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(10)それぞれの身の振り方


 会社は、三島工場閉鎖を公式発表した。

 紙パック飲料二五〇ミリリットル一ラインのみの製造工場閉鎖であり、不採算事業の整理という形で報道されたためか、会社の株価は低下せず、むしろわずかに上昇した。

 山内は、当然そうであると分かってはいるものの、三島工場が不採算事業として見られていたことがやるせなかった。

 年が明けると、製造課所属の契約社員二名が退職した。転職先が見つかったためである。この二名には規定にのっとって特別手当が支給された。

 退職者の補充は行わなかった。現在でも昼間だけの一ライン稼働で人員が余剰気味であるため、補充なしでも問題はなかった。

 春になり、地域職社員十一名の個別面談が行われた。

 個別面談は、山内と総務課長の高橋、それに本社から生産企画部課長の津村、人事部課長の花野井の四名が同席して行われた。

 面談では、十一名それぞれの工場閉鎖後の希望についてヒアリングが行われた。

この時点では最終結論を求めるものではなかったが、十一名のうち、退職希望者は総務担当主任の森本と、製造課技術担当主任の立川、それに倉庫出荷担当の高木の三名、それ以外の八名は他事業所への異動を希望した。

 五十八歳の高木は、

「私は家庭の事情で三島を離れることができません。それに私はリフトに乗ることしか能がなく、この歳で工場以外の事業所で働くのは無理があります。そのため、三島にある他社の工場の契約社員か派遣社員として転職するつもりです」

 と述べた。

 また、森本と立川は兼業農家であり、田畑の管理があるので三島を離れることができないこと、また営業や本社スタッフの仕事も望まないとのことで、退職を決断した。

「畑が荒れ気味で、手つかずの休耕地もあるので、工場閉鎖後は農業に専念します」

 森本はそう言った。

「私は工場でしか働けませんが、田んぼがあるので、ほかの工場への転勤は無理です。かみさんがパン屋をやっているので、工場閉鎖を機に会社を辞めて、田んぼをやりながらかみさんの店の手伝いをするつもりです」

 立川はそう言った。

 三人とも、悩んだ末の決断であったであろうと山内は思い、工場長として申し訳ない気持ちになった。

 開出・調合担当主任の内海は、出身地でもある真岡工場への転勤を選択した。

「家内も真岡の人間ですし、病気のこともありますので、地元へ戻るちょうどいいきっかけになりました。真岡で家内の病気を診つつ、工場で働きます」

 それがいい、と山内は思った。

 大里は、安城工場への転勤を希望した。

「三島から比較的近い工場であることと、紙パックジュースラインが四ラインもある製造拠点ですので、安城工場が私のスキルを一番発揮できる工場だと思い、希望しました」

 社内でも紙パック充填にかけては随一の技術者である大里なら、紙パック四ラインがほぼ昼夜フル稼働している安城工場の方がその能力を存分に発揮できるであろう。会社にとっても、大里の安城工場異動は適材適所だと山内は思った。

 それ以外の地域職六名は、安城工場への転勤希望者が三名、茂原工場が二名、静岡営業所への高速道路通勤希望者が一名であった。

 山内は、工場閉鎖後の地域職社員の行先がおおむね妥当な線に落ち着いたことにひとまず安堵した。

 山内は「まえだ」のいつものカウンター席で、ユメカサゴの湯霜造りとイトヨリの刺身を肴に、焼津(やいづ)の地酒、「磯自慢」をちびちびとやっている。

「山内さん、工場の方はどうですか?」

 大将が山内に訊ねた。大将は三島工場閉鎖のことを聞き知っている。

「はい、地域職の社員の行先がほぼ決まって、少し安心しました」

「辞める方もいらっしゃるんですか?」

「はい、三名ほどいます。三島を離れられない事情がある方ばかりですが」

「それはやむを得ないですよね」

 山内は磯自慢が注がれたコップを手に持ったまま、ぼんやりそれを眺めていた。

「それで、山内さんはどこかへ異動されるんですか?」

 山内は、やや間をおいてから言った。

「私は、会社を辞めます」

「これは、失礼なことお聞きしてしまって」

「そんなことはありません」

「失礼ついでにお聞きしますが、会社を辞められてからはどうされるんですか?」

 山内は磯自慢を一口流し込んでから、言った。

「まだ決めていません。と言いますか、どうしようか悩んでいます」

 会社を辞めて、すぐにまた別の仕事をするのはさすがにしんどい。しばらくは休むつもりだが、かと言って、そのままずっと何もせずに過ごすのもどうかとも思う。そのあたりのことが山内の中でまだ固まっておらず、ぼやけたままだった。

「今まで十分働いてこられたんですから、少しのんびりされるのもいいですよね」

 大将はそう言って、山内が注文したタカアシガニのホイル焼きを山内の前へ置いた。

「会社を辞めてからも、ここへ通っていいですか?」

「もちろん、大歓迎ですよ。毎日でもお越しになって下さい」

 大将にそう言われて、山内は胸がじんわりと温かくなった。


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