↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/73

5-1

いつもお読みいただきありがとうございます。


次回更新は8月29日(土曜日)21時台の予定となります。


今後も読みに来てくださると嬉しいです。何卒よろしくお願いします。

 私はロウ家からの手紙を読み終え、覚えずため息をついた。


 様々な感情がため息という形になったように思う。一番大きな感情はどこにもぶつけようのない怒りだろう。ジュライフィールド家当主として、そして、何より父親として我が子デレクに手を出されたにもかかわらず、落とし前をつけさせようがないのは本当に腹が立つ。それに加えて、王国の一貴族として厄介なことになりそうだという不吉な予感もある。他にも、状況が今一つよくわからない苛立ちなどもあった。


 手紙によると、アルカンタラ大森林魔宮の深層でかなり大規模な野営地があったと思われる跡が見つかり、その周辺から大陸南部にはほとんどなく主に大陸北部で作られる様式の割れたコップの残骸が発見されたそうだ。さらに、ハンターたちへの聞き込みからカーチャ教の信者であろうハンターが多数アルカンタラ大森林魔宮に出入りしていたこともわかったとのことだった。デレクとリナ殿が襲われた事件について継続的に行われていた調査の賜物だ。流石は海賊派というべきだろう、身内に手を出された以上、必ず探し出して報いを受けさせるつもりなんだと思う。


 そして、今回のゼワリン男爵領の山賊まがいの奴らのことも鑑みると、確たる証拠は何もないとはいえ、教国の連中が王国において何か良からぬことをしていたのではなかろうか、との見解が書いてあった。


 その通りだ、と思う。


 アルカンタラ大森林魔宮でデレクとリナ殿が襲われた件は、おそらく大型魔獣の横取りとみられていた。なかなかの手際だったそうなので、横取り行為がデレクたちだけに仕掛けられたとは思えない。ゼワリン男爵領での山賊行為もまた何度も繰り返されていた。そして、襲撃者や山賊まがいの連中の魔法や剣の腕前はかなり高いレベルだったと聞く。目的は両方とも明らかに金だろう。加えて、カーチャ教の影がちらついている。となると、これら二つの出来事には何らかの関連性があっても不思議ではない、と私も思う。ただの勘に過ぎないがね。まあ、根拠が弱すぎる。そもそも、デレクとリナ殿を襲撃したのが誰かはわかっていないし……。


 とはいえ、カーチャ教の命運を懸けた聖戦の真最中にわざわざ大事な戦力を金儲けにさくはずはないとも思えるんだが……。何のためだ?まあ、金なんだけど。戦争には金が掛かるからな。でも、それだけ?それに、山賊やるなら帝国内でやったほうが一石二鳥だ。帝国内を荒らしたうえで金も手に入る。なぜ、わざわざ、王国にまで来て?うーん……、わからぬ。


 それにしても、教国か……。


 歴史上はじめて大陸統一を成し遂げたのが大統一帝国だ。大帝国は150年くらい続いたが、帝位継承で揉めに揉め、あちこちで自称皇帝が即位し内乱が勃発、収拾がつかなくなって、もう自然消滅と言っていい状態になった。まぁ、大体それまでの歴史でも大国小国関係なく国が倒れるときはそんなもので、大抵の場合は隣国に攻められすぐに国が終わり、大陸内の国家バランスが安定するというパターンだった。だが、いかんせん大陸統一国家だったから、隣国もへったくれもない。結果、力のある者たちが武力でもって領土を確保し、拡張していくという、約400年間も続く大戦国時代に突入した。


 大戦国時代は戦争でも多くの人間が死んだが、それよりもはるかに多くの人が飢えと魔獣被害で死んだと言われている。そりゃそうだ、年がら年中、あちこちで戦争をやってるから、農地がすぐ戦場に変わるは、人類の守護者たる騎士たちは人を殺すのに忙しくて魔獣討伐数が激減したからね。そして、ようやく今も続く四国時代に突入し、民たちは安定した暮らしができるようになった。まあ、いまだに帝国は戦争が大好きだけど。


 四国時代とは文字通り四つの国が大陸に存在する現代のことをいう。帝国、王国、共和国、そして、教国である。国家のパワーバランスを数字で表すと、帝国5、王国3、共和国1、教国1くらいだといわれている。数字から行くと帝国は王国の1,5倍以上の国力がある。王国は帝国と戦争になると負けが見えるはずだ。だが、いまだに負けていない。これは帝国が共和国と教国とも戦争状態にあるからだった。


 しかも、王国と共和国は対帝国の明文の同盟を結んでいる。どちらか一方の国が帝国に攻められたら、もう一方の国には参戦義務がある。ただし、王国人としては残念というべきか、教国はこの同盟に参加していない。より正確に言うと、三ヶ国は交渉のテーブルには着いたものの、カーチャ教を国教に認定し税法上の優遇措置や神官の不逮捕特権をはじめとした様々な特権を教国が強行に要求したため、断念した経緯がある。


 とはいえ、教国と帝国の戦争はもはやどちらかの国が消滅するまで終わらないという戦いになっている。発端は世に悪名高い「エンソ神殿の根切り」だ。エンソ神殿に籠城した2万とも3万ともいわれる神官、神殿騎士および一般信徒を皆殺しにした陰惨な戦いだった。これは大戦国時代末期に教国領に侵攻した帝国軍が引き起こした事件だ。


 もともと、カーチャ教は大陸北部に根付いていた宗教だった。それが大戦国時代のどさくさに紛れて、大陸北部において領地を切り取り、国家を樹立した。で、とうとう北の帝国とぶつかった。そのうちの一つの戦いが、「エンソ神殿籠城戦」だ。


 なぜ帝国軍が一般の信者までも皆殺しにしたのかははっきりとした理由がわかっていない。ちなみに、最も有力な説はあまりに長期に及んだ籠城戦の苛立ちの憂さ晴らしだったというものだ。ともあれ、この事件を契機に、教皇が皇帝をはじめとした全帝国貴族を神敵に認定し、対帝国戦は聖戦と宣言された。これにより、帝国内に居住する平民のカーチャ教信徒による帝国貴族の毒殺などのテロ行為が多発した。また、帝国領内にはカーチャ教の禁教令が出され、全ての神殿が破壊され棄教しない者は容赦なく処刑されている。双方ともにあまりにも多くの人命が奪われ過ぎており、もはや後に引けない状況だ。


 しかも、教国の聖戦宣言および神敵認定――要するに、帝国は滅ぼさねばならない――は神託に基づくものだ。今さら「アレは間違いでした」とは言えない。全知全能の神は間違わないからだ。さらには、所詮は矮小なる人間の教皇が神託の解釈を間違えたという手も使えない。なぜなら、教皇と複数の枢機卿が祈りを捧げているところに聖なる光と共に神託が届けられたことになっているからだ。おそらくは信徒たちの士気を高めるためのプロパガンダなんだろうが、教皇一人だけが聞いていたのなら、ギリ解釈の間違いでいけたかもしれない。だが、他にも人が、それも複数の枢機卿がいた以上、もう無理だ。全員が解釈を間違えたなんて、神官たちへの信頼が地に堕ちる。


 というわけで、教国はもはやこの対帝国の戦争から絶対に降りられない。だから、三カ国は実質的には同盟を結んでいるのと同じことになっているのだが……。


 一応、デレクにも一言言っておくか……。


 いや、でもなぁ、アイツ、こういうことに興味なさそうな気もするし。それに、なんか余計なことをしでかしそうな気もするし。あと、エリック殿とかもちょっとアレなところがありそうだし。どうしようか?


 ……というか、デレクは本当にこないだのこと反省してんのかね?


 先日、ヒュー殿とエリック殿がお礼に見えられたときだ。私とヒュー殿で息子たちを改めて叱り飛ばしたわけだが、最初は二人とも「申し訳ありません」一辺倒だった。でも、途中からデレクの奴が「魔獣狩りで命を預け合った戦友の危難に考える間もなく手が動きサインしていた」とか言い出しやがった。多分、急に閃いたんだろう。この前はそんなこと言ってなかったし。それを聞いて、ヒュー殿も「おお、騎士の鏡」とか「流石は武門のジュライフィールド家ですな」とか感嘆し出すから、デレクはその後は「戦友の危難」で押しまくりだ。結局、ヒュー殿の手前、デレクへの説教はなんとなく有耶無耶になってしまった。


 だが、私は見逃していない。エリック殿が叱責されているのを見ながらデレクが時折ニヤついていたのを。


まったく……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。