざと食らったのかよ)


わざわざ俺のために出力をギリギリまで絞った体を作って、しかも「心配してほしそうに」モザイクをガクブルと震わせている。


「(ダイジョウブ……?)」


脳内に直接届く、おぞましい質感。


【システム通知】

高次元精神波を受信。

※対象(M001)は『可憐なガクブル表現』を試行中。

脳組織が弾け飛ばないよう細心の注意を払い、思念出力99.999999%カットして安全に接続中とのことです。


(いやいやいや……そのおかげで俺の脳が無事なのは分かったが、どう見てもダイジョウブじゃないのはその傷口だし、そもそもガクブルの使い方違うから! というかドクドク血を流しながらのガクブルは逆に怖いわ!!)


すると、もう一匹のうねうね触手(M002)が、ゆっくりと俺に近づいてきた。

そして、負傷したM001には目もくれず、あろうことか俺の右腕に思いきり噛みついた。


ガブッ!!!


「痛っ」


強制パッシブ痛覚鈍麻のおかげで注射器レベルの痛みだが、普通に噛まれている。


直後、M002の全身がピカァァァァと神々しく発光した。すると不思議なことに、身を挺して傷ついたM001の肉体の裂け目が、一瞬でツルツルに塞がっていくではないか。


(……待て待て待て。おかしいだろ)


なんで傷ついたアイツじゃなくて、無傷の俺を噛むんだよ。


「おい、M002。なんで俺を噛んだ」


「(ナオシタ)」


なんか、さらにうねうねしだしたぞ。


「いや、お前が治したのはM001の傷だよな?」


「(……)」


「なのに、なんで俺の腕を生贄みたいに噛んだんだよ」


「(プルンシタ)」


他者を治療する時、なぜか俺、有馬透が物理的ダメージを受ける件について。


……会話が1ミリも成立しなかった。


空は、どこまでも青く澄み渡っていた。




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