小噺その⑤ CITY OF 誤奇ゲリオ
(その昔、ゲリオシティと呼ばれたこの街は…未知のウイルスに汚染され、人間はワクチン無しじゃ一日も生きられないカラダになっちまった。もし打たないとどうなるかって?)
「ググゲゲゲ…」
ゴミだらけの廃墟の一角、薄汚れたコート姿のホームレスが、虹色の水たまりに転んでのたうち回っている。
ムクムク…バリバリ…カサカサ…
胴体から、触手が這い出し…背中は巨大な羽根に支配される。
(あんな風に、ゴキブリになっちまうってこった。どうしてって?この環境に一番適したカラダだからだろ、知らんケド。)
「太郎、早くくれ…アレになりたくない。」
初老の男が、彼にしがみつき懇願する。
(俺は、Qって名だが…皆んなは太郎って呼ぶ。この白地に大きな目と唇が印刷されたマスクのせいだろう。この世界じゃ、ゴキブリになりかけた顔を隠す為…皆んな何かしらの仮面を被ってんのさ。)
薬が切れかけ、触覚が出てきた黒マスクの男に注射器を渡す。
「違法モンだ…効果は期待すんじゃねえぞ。」
(そ、俺は違法ワクチンで生計を立てる極悪人さ。)
ブスッ!チュ〜!
「あ〜効くぅ〜、んんっゴハッ…ゲボゲボゲボ」
(あ、やっぱ適合しなかったか。緑色の血、吐いてくたばりやがった…ご愁傷様。ま、死んだら夢が叶うって言う、都市伝説でも信じてろ。)
死体の首のバーコードを読み取り…その体内に蓄積されているマネーを、スマホに移すQ。
(10万か…まぁまぁだな、生きてるうちにID聞いといて正解だった。役人もホームレスも、皆チップで管理されて…こんな社会でもまだ機能してるとはな。)
「さて、サルカニちゃんに全課金だ。」
携帯画面のVRアイドルに、現金を送信すると
「太郎さん、今日もアリガト〜!お礼に、サルカニちゃんの脱ぎたてパンティをお送りするのだぁ〜!」
派手なアイドル衣装の少女キャラが、下着を下ろし、液晶に向かって放り投げる。
「クンクン…」
一通り匂いを嗅いでから、内ポケットにショーツをしまう。
スチャッ!
背中に銃口を当てられた。
「相変わらずボロい商売してんな。」
(コイツは、俺をずっと追ってる女刑事ZYだ。ノーマスクの美女で…タイトスカートのスーツ姿で挑発してきやがる、コッチの銃身も向けてやろうか。)
「コレはコレは、ZY女史…いつもお美しい。んで、俺っちは無罪でっせ。」
「違法ワクチンの売買、殺人、窃盗…ソレと公務執行妨害、あぁん…」
グリグリ…
瞬時に腕をキメられ、地面にひれ伏し…顔を踏まれているZY。
(実は俺、すんげぇ強いのです。)
奪い取った拳銃で、頬をかすめる。
チュンッ!
「ゴメンなさい。お願い助けてっ、命だけは…全部見逃すから」
(意地もプライドも無い女だな。)
(あんな面倒なヤツは、放置プレイで寝かせといて…街外れのあばら家に帰るのさ。)
「パパお帰りぃ〜!」
小さな素顔の女の子が、Qに駆け寄って来る。
「EMっ、お利口にしてたか?」
ナデナデ…
「そうでもないよ…パパ」
グサッ!
Qの心臓にナイフを突き刺す娘。
パチパチパチパチッ!
「良く出来ましたっ」
襖の奥からZYが、拍手しながら出てくる。
「そう言えば、この子が動くわきゃ〜無かったな。」
「でしよ…この娘、ラブドールだもんね。私が人工知能ボックス入れて、起動させたのだ。へへへ」
不敵なZYの手には、リモコンが。
「でもな、サルカニちゃんの…パンツは、耐刃仕様なんだよっ!」
Qの心臓に達する事無く、懐の下着に守られる。
ドンッ!
娘だったモノを女に放り投げると
「あっ…し、しまった…自爆スイッチを押してもた。」
ズドドドドグワァァァァ〜ン!!
ボロ屋敷は、炎に包まれ…ZYの首は空を飛び
シュルシュルシュルッ…パ〜ンッ!
天空で花火となって、美しく打ち上がる。
「俺達も、行くか。」
何故か…元通りの姿の娘と手をつなぎ、その場を去るQがマスクを外す。
「ギギギ…ゲベゲベ…」
その後ろ姿には…長い触覚が伸びていた。




