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世紀末物語~ヒトが生まれない惑星地球~  作者: 玉井 マリト
第一章

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3/6

交渉

 球体は、大気圏を通過して降りて来た。地球人側が指定した場所に。その場所は国連本部ビルの東側、イースト川。川面に銀色が反射し、美しく輝いている。球体の直径は、ほぼ30mで、驚いたことに空中に僅かに浮かんでいた。エンジン音などはしていない。非常に静かである。


 周囲の半径500mほどを立ち入り禁止区域とし、境界を国連平和維持軍の兵士たちが見張っていた。アメリカの軍や警察の支援を受けてはどうか、という案もでたが、事務総長のコビナは、それを良しとしなかった。可能な限り、地球人全体の代表であることにこだわったのである。


 情報発信は国連広報局が行った。世界中のマスコミが押しかけて、銀河系人を刺激しない為である。

 地球人よりも、圧倒的に進歩した文明を持つ相手には、最大限の配慮と警戒をするしかなかった。


 世界中の人々が、広報局から発信される映像に見入っていた。銀色の球体の映像に。


 コビナとルイーザは、交渉での内容について話し合っていた。最も重要なことは、子供が生まれる手段を得ることにあると。銀河系人は何らかの見返りを求めてくるかもしれない。その時はどうするか。場合によっては、非常に困難な決断を強いられるかもしれない。

 コビナはルイーザに言った。

「緊張しているかい?」

「この状況で、緊張しない人はいません」

「そうだな。でも緊張し過ぎないよう努力しよう。でないと、冷静な判断ができなくなってしまう。そう言う私も足が震えているがね」

「あら、私は震えていませんわ」

「そうか、それは頼もしいね」


 交渉開始時刻は正午。

 その3分前に球体から川岸に向かって、幅3m程の通路が、まるで銀のカーペットが伸びていくように現れた。着岸したカーペットの前に、コビナとルイーザが歩み出た。


 球体から、あのアジア人の少女の声がした。

「どうぞ、通路をお進みください」

 そして、自動ドアが左右に開くように球体に入り口が開いた。

 二人はゆっくりと通路に足を踏み出し、一歩一歩、慎重に歩いて行った。

 入り口手前で一旦立ち止まり、顔を見合わせ、小さくうなづき合った。それから球体内に入って行った。


 球体内部の通路はやや薄暗かったが、床が仄かに光っていたので、歩きやすかった。数メートル進んだところに、あのテレビ放送で使われた部屋があり、あの3人が待っていた。

 部屋の中央には白いテーブルが置かれ、椅子も用意されていた。


「ようこそ、私たちの船に出向いて下さり、感謝します。どうぞ、椅子におかけ下さい」

 と、少女が言った。

「こちらこそ、このような場を用意して頂き、ありがとうございます」

 と、コビナは答えた。

 銀河系人と地球人は、向かい合わせに座った。


 今度は白人女性が口を開いた。

「この交渉は、全地球にテレビ放送されています。地球人の皆さんに、真実を知って欲しいからです」

「わかりました。その真実に私たちも興味があります」

 と、今度はルイーザが答えた。


 黒人男性は、二人の前にそれぞれ水の入ったコップを置き、言った。

「喉が渇くでしょう。お飲み下さい」

「ありがとうございます」

 二人は礼を伝えた。


 少女が語り始めた。

「地球人は、他の知的生命体には無い、大きな特徴があります。それは、戦争を行うことです。そのような大規模な殺し合いを、銀河系人は行いません。戦争や侵略を表す言葉も存在しません。だから、私たちは地球人を脅威とみなし、長い間、監視してきました。そして準備をし、実行したのです。子供が生まれなくなるように」


 コビナは、やや感情的に言った。

「なんですって、あなた方は我々を滅ぼす気ですか?」

「無条件に絶滅させるようなことは、私たちの望みではありません。だからこそ、交渉に来たのです」

「地球人だけが戦争をする。それが真実ということなのですね」

「そうです。地球人は文明を進歩させ、やがては宇宙に進出するでしょう。そして、出会った銀河系人に対し、武力を行使し、滅ぼす可能性があります。私たち銀河系人は武力を持ちませんから」

「平和的な関係を築く可能性もあるでしょう? 必ず武力行使を行うとは限りません。地球人も平和を望んでいます」

「私たちは、地球人の歴史を知っているのです。そして学びました。地球人は危険な存在だと」

「…………」


「それで、子供が生まれる手段というのは、どのようなものなのですか?」

 ルイーザが問うた。


 白人女性が答えた。

「まず、凍結受精卵を用意し、私たちに提供してください。私たちはそれを持ち帰り、280日後に新生児としてお返しします」

 ルイーザは、また問うた。

「では、女性の不妊は治らないまま、ということですか?」

「はい、治りません。また、このシステムで地球人が子供を得るためには、ある条件を満たしていただく必要があります。それは、すべての戦争を止めることです。国と国との戦争だけでなく、内戦も含めてです。それと、すべての核兵器を処分してください」


 コビナは、目を閉じて考えていた。これは、地球上から戦争と核兵器を無くすチャンスであると。しかし、その代償があまりにも…………種の存続を銀河系人に委ねるとは、種として不完全な状態であり続けるということだ。何らかの希望があれば。


 そして目を開き、言った。

「わかりました。その条件を受け入れましょう。時間はかかると思いますが。ただし、こちらからも一つ要望があります。女性の不妊を治すための研究を続けさせて頂きたい」


 黒人男性が答えた。

「それは、実現が難しい要望ですね」

「禁じられても、必ず隠れて研究を続ける者はいるでしょう。種の存続は、すべての命ある者の、生きる目的です」

「その研究に政府が予算を与えることは、この交渉内容と矛盾が生じてしまいます」

 コビナは諦めなかった。

「では、政府とは無関係に、民間人が研究することだけは認めて頂きたい。政府は一切関わりません」


 銀河系人の3人は顔を見合わせていた。そして、少女が言った。

「確かにあなたの言う通り、種の存続は生きる目的と言えるでしょう。わかりました。民間の研究だけは認めましょう」


 最後に、黒人男性が言った。

「実は、あなた方地球人に報告があります。女性の生殖機能を調べる為に、ある一人の女性をお預かりしています。これは、彼女が自ら望んだことです。もちろん健康状態に問題はありません。ただ、地球には帰らないとの意志が強く、現在は冷凍睡眠の状態にあります」


 ルイーザが尋ねた。

「その女性の名前は?生殖能力はあるんですか?」

「ミライという名の日本人です。生殖能力は、あるはずです」


 交渉は終了した。互いに別れのあいさつをし、地球人代表の二人は球体から出て来た。


 コビナは呟いた。

「喉が……渇いたな」

 ルイーザも呟いた。

「お水、飲めませんでしたね」


 二人は通路を通り、川岸に降り立った。

「さあ、これから忙しくなるぞ!」

 コビナは気合を込めて言った。




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