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現代の幽霊船パシフィック・カルナヴァルに思いを馳せる/月刊『さぼたー樹』2014年6月号

 古今東西、幽霊船の噂は人々の心を惹きつけて離さない不可思議な魅力を放っている。

 つい数年前にも『リュボーフィ・オルロワ号』という漂流船がアイルランドに漂着するかもしれないという話題が世間を騒がせたことも記憶に新しい。

 『リュボーフィ・オルロワ号』は1976年にユーゴスラビアで建造され、ロシアの豪華客船として運用されていた船だ。しかし所有者の負債が膨らんだため、2010年にカナダ当局により差し押さえとなる。

 その後、解体のために曳航される最中、荒天によりロープが断線。無人のまま大西洋へと漂流を始めた。カナダ当局は当初、この船を追跡していたものの途中で見失い、海洋石油プラットフォーム等との距離も離れていたため“脅威度なし”と見なし、それ以上の追跡を断念した。こうして『リュボーフィ・オルロワ号』は大西洋のどこかで静かに沈没したであろうと推測されていた。


 ところが2013年になり、同船に積載されていた救命いかだの非常用位置指示信号(EPIRB)が突然作動。これにより、船体はいまだ沈んでおらず、アイルランド沖を目指して漂流を続けていることが判明したのだ。乗組員不在のまま大西洋の3分の2に等しい距離を漂い続けていたという事実は、世界中のメディアに大きな衝撃を与えた。

 中でも世間を激震させたのは「船内が『共食いネズミ』たちの巣窟になっている」という報道だろう。

 港に係留されていた間に侵入した大量のネズミが、大西洋を彷徨う間に残留食料を貪って爆発的に増殖。やがて食料が尽きると壯絶な共食いを始め、狂気と飢餓を生き延びた凄惨なネズミの大群だけが蔓延る“地獄の船”と化しているというのだ。

 筆者もこのニュースを聞いて続報に目を光らせていたが、残念ながら今日に至るまで同船の確実な目撃情報は途絶えている。果たして『リュボーフィ・オルロワ号』は今も闇の海を彷徨い続けているのか、それとも大量の共食いネズミとともに冷たい海底へ沈んだのだろうか――。


■バブルの残骸『パシフィック・カルナヴァル号』の呪い

 さて、視点を我が国へ向けてみよう。日本国内においても、長年にわたって目撃され続けている「現代の幽霊船」が存在する。その名も『パシフィック・カルナヴァル号』である。


 同船は1990年、バブル景気の絶頂期に豪華クルーズ船として起工された。しかしわずか2年後、バブル崩壊の直撃を受けたことで造船所と船会社の間で支払いトラブルが発生し、工事は一時中断。

 1994年に運営元が香港の投資ファンドへ売却され造船が再開されるも、この時点で内装や構造面で大幅なコストカットが行われたと言われている。

 翌1995年、ようやく完成を迎え進水式が行われることとなったが、ここでも惨劇が襲う。式典の最中に巨大な係留索(もやいロープ)が突然破断。弾け飛んだロープに巻き込まれた式典参加者7名が死亡、13名が重軽傷という凄惨な事故が発生したのだ。この事故の煽りを受けてか運航会社は間もなく破産し、『パシフィック・カルナヴァル号』は横浜のドックで3年間にわたり棄てられたように放置されることとなる。


 後に幽霊船として知られる船の多くは、その建造当時から度重なる不吉なトラブルに襲われている。まるで「この船を海に出してはならない」という天からの警告のように感じるのは、決して筆者だけではあるまい。

 だが、他の悲劇の船たちがそうであったように、この『パシフィック・カルナヴァル号』もまた、死の海へと押し出されることとなる。


■1998年、博多港沖での忽然たる消失

 1998年、『パシフィック・カルナヴァル号』は新興リゾート企業「ミヤビ・クルーズ株式会社」によって買収され、ついに念願の処女航海を迎えることとなった。

 航路は横浜港を出港し、瀬戸内海を経て博多湾へ。そこから済州島や香港を巡り、奄美・沖縄を経由して再び横浜へと戻る豪華グランドクルーズ。

 しかし、博多港を出港した『パシフィック・カルナヴァル号』が目的地に到達することは二度となかった。船は東シナ海へ向かう洋上で、一切のSOSも打電しないまま、忽然と姿を消したのである。


 事故当時、周辺海域に目立った気象異常はなく穏やかな晴天であった。ダウンバースト等の局地的な突風が発生した痕跡もなく、それにもかかわらず2万8000トン級の巨大客船が、SOSはおろか救命具や油膜ひとつ残さず消え失せてしまったのだ。

 同船には当時人気絶頂だったタレントの佐久間幸太郎氏や、人気脚本家の俵崎新之助氏なども乗船しており、連日マスコミによる大捜索運動が報じられたものの、船体の残骸すら発見されないまま捜索は打ち切られた。


■20年漂流し続ける「虚無」

 さらに不気味なのは、この『パシフィック・カルナヴァル号』の消失から20年近くが経過した現在でも、沖合での目撃情報が後を絶たない点である。中には「夜間の航行中に無灯火の巨大客船とすれ違った」という漁船からの通報を受け、海上保安庁の巡視船が現場へ急行したという都市伝説めいた話まで存在する。


 果たして、あのバブルの徒花のごとき『パシフィック・カルナヴァル号』は、今も常世の海を彷徨い続けているのだろうか。

 もしそれが真実であるならば、――華々しいバブルの虚飾の夢を乗せたまま漂う巨大な鉄の城には、一体何が巣食っているのだろうか。

 胸が高鳴るような、そして背筋が凍りつくような不吉な高揚感を抱くのは、決して筆者だけではないはずだ。

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