今だから話せる最恐実話怪談/表に出せないヤバい話~恐怖の現場体験~(2003年青竹書房ムック刊)
(前略)
冴島:それとね、自分は若い頃はいろんな仕事をやっていてね。造船の現場なんかにも出入りしていた時期があったんだ。その時に関わった船の一つがあの『パシフィック・カルナヴァル号』だったんだが……あれはもう、最初から相当不味い船でしたね。現場の人間は「あんな縁起の悪い船には誰も乗りたくない」って口々に話してましたから。
ライター:それは構造上の欠陥があったということですか?
冴島:いや、構造上の欠陥ってほどの大層なもんじゃなかったはずだよ。ただまぁ、建造が始まったのがバブルの真っ盛りだったからね。内装も青天井で豪華に作ろうってんで、中央ホールなんかは物凄かった。十メートルはありそうな巨大なシャンデリアがきらきら輝いてね。ありゃあ船っていうより「浮く御殿」だったね。
だが途中でバブルが弾けて風向きが変わった。あんな金食い虫の船は作れないってんで土壇場で仕様変更されて、あちこちが急激に安っぽくなっていった。玄関だけが豪華な大邸宅で、奥に入ると安価なビジネスホテルみたいな歪さだよ。まぁそれでも、クルーズ客船という建て前があるから、一見すると豪華に見えるよう取り繕ってはいたけどね。
ライター:現場の人間が「不味い」と言っていたのは、その仕様変更のせいですか?
冴島:いや、問題はそこじゃない。「船魂入れ」ですよ。ライターさん、船魂様って知ってますか? 操舵室なんかにある神棚のことですが。
ライター:ええ、知っています。船の守り神ですよね。
冴島:そう。昔の木造船ならマストの根元をくり抜いて祀ったんだが、今の鉄鋼船だと神棚の奥や操舵室の柱の中に「船魂穴」を作ってご神体を納めるんです。神主さんを呼んでお祓いをして、船魂様にお供え物をする。その中身が何だか知ってますか? 女性の黒髪に、刺し櫛、それと「サイコロ」を二つ納めるんですよ。
ライター:女性の髪と櫛……ですか。なんだか不気味ですね。
冴島:ええ、気味が悪いでしょう。だがこれには理由がある。船ってのは世界共通で『女性』として扱われるんです。英語でも船を「She」と呼ぶでしょう? アジアでも同じでね、海の守り神である「媽祖様」という女性神から来ている。だから、船魂様も女性の神様なんです。女の神様だから、お化粧道具代わりに髪や櫛を捧げてご機嫌を伺うわけです。
ライター:サイコロというのはどういう意味なんでしょう?
冴島:海の上なんてのは最終的には「運」ですからね。二つのサイコロの目をどう振っても合計が「七」になるように作られた特殊なサイコロを入れてね。「四方八方の災難を振り払う」という願掛けですよ。
……でね、あの『カルナヴァル号』の船魂入れの時なんです。
ライター:何かあったんですか?
冴島:神主さんが乗船して祝詞をあげ始めたんだがね。途中で突然、喉を「ウ、ググッ」と詰まらせて、その場に蹲まった。と思ったら、ゲェゲェと呻き声をあげて何かを吐き出し始めたんです。何だと思います?
ライター:……想像もつきません。
冴島:女の髪ですよ。濡れた長い女の髪が、神主の口からズルスル、ズルズルと……いくら手で引っ張っても途切れずに溢れ出てくるんです。あの人は自分の吐き出した髪で喉を詰まらせて、目を血走らせて暴れ回ってね。あの光景は本当に生きた心地がしなかった。
ライター:その神主さんはどうなったんですか?
冴島:そのまま窒息しかけて救急車で運ばれていきましたよ。……助かったのかどうかは知りませんね。
ライター:それでは、船魂入れの儀式は途中で取りやめに?
冴島:俺が知る限り、やり直したという話は聞いていないね。つまりあの船はね、船魂様をお迎えしないまま、魂の入っていない「空箱」の状態で進水式を迎えたんだと思う。
そりゃあ罰も当たるってもんだよ。進水式で係留索が切れて人が何人も死んだだろ? あのニュースを聞いた時も、驚きより「やっぱりな、さもありなんだ」という気持ちが先に来たからね。
ライター:神様にお断りされた船、ということでしょうか。
冴島:断られたどころじゃない。あれは神様に許されていない船だ。最初から、絶対に海へ出しちゃいけない船だったんだよ。
ライター:それじゃあ『カルナヴァル号』が行方不明になったと聞いた時も「やっぱりな」と?
冴島:うん、そうだね。やっぱりなって思ったよ。出航した後にも殺人事件が起きたって話だろ? そこでやめときゃ良かったんだよ。船に乗った連中はどこに行ったのか。まぁろくな場所にはたどり着けないだろうね。本当に恐ろしい話だよ。




