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次回更新は10月17日(土曜日)21時台の予定となります。
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「ハッ!派閥ぅ?くだらねぇ。そんなことはジジィやババァどもにやらせときゃいいんだよ」
デレクがいつものバカ話をしているときと変わらないノリでそう言った。
俺が「海賊派のサロンでの稽古に俺も混ぜてくんねーかな?」と頼み、デレクが「「オレの一存じゃあ決めらんねぇ」って言って、フランク・スーが「ウチはいいけど、デレクは派閥とかあるんじゃないの?」と訊いたことに対する応えがソレだった。
そして、デレクがさらに付け加えた。
「チャーリー、明日からはお前もたっぷり泣かしてやるよ。楽しみにしとけ」
「……待て、待て。泣かすな。普通の稽古にしてくれ」
そう言いつつ、俺の心臓は良くも悪くもドックンドックンと派手に脈打っていた。
正直言って、デレクのセリフは俺の心に刺さった。素直に「コイツ、カッケーな」と思ったし、「もしかして、コレきっかけでなんか新しい波が起きるんじゃないか」とも感じて、気分が上がっている。
だけど、同時に、敵の戦力がわからないうえに退路も見つからない戦場、というか、政争の場にガッツリ入ってしまったという諦めの気持ちもちょっと、どころか、大分ある……、つーか、そっちの方がデカいかも。
はぁ、やっぱ余計なこと言わなきゃよかったかな……。
俺が余計なことを言ってしまったのは昨晩のことだ。俺はキャッシュ家の当主執務室の前にいた。ちなみに、父上は大公家王都屋敷の警備と護衛の責任者――正式な役職は第二騎士団副団長兼王都支団団長だ――であり、敷地内に役宅として戸建ての屋敷を賜っている。
俺はここ最近どうしようかと思い悩んでいたことを、今日、言うと決めていた。父上は周りの人からは謹厳実直な人と評されているようだが、家では親父ギャグも飛ばす、話しやすい人だったりする。それに、内容的に、どうせ「ダメだ」と言われるだろうとも思っていた。なので、そこそこ気楽だったけど、それでも緊張はしている。一つ深呼吸をしてから、ドアをノックし、お伺いを立てた。
「父上。チャーリーです。少しお時間よろしいでしょうか?」
キャッシュ家はいわゆる陪臣であり、大公家の家臣だ。キャッシュ家は武官系の細剣遣いの家柄で、代々の当主は有能な者が多く、大公家から重用されてきた。その中でも現当主である父上は現大公マシュー・ジューンスペンサー様の信頼が特に厚く、警備や護衛についてだけでなく政についても相談を受けることがあると聞いている。
そんな父上はここのところ家には帰ってきていなかった。というのも、大公その人が王都屋敷に滞在中だったからだ。警備・護衛責任者として忙しいに違いない。ところが、今日はなぜか早くに帰ってきて、家で夕食を食べた。まあ、さすがに休みを貰ったのだろう。だから、今日、言おうと決めたのだが……。
すぐに、「入れ」との声が聞こえてくる。ドアを開けるなり、「なんだ、珍しいではないか。何かあったのか?」と、父上が訊いてきた。
「いや、別に大したことではないのですが、少しご相談が……」
俺はそう言いつつも、いや、かなり大したことかも、怒られないよね……、などとちょっと不安になってきた。マクガバン先生を前面に押し出すという事前の計画をもう一度頭の中で確認する。
俺は勧められた椅子に座り、心の中で気合を入れ、口を開いた
「実は、剣についてのことでして……」
「ふむ?」
「その……、父上も御存知のサラ・パーカーが最近、急激に強くなりまして……、私はまったく勝てなくなりました。そして、その要因をマクガバン先生にお尋ねしてみたところ、先生が仰られた……というか、アドバイスして下さったことがありまして……」
「ほう?先生はなんと?」
俺はマクガバン先生がサラのデレク・ジュライフィールドや海賊派との稽古について言っていたことを伝えた。
「ふーむ、なるほどな。……それで?」
「はっ。それで、そのぉ……、私も海賊派のサロンに……その……稽古に行くのはどうか……と思いまして、そのぉ……」
「……」
父上が黙り込んだ。眉間に皺を寄せている。
あっ、やっぱ、ダメですよね……。分かってたよ。まあ、でも、ワンチャンくらいはあるかと思ってたけどね……。細剣遣いは昔から派閥関係なしに交流があるし。海賊派は中立派だし。それに、俺は第三子だし。ま、まぁ、でも、無理だわな、さすがに。デレクもサラも王党派のバリバリの重鎮の家だもんな。
俺がそんなことを考えていたら、急に父上が立ち上がった。思わず、殴られるのかと思って身構えた。しかし、父上は「行くぞ」と言って、そのまま部屋から出て行く。
へっ?何?行く?俺はしばらくポカーンとしていたが、我に返って慌てて父上の後を追った。
「ど、どこに行くんですか?」
玄関前で父上に追いつき、そう尋ねると、「大公閣下のところだ」と言われた。
へっ?はあ?なんで?とは思うものの、父上はそのまま役宅を出て、大公家本邸の玄関を顔パスで通過してズンズン奥に進んでいくので、問い質す暇がない。何が何やらわからないまま、大公家当主執務室まで来てしまった。ドアの前にいた取次兼護衛の騎士が部屋の中に「ジョン・キャッシュ様がいらっしゃいました」と声を掛けると、「通せ」という返事がすぐに返ってきた。
中に入ると、大公閣下の他にも数人の人がいた。執務机の上には分厚い書類がいくつも置かれており、大公閣下はペンを持っておられる。メチャクチャお忙しそうだった。そりゃそうだろう、北の帝国との小競り合いの合間を縫って、わざわざ王城への報告……は代理人か。まぁ、相も変わらず王家とは冷え冷えの仲だ。それよりも大公派にとっての命綱たる王国軍関係者各位への挨拶やら話し合いがメインだ。昼間は会議、夜はパーティーに呼んだり呼ばれたり。それらが終わってから、夜中に領地の政務もしなければいけない。俺の稽古の話なんかしてる場合なのか?ちょっと、父上? つーか、そもそも、なんで大公閣下に?
大公閣下が人を下がらせた。いやいや、そんな大層な話ではありません、閣下。猛烈に帰りたい。
「さて、チャーリー。いつもギルバートが世話になっておるな」
大公閣下が常と変わらぬ柔和な顔で俺にそう言ってこられた。マシュー様は大公家の方々には珍しく、パッと見あまり武人然とした厳めしさがない御方だった。ちなみに、ギルバート様は大公家嫡子であり、オレと同い年で、今、一緒に学園に通っている。幼少のころから抜群の剣の才を見せ、13歳でフェルビー流長剣術の切紙を貰うほどの剣士だ。学園入学前は、断トツで世代最強と謳われていた。俺もそう信じていた。もっとも、今はデレクとのツートップとなり、どっちが強いかが世評を騒がせている。
「と、とんでもありません。いつも私の方がギルバート様にお世話になりっぱなしで……」
い、いかん。変な汗出てくるし、動悸が激しくなってきた。
「それで?どうしたのかな?」
閣下が父上を見た。
「実は、倅めが、海賊派のサロンで稽古がしたいと言い出しましてな」
「……ほほう、海賊派のサロンか。フフフ、そうか、そうか。ちょうど良いではないか?」
「はっ、まさに。……良い試金石になるかと」
え、えっ?いいの?マジで?……というか、どういうことだ?ちょうど良い?試金石?
「デレク・ジュライフィールドはそれほどに強いのか?」
ちょっと混乱している俺に大公閣下が興味津々といった感じで訊いてきた。
「は、はい」
返事をしながら、俺は気付いてしまった。これって……、絶対にドロドロの政治の世界に放り込まれる感じだよね……。ちょ、ちょっと。ヤバくね。最悪だろ。
その後も、大公閣下にデレクやら海賊派の面々について色々と訊かれたけど、どう応えたかあまり覚えていない。しかも、俺に詳細は知らせてくれなかった。
そして、翌日、というか、今日になり、サラに話を通してもらって、海賊派のサロンに来た。明日から泣かされるらしい。……はぁ。




