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【洒落怖】裏バイトでとんでもない船見つけたんだが/後編(初出2007年頃/まとめサイトより転載)

5:5/8

ひーこら言いながら外階段を上がって9階までたどり着いた。

やっぱり霧が凄まじくて、そこから見下ろすとさっきまで乗ってた漁船の灯りすらほとんど見えなくなってた。

壁のフロアマップによると、9階にあるのはペントハウススイートが10室に、カフェラウンジとバーなんかがあるらしい。


船内に入るためには、水密ドアのゴツい防水ハンドルを回す必要があった。

ハンドルに手をかけながら、心の中で「頼むから開かないでくれ」って必死に念じてた。

開かなかったら、船内に入れないことへの言い訳になるからさ。

実際、掴んだ瞬間は錆びついててまず無理だろうなって思ったんだ。

けど、体重をかけて力をいれてるうちにギギギ…って段々と回り始めて、……結局、開いちゃったんだよ。

なんであの時あんなに頑張っちゃったんだろうって、今でも後悔してる。


廊下に入ると、ずっと密閉されてたからか意外なほど綺麗な状態だった。

足元の絨毯なんかはほとんど色あせてなくって、何ていうか、昭和のバブル期の高級ホテルみたいだった。

廊下にはずらっと豪華なドアが並んでて、それがペントハウススイートの部屋だった。

で、廊下の突き当りにはガラス製の観音扉があって、そこにバーとカフェラウンジがある。

昼間はカフェ、夜はバーになりますよっていう方式らしかった。


6:6/8

当然だけど中は真っ暗だから、手持ちの懐中電灯の灯りだけが頼りになる。

覚悟を決めて、手前側の部屋から順に見ていくことにした。

どうせ鍵がかかってて開かないだろうなって思ったけど、やっぱりここも開いた。

古い豪華客船だからか分からんけど、カードキーとかじゃなくて普通の鍵タイプのドアで、なぜか施錠されてなかった。

部屋に入るのはかなり覚悟がいった。ドアの向こうに死体があるかもしれないから。

ドアを細く開けて恐る恐る中を覗き込んでみると、部屋の中もほとんど荒れてなかった。


本当に、驚くほど荒れてなかったんだ。

例えばこの船が事故かなんかで遭難したとしたら、船内って多少なりとも荒れると思うんだよ。

もし俺がこの船に取り残されてたら、パニックになって枕を投げ飛ばしたり家具を倒したりしたと思う。

いや、もしかして難破船になっただけで乗客は全員無事に逃げ切れたのかな?とも思ったけど、それにしては私物ががっつり残ってた。

詳しく書くと足がつくからあんま言えないけど、高級時計とかネックレスとか、そういう一目で高いとわかるものが机の上に普通に放置されてた。


俺は一部屋ずつ回りながら、金目になりそうなものをどんどん上着のポケットに詰め込んでいった。

不謹慎かも知れないけど、この時の俺はちょっと浮かれ始めてもいたんだ。

こんだけ金品を手に入れたんだから、バイト代も跳ね上がるかも知れないとか思ってた。

あと、ガチで小さいダイヤの指輪とか何個か飲み込んで、あとで自力で回収しようかとも考えたけど、相手が相手だから下剤飲まされるかもと思ってやめておいた。


一通り部屋を調べ終わったあと、突き当りのバーに入った。

ここはかなり埃が積もってて、懐中電灯の光の中でチラチラ埃が舞い上がってるのがなんだか綺麗だった。

バーの中央には黒塗りのグランドピアノが置かれてて、椅子はいくつか倒れてたけど、荒らされた感じではなかった。

カウンターの棚には見たこともないめっちゃ高そうな洋酒がずらっと並んでたけど、流石に重くて運ぶのは無理だから諦めた。


で、回れ右してドアから出ようとしたその瞬間、いきなり背後でピアノが低く鳴って、マジで心臓が止まりかけた。

多分、天井の埃か何かが鍵盤の上に落っこちただけだと思う。……思いたい。

でも本当、あの瞬間は恐怖で寿命が5年は縮んだ。


7:7/8

それからまた外階段に戻って、最上階の10階に上がっていく途中で、変な匂いに気が付いた。

何ていうのかな。甘ったるくて、でもどこか生臭いみたいな。

腐敗臭とは全然違うんだ。なんか、濃密すぎる花の匂いみたいな、ねっとりした異臭。


10階には操舵室と、スカイデッキ、それと屋外プールがあるらしかった。

デッキに出ると、360度完全に真っ白な霧に囲まれてる状態だった。

さっきよりもさらに霧が深くなってて、数メートル先すら見えない。

手を伸ばしたら自分の指先も見えなくなるんじゃないかってほどの濃霧だった。

そのせいか波の音や風の音もまったく聞こえなくて、ただ船体の錆びたマストが「キィ……キィ……」って鳴る音だけが不気味に響いてた。


懐中電灯の細い光だけを頼りにデッキを歩いていって、……プールにたどり着いた。

そこで、“それ”を見たんだ。


“それ”、としか言えない。今でも自分が何を見たのか分からない。

ただ“それ”は、間違いなく生きていたんだと思う。

プール一面に何かが詰まっていて、蠢いてた。

巨大な何だか分からない物体がプール一杯に広がっていて、ぐにゃぐにゃと苦しそうに、蠢いてたんだ。

あの甘ったるい嫌な匂いの正体は、絶対にそれだった。


俺はプールサイドで完全に腰を抜かして、しばらくの間、呼吸もできずに動けなくなってた。

でも、頭のどこかで「ここに居ちゃダメだ、喰われる」って本能が叫んでた。

だから、這いずるようにして必死にプールから離れて、……

そっからは恐怖でパニックになってて、よく覚えてない。必死に階段を駆け下りたんだと思う。


8:8/8

気付いた時には、自分たちの漁船に戻ってた。

ヤクザの船長は俺がかき集めてきた貴金属を見て満足したらしく、興奮しながら衛星電話で仲間に連絡を取ってた。

多分、もっとデカい船と人数を集めて、本格的に船全体を漁るつもりだったんだと思う。

俺たちはしばらくその海域で待たされて、後から何隻か別の船が来たところで、ようやく港へ帰された。

帰りに約束よりかなり多めの札束を渡されて、「この船のことは絶対に誰にも話すな」って何度も強く念を押された。


家に帰った後、いきなり高熱を出して倒れた。

たまたまオフクロが様子を見に来てくれなかったら、そのまま自室で死んでたかもしれん。

病院に緊急搬送されて数日間は生死の境を彷徨って、ようやく目が覚めたあとも半年ほどは原因不明の体調不良が続いた。

一緒に乗ってたゼミの先輩も具合が悪いって言い続けていて、かなり長いこと苦しんだらしい。

あの後、あの船を漁りにいったヤクザたちがどうなったかは知らない。

でも、多分……誰一人として生きて戻ってこれなかったんじゃないかと思ってる。


以上が、俺が体験した話。

落ちも何もないけど、厄落とし代わりにここに書き残しておく。

そうそう船の名前だけどな『パシフィック・カルナヴァル号』って書いてあったよ。

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