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高天原異聞 ~女神の言伝~  作者: ラサ
第一章 甦神ーよみがえる神々ー

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9 怪談 



 不意に、神々の存在――

 神気(しんき)が大気に揺らぎ、満たされた。


 ひとつ。


――女神は記憶を取り戻せぬままだ。


 再びひとつ。


――黄泉返りしたから、記憶は失われたようだ。


 もうひとつ。


――我々の神気に触れても、思い出さぬところを見ると、そのようだな。


 またひとつ。


――案ずるな。男神と交合(まぐわ)えば、いずれ記憶も戻るだろう。

  それとともに、我らの神威(かむい)も完全に甦る。


 さらにひとつ。


――戻らなければ?


 重ねてひとつ。


――それでも、我々の大事な(みこと)であることは間違いない。


 あらゆるひとつが呼応した。


――違いない。


 神々の神気が次々と増える。


 女神と男神の帰還により、

 様々な神々が目覚め始めた。


 神気が揺らぐ。


 神威が満ちる。


――豊葦原(とよあしはら)の中つ国に黄泉(よみ)の気配がする。


――我々の領界に、黄泉神々(よもつかみがみ)が入り込んだ。


――高天原(たかまがはら)の気配もだ。


――天津神々(あまつかみがみ)の気配は未だわずかだ。

  神代のとおり、天津神々は最後だ。

  それよりも、黄泉神々に気をつけろ。

  奴らは再び女神を狙う。


――今度こそ、奪われてはならぬ。


――我らの命を、今度こそ護るのだ。


――女神の記憶と神威が戻るまで、決して黄泉神々を近づけてはならぬ。


 言霊が響く。


 不完全な神気が揺らめく。


 神威が再び大気に満ちて散った。



 後には密やかな沈黙のみ――






 ちょうど学生には昼休みに当たる時間、

 莉子が突然思い出したように声を潜めて言い出した。


「知ってる? 美咲先生。今、校内でお化けが出るんだよ~」


「お化け? まさか」


「本当だよぅ。

 学校の七不思議の一つにあるよ。

 ずっと昔、旧校舎だった頃、

 プールで溺れて死んじゃった男子生徒の幽霊」


「――それ、どこの学校にでもある作り話じゃない?」


「違う違う、うちのはホンモノ。

 足引っ張って溺れさせた友達を探してるんだって。

 朝来たら机と椅子がプールの水で濡れてるって。

 ちょーこわ~い」


「だから、暗くなったら校舎に残ってちゃだめだよ」


 美里がさらに付け足す。


「普通棟は4階まで来たらしいから、次は特別棟だよ。

 図書館は普通棟と特別棟の渡り廊下だから、

 特別棟が終わったら、来るかも。

 塩素の臭いしたらすぐ逃げてよ」


 美里の低い声は、十分に怖さを醸し出していた。


「怖いの嫌いなのに、そんな話しないでよ」


 莉子が美咲の腕にしがみつく。


「あたし達もきらーい。

 でも、何でか、こーいう話はみんなとしたくなっちゃうんだ」


 今時の女子高生はこんなに人懐こいものなのだろうか。

 戸惑いながらも懐かれて嫌な気分はしない。

 妹がいたらこんなものなのかと、

 美咲は女子生徒の好きにさせていた。


「はいはい、噂話はここまで。

 本を借りたら速やかに戻るか、静かに読んでいきなさい」


 司書教諭の山中がひょっこりとカウンター奥の

 事務室兼図書準備室から顔を出す。


「はぁーい」


「美咲先生、またね~」


 ひらひらと手を振って、

 二人は校舎へと向かう渡り廊下へと消えていった。


「すみません、山中先生。

 うるさくしてしまって」


「いいのいいの。

 あの子達はただ、じゃれたいだけなんだから。

 藤堂さんが本を薦めてくれたおかげで大分落ち着いたわ。

 これからもお願いね。

 うるさいけど、根はいい子達だから相手をしてあげて」


「は、はい」


「それより、藤堂さん、書庫から資料を探してきてくれる?

 ここにメモしてあるから」


「はい」


「量が多いから助っ人を――お、タイミングいいな。

 時枝君、手伝いよろしく」


「いいですよ」


 返却本を書架へ返し終わり、

 戻ってきた慎也が山中からメモを受け取る。


「これ見つけてくればいいんだね」


「そう。

 藤堂さん一人だと時間かかるから、二人でよろしく。

 二人なら三十分ぐらいで終わるでしょ。

 昼休み終わるまでにはできるよね」


「了解」


 カウンター奥の引き戸を開けると、美咲を待つ。


「どうぞ、美咲さん」


「どうも――」


 視線を合わせないよう美咲はさっさと書庫に入る。

 引き戸が閉められると、

 階段を上るところで慎也が後ろに追いついた。


「何か、モテモテだね、美咲さん」


 少し面白くなさそうに慎也が呟く。


「ちょっとおしゃべりしてただけよ」


「だって、俺が話しかけると人目を気にしてそっけないくせに、

 他の奴らだと態度が違うじゃない。

 そんなんだと、かえってばれると思うけど」


 階段を上りきった所で美咲は振り返った。


「そんなにあからさま?」


「めちゃくちゃあからさま。鈍い奴でも気づくよ」


 肩を竦めて、慎也は吐息混じりに答える。


「だから、もう少し俺にも話しかけてよ」


「む、無理よ。今だって、精一杯なのに」


 慎也を見ると、目を離せなくなるのは自分のほうだ。


 目が合うと胸が高鳴る。


 熱を帯びた視線が自分に向けられるのがすぐにわかるからだ。


 軽く溜息をつくと、慎也は階段を一歩上がって距離を詰める。


 美咲の顔を下から覗き込んで言う。


「ちなみに、うちの学校の七不思議って、

 本物らしいよ」


「嘘っ!?」


「ホント。

 肖像画の音楽家の目が動くとか、

 誰もいない体育館でボール突く音とかって、

 ありきたりな話じゃないし。

 この学校、校舎自体は新しいけど、

 旧校舎を順に改築していったから、

 そのままの敷地だし、

 昔の間取りも変えてないしね」


 美咲も、この学校の七不思議なら

 すでに聞いて知っていた。


 学校にはこの手の怪談はつきものだ。



 特別棟三階の踊り場。


 講堂。


 グラウンド手前の桜の木の下の芝生。


 職員室隣の金庫室。


 普通棟から続く体育館への渡り廊下。


 プール。


 そして、図書館の書庫。



 これら全てにいわくつきの怪談話が伴っている。


 確かに、この書庫も、古い造りだ。


 静まりかえった書庫に漂うひんやりとした空気。


 背筋がぞくぞくする。


「そんなこと言われたら、

 次から一人でここ来れないじゃない!」


「いいよ。

 ここには、俺がいつもついてくから」


 笑いながら、階段を登りきると、

 慎也は美咲の手を優しく取る。


 まっすぐ進んでから右に曲がり、

 美咲を壁側に隠すように引き寄せ、

 優しく抱きしめた。




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