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5-5

いつもお読みいただきありがとうございます。


申し訳ありませんが、来週は少々予定が立て込んでおりまして、次回更新は10月3日(土曜日)21時台の予定となります。


今後ともよろしくお願いします。

 オレはなんだか疲れ切って屋敷に帰ってきた。主に心がね。すると、わざわざ執事長が出迎えに来た。


 ……これ、もう駄目くさいな。


 オレは諦めの境地に入った。まだ、なんにも言い訳が思いついていないんだけど……。父上にマジギレされないよね。オレ、何もしてないのに……。いや、ちょっとだけしたか。でも、そんなに大層なことはしていない……はずだ。


「おかえりなさいませ。デレク様」


「ああ、ただいま」


 ちなみに、オレは未だに王都屋敷の使用人たちの顔を見るたび居心地が悪い。前の人生で妖剣に体を乗っ取られた直後にブチ殺した奴らばかりだからね。ただ、今はそんなこと関係なく逃げ出したい。


「デレク様。御屋形様がお呼びです」


 でしょうね。はぁ。ため息しか出ない。これ、絶対にミッチェルたちの件だろ。しかし、情報早ぇな。


 今日の海賊派のサロンにおけるミッチェルたちの話は予想通りとんでもない厄介事だった。


 結論から先に言うと、王党派文官系の一年生の半分くらいの人数が海賊派のサロンに通いたい、ってことだった。……絶対ダメだろ。ただでさえ、王党派細剣閥の連中が海賊派のサロンに来てんのに。王党派の派閥が崩壊とかしたらどうすんだよ。


 なんでこんなことに……?


 どうやらオレのせいらしい。前に、ジョナサンたち武官系の連中がミッチェルたち文官系の学生に荷物を持たせていたのを止めた件だ。あの直後、ジョナサンがミッチェルたちに言ったらしい。「もう、お前らとは関わりたくない」、と。


 いやいや、ジョナサン君ってば、オレにビビり散らかしていることをもはや隠しもしないんだな。もうちょっと虚勢を張らないと、騎士のメンツ的にどうなのよ?ねぇ。


 まっ、それはさておき、ミッチェルたちもジョナサンたちにはかなりムカついていた。で、一年生の王党派のボスの第三王女のところに行って、かくかくしかじかの事態になったので、班を組むのに他の武官系の学生を紹介して欲しいと頼んだそうだ。ところが、この頼みが断られちゃったってさ。なんでだよ?断るか、フツー?


 だが、やむを得ない事情があったらしい。そして、それにもちょっとオレが関わっている。なぜなら、物理的に武官系の一年生の人数が足りないからだった。サラたちが海賊派に来たからだ。ちなみに言うと、「班」をはじめとした学園での活動は学年単位でするのが大前提になっている。だから、班を上級生と組むとかは有り得ない。


 まあ、一応、王女もミッチェルたち以外の文官系の学生にジョナサンたちと組んでくれないかとは頼んだらしい。が、ダメだったそうだ。そりゃ、ジョナサンみたいなアホと組みたい奴はいないわな。


 しかも、オレは全く知らなかったんだが、どうも王党派って武官系の文官系への当たりが強いので結構有名らしい。そういうこともあって、ミッチェルたちはちょうどいい機会だとも思ったくらいだそうだ。


 で、当然、家の方にも相談したうえで、オレのところに来たらしい。まぁ、親の方も、昔、学園で嫌な思いをしたことがあるのだろう、あっさり「OK」が出たとかなんとか……。王党派への忠誠とかどうなってんのよ?ちなみに、海賊派のサロンに来たい学生の中に、さすがに王家直属の正騎士爵家の子はいなかった。全員、男爵家以上の家柄の子達ばかりだ。


 それにしても、王党派から武官系細剣閥全員と一年生の文官系の半分が抜けるって、ヤバ過ぎるだろ。いや、これ、マジでどうすんの?いくら学生レベルの話とはいえ、政治的に大問題じゃね?オレ、王党派の派閥崩壊のトリガー引いた元凶とか言われんの嫌なんだけど……。


 オレがノロノロと執務室に行くと、なぜかドアが開いていた。クソっ、ノックする前にちょっと言い訳を考える時間も無ぇじゃねぇか。ソッと部屋の中を覗くと、執務机に座っている父上と目が合った。


 父上に「何をしている?サッサと入って、ドアを閉めろ」と言われた。


 言われたとおり、部屋に入ってドアをゆっくり閉める。向き直ると、兄上もいることに初めて気付いた。物凄いメンチ切られてるんですけど……。こりゃ、兄上も知ってんな。


 はぁ、メンドくせぇ……。


 つーか、なんかデジャヴなんだが……。ああ、リナたちと班を組むって報告したときもこんな感じだったな。はぁ。


 「ただいま帰りました」と一応、先に帰宅の挨拶をすると、「うむ、そこに座れ」と父上に執務机の前に置かれていた椅子を指し示された。兄上は父上の隣に仁王立ちしたままだ。眉間にどこの渓谷ですか?ってくらいの深い縦皺を入れて、まだオレにメンチを切っている。


「ミッチェル・レイル殿たちの件は当然、知っておるな」


 やっぱ、その話ですよね……。つーか、前置き無しにいきなり本題に入るんすね。はぁ。


 「はい」と応えると、父上は一つ頷いてから、「まあ、もうケリがついたことだが、一応、お前の口からも聞いておきたい」と言った。


 ……んっ?


 ケリがついた?えっ?もう一件落着してんのかよ?おお!ラッキー。怒られずに済みそうな……。いや、落ち着け。何事も詰めが肝心。油断は禁物だ。


「なにやら、聞くところによると、事の発端の一つはお前がミッチェル殿に「困ったことがあったら言え」と言ったとかいうことだが、どういう経緯だったんだ?」


 父上の問いにオレは慎重に言葉を選んで説明をした。


 当時、エリックの借金問題でムシャクシャしていた気持ちの発散がどうのというオレの内心はもちろん全カットだ。ジョナサンたち武官系の学生が自分たちは手ぶらなのに、ミッチェルたち文官系の学生に大きな荷物を運ばせているところをたまたま目撃してしまった。オレはいくらなんでもそれは騎士道に反する行為だと思い、いてもたってもいられなくなって、ジョナサンたちに抗議した。と、いうような美しい物語に仕上げてみました。……別に嘘は言ってないし。


 さらに、オレはミッチェルたちに「しょうもない嫌がらせをされたら、オレが止めてやるから言え」って趣旨の発言をしただけで、海賊派で面倒見てやるとかの話は一切していないとも抜かりなく付け加えておいた。完璧だ。


 父上は「ふーむ」と言ってなにやら考えていたが、兄上がとうとう我慢できなくなったようだ。


「お前が余計な口を挟むから、王党派の威信は地に堕ちたんだぞ。どうしてくれるんだ」


「余計な口など挟んでいません。ただ、しょうもないイジメを止めただけです」


「減らず口を叩くな。王党派を抜けた奴が王党派のことに口を出すな」


「へぇ~、兄上は目の前でイジメがあっても派閥を理由に見過ごすと言うのですね。それでよく騎士を名乗れますな」


「なんだと!」


 兄上の顔が真っ赤になった。目から何かの魔法が飛んできそうな勢いだわ。オレはさらに言ってやった。


「ああ、そういえば、王党派は文官系へのイジメがお盛んなので有名でしたな」


「貴様ぁ」


「やめよ」


 父上が静かにそう言った。


 「しかし」と言い募る兄上に被せるように再度「やめよ」と父上が言った。そして、オレに向き直った。


「デレク、少し口が過ぎるぞ」


「……申し訳ありません」


 オレが謝ると、父上は兄上を見た。


「ジャスティン、前にも言ったと思うが、派閥、派閥とあまり言うな。お前はまだ学生だ。王党派という小さな世界に閉じこもっておっては視野が狭まるだけだ。色んな相手と関わりを持ってみよ。そして、気の合う者がいれば、友人になればよい。派閥なんぞというくだらない話は私たち大人にやらせておけばいいのだ。よいな」


「……はい」


 思いがけない言葉だったのだろう、兄上は挙動不審になりながらなんとかそう返事をした。


 それにしても、「派閥なんぞ」云々のくだりはカッケーな。オレのいつか言いたい台詞リストに載せておこう。


 ただ、前も思ったけど、父上の派閥に対する態度って……。まあ、この前の班を組む件のときは、リナたち海賊派は中立派だし。それに、オレは次子で嫡子の兄上はちゃんと王党派にいるし。だから、まあ、中立派への窓口的な意味合いで認めた感じなのかな?って気もしてた。でも、今回は……。


 しかも、派閥を「くだらない話」って結構な強い表現だぞ。学園だって端っことはいえ、貴族社会に入っている。学生のうちから派閥の結束を高めることも大事なはずだ。そして、ジュライフィールド伯爵家の当主って貴族の中の貴族といっていい。派閥の重要性なんかは骨の髄まで知っていると思うんだけど。戦もそうだが、政も「数は力なり」は真理だからな。……何か狙いでもあんのかね?


 それに、よくよく考えてみると、父上はさっき「ケリがついた」って言ってたけど、どこまでの範囲でケリがついてんだろう?オレはミッチェルたちの話を聞いて、「オレの一存では決められない」って言って、フランクに繋げたんだ。そんとき、フランクは驚いていた……と思う。とすると、王党派内では、ってことなのか?それとも、当主レベルでは海賊派も入ってんのか?


 ま、まあ、とりあえず、なんとかなったか。「ミッチェルたちやジョナサンを説得しろ」とか「お前も王党派に戻れ」とか「かくなる上は、海賊派を王党派に取り込め」とか、ややこしい話にならなくてよかったよ。


 ホッとしたオレはなんとなくチラッと兄上を盗み見た。兄上はオレにメンチ切るのをやめて、何やら考え込んでいた。

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