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いつもお読みいただきありがとうございます。


次回更新は9月19日(土曜日)21時台の予定となります。


今後ともよろしくお願いします。

 オレはサロンでの稽古の前に便所に寄った。小便しながらも、どうしても大遠征のことをアレコレと考えてしまうのは、根が小心者なせいなのか……。


 ああ、ニックたちは別段問題が起きることもなく帰って行った。まあ、問題なんか起こりようがないんだけどね。つーか、むしろ、前回の人生のオレが平民を相手にすると、いらんことを言って、自ら問題を起こしていただけのような……。うん?てゆうか、アイツら、「礼を言いに来た」とかって話しだったのに、手ブラで来やがったな。こういう場合、なんか手土産を……、いやいや学生だし、いらんか。……こういうところだぞ、オレがダメなのは。あと、ほんの少しだけニックの剣の腕に興味があったけど、見た感じ、エリックには少し及ばないかなってところだったから、スルーしといた。


 はぁ、それにしても大遠征ねぇ……。


 マジで、さっき思い出したこと以外に何も出てこない。クソっ、隊列のどこが襲われるのかが大事だっつーのに。どんだけ、平民に興味がなかったのか。


 ……いや、それだけじゃないかもな。


 いくら平民に興味がなくとも、あれだけの大事件だ。どこがどういう風に襲われたのか?とか大群といっても具体的な数は?とかオレも興味本位で誰かに訊いていたとは思う、さすがにね。でも、多分だけど、学園が箝口令を出してたんじゃないかな?まあ、学生に死人が出ちまった以上、政治的にもかなりセンシティブな問題になっただろうからね。


 それに……。


 よくよく考えたら、オレにしてみれば、30年とか40年とか前の話だ。忘れてるディテールも多そうだった。


 はぁ……。


 いっそのこと何も知らん方が良かったような気がする。変に襲撃があるのを知っているだけに、なんか妙にソワソワする。いや、別に知らない奴が死のうがどうしようが知ったこっちゃないんだけどね。……でもなぁ、死人が出る事件が絶対に起こるのが分かってるっていうのはね。はぁ、なんかねぇ……。


 ちなみに、大遠征とは学園の伝統行事の一つで、王都近郊にあるコローン森林型魔宮まで皆で隊列組んで行軍して、ちょっと中に入って魔獣を狩って帰ってくるっていう訓練のことだ。これは一年生だけが参加する……というか、参加が強制されている行事で、上級生は武官系の学生の一部が万が一のときのための護衛に駆り出されるだけだった。で、この訓練の目的は行軍を経験することはもちろんのことだが、それよりも兵站の基礎中の基礎的なお勉強が主だったはずだ。貴族の箱入りボンボンどもの中には食事や水なんてものはお腹が空いたり喉が渇いたら、誰かに言えばいつ何時でも出してくれるものだと思ってる奴がいるとかいないとかってレベルだからな。自分の食料や水を自分で持たせたり飲み食いのペース配分をさせたりして、物を運ぶことの大変さや途中で水なんかが無くなったら困ることになるということを教えるって感じだ。まあ、上位の貴族家のバカが下位の奴に荷物を持たせたり、水を奪ったりといったトラブルには事欠かないんだがね。


 ああ、あと、自分たちで食料とかを店まで買いに行かなくちゃならないんだったわ。これは、学生自らに行軍に必要な物品を買わせることによって、将来、戦場や魔獣討伐に赴く際に必要な物は何かとか市場における物の値段というものを知らしめる目的だった、と思う。さすがに物を買うのに金を払わなければいけないことを知らないようなアホはいないと思うが、実際に金を払ったことがない奴は結構いるしね。貴族なんてたいていは御用達の商人がいて、買い物は屋敷に呼びつけて期末払いのツケで払うものだ。仮に店に行って買い物をしても同じく家のツケだ。そして、ツケゆえに値段なんか見ない、といっていいくらいだ。だから大遠征のための物品を買うのは学園が指定したいくつかの店まで自分たちで行くのはもちろん、現金払いで買わなければならないとされていた。


 まあ、今回の人生でオレの周りにいる連中は街で買い物くらいしたことがある奴らばっかりだけどな。エリック達は子供の頃から領内をフラフラしてたし、サラ達も道場の帰りに寄り道して買い食いとかしてたらしい。オレも今回の人生ではリナ達と色んなとこで遊んでいるし、中の人やってるときにも経験、というか、中から見ていて知っている。ま、まぁ、前の人生ではね……、ほら、オレって結構箱入りのお坊ちゃまだったから……。


 オレは小便を終えて、マイサンに触った左手の親指と人差し指と中指の指先だけをちょっと洗って、便所を出る。まあ、もう開き直って行くしかなかろうよなどと決意し、さあ、今日は誰をギタギタにしてやろうかと思ったところで、後ろからフランクに声を掛けられた。


「あっ、よかった、デレク。お客さんだよ」


「また?……誰?」


「ミッチェル・レイルたち」


 ミッチェル・レイル……?一瞬、誰のことかわからなかったが、すぐに思い出した。王党派文官系のリーダー格の一人だ。


「ああ、アイツね」


 でも、オレに何の用だ?……って考えるまでもないか。ジョナサンたち王党派武官系のバカども絡みなのは間違いないだろう。こないだミッチェルには「何かあったらオレに言え」とかって余計なこと言っちゃったもんなぁ。あのときは結構名案に思えたけど……。はぁ、メンドくせぇ。また、弱い者イジメに行かねばならんのか。


 とにもかくにも、オレはまた談話室に行く羽目になった。部屋に入ると、ミッチェルの他に二人いた。顔は見たことある。だが、名前が全く記憶にない。マズい……かな?ミッチェルと同じ文官系の奴らってことは確かなんだけど。ま、まぁ、名前、呼ばなきゃいいか。


 それに、そんなことはどうも些細な問題だと思われる。オレの方を見たミッチェルたちは何だか異様に張り詰めた雰囲気を醸し出していた。


 いやいや、マジで何?


 緊張?怒り?焦り?なんだ?全員、顔がピクピク痙攣するくらい引き攣っているんですけど……。はあ?これって絶対にジョナサンを軽くシメて終わる話じゃないよね。クソっ、嫌な予感がするどころじゃねぇ。完全に厄介事で確定だろ、これ。勘弁しろよ。


「よう、ミッチェル。久し振りだな」


 心の底から話を聞きたくなかったけど、オレは平静を装ってそう声を掛けた。

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