異世界への転移と、サイアクの出会い
風が吹いていた。
どこまでも続く広大な草原。
抜けるような青い空と、白い雲。
小鳥のさえずり。
まるで絵本から飛び出してきたかのような、のどかな景色だった。
「…………」
俺――有馬 透は、草の上に大の字で倒れていた。
さっきまで学校の教室にいた……はずだった。いわゆる異世界転移というやつだろうか。だが、そんな状況に驚くよりも先に、「それ」に釘付けになった。
目線から、わずか十数メートル先……。
平原に風が吹く。
草が心地良さそうに揺れている。
だからこそ。
その存在は異質だった。
「……」
「…………」
そこにいた。
――言語を絶するナニカが。
足が多い。
目も多い。
口まで多い。
何一つ安心できる要素がない。
しかも図体は、大きくもあり小さくも見える。
頭が変になりそうだった。
(だろ……これ、夢だろ……っ、絶対……っ)
顔面らしき不定形の肉塊には、どこが口なのか分からないほど無数の裂け目が蠢いていた。
一言で表現するなら、グラフィックが完全にバグり散らかしたグロテスク生物。見れば見るほど精神衛生上よろしくない、SAN値(正気度)がゴリゴリ削られる見た目だった。
腰から下の力が完全に抜けていた。足が、地面に縫い付けられたように何故か1ミリも動かない。
お互いに見つめ合う。
沈黙。
風だけが虚しく吹き抜ける。
(……帰りたい)
恐怖のあまり目を逸らした、その瞬間。
初々しい女子のように、そのグロテスクな全身が、ぴくんっと可愛らしく震えた。
直後、脳内に無機質なシステム音声が鳴り響く。
【警告】
個体識別名『M001』
高次元存在との接触を確認
精神崩壊の危険性:極大
緊急保護プロトコルを再実行します
【特例スキル取得】
『モザイク Lv.1』
【精神保護パッシブ:強発動中】
『超鈍感力』
『痛覚鈍麻』
『■■■■■■■』
『■■■■』
『■■■■』
【追加エラー】
認識汚染〈強〉を確認
時間因果律に異常
不完全な未来予測が発生
(あ、これ、脳がヤバいことになってるやつだ……)
俺の意識は、そこで暗転した。




