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第4章はここまでとなります。
申し訳ありませんが、来週は少し予定が立て込んでおりまして、更新できません。
次回更新は8月22日(土曜日)21時台の予定となります。
今後も読みに来てくださると嬉しいです。何卒よろしくお願いします。
王都に帰って来てから、3日経った。
ゼワリン男爵領の一連の事件は、当然のことだが、大問題になった。今現在、王国政府が真相究明に乗り出しているところだ。もっとも、全てを知っていたであろう肝心要のゼワリン男爵が死んでしまったので、おそらく全容の解明は不可能だろうと言われている。誰かさんが油断して、死なれちゃったからね。誰だ、そのバカ?
そもそも、山賊といっても、神殿騎士らしき奴らがいたため、本当にただの山賊だったのかすら疑問符がついている状況なのにね。ホント、どこのうっかり屋さんのバカだ?
もっとも、ゼワリン男爵と教国というかカーチャ教との関わりについては、いくつかの事実が判明している。どうやら、今から20年ほど前に男爵が妻と幼い一人息子を馬車の事故で亡くしたことがきっかけみたいだ。当時、男爵はショックのあまり、寝ないわ、飯は食わないわ、いつも上の空だわ、と生きている死人みたいになってしまったそうなんだが、そこにカーチャ教の司祭を名乗る者がやって来た。それが、たまたまだったのか、狙ったものなのか、はたまた妻子の死からして仕組まれたものだったのか、もう今となってはわからない。いずれにせよ、何かが男爵の心の琴線に触れてしまい、男爵はカーチャ教に縋り付いてしまった。その過程で、細剣術の方も、もともとはグローブ流を修めていたのが、レニン流北派を学び始めたそうだ。オレが殺った神殿騎士くさい奴が教えていたとか。
そして、これは本件の本筋とは少しズレるが、オレたちが何とか生き残れた理由の一つらしきものもわかった。
どうもゼワリン騎士団の騎士団長――フランクと河原で交渉していた奴――は男爵と同い年で、代々騎士団の要職に就く家柄に生まれ、幼少の頃から男爵の側に仕えていたそうだ。主君兼友人ってやつだ。彼は妻子の死をきっかけとした男爵のカーチャ教への入信も気に喰わなかったし、一連の自領での山賊の跋扈への捜査の甘さも不審に思っていたそうだ。ことあるごとに、男爵へ諫言めいたことを言っていたらしい。だから、男爵は次第に彼を遠ざけた。どうも、これがオレたちが数の力で磨り潰されてあの世に行かずに済んだ理由なんじゃないかという話だ。
騎士団長はかなり騎士たちからの信頼が厚い人だったようで、騎士団の中には男爵に不信感を持っている者が多数いた。だから、ゼワリン男爵は、闘いの途中で騎士団長や騎士たちに諸々のことに気付かれ、オレたちの側に就かれたら困ると考えたのかもしれないらしい。
もっとも、騎士団長は「男爵は芯まで腐ってはおらず、多くの騎士たちを巻き込みたくなかったのだろう」と言っているとか。まあ、オレたちを殺っちまっていたら、いくら主君の命令でもそんなの関係ないからね。死刑一択だ。
そういえば、フランクがしばらく凹んでいた。「領主館に行かざるを得なくなったのは悪手だった。皆の命を危険に晒してしまった。申し訳ない」ってずっと謝っていた。「結果オーライだよ。そんなに気にすんな。次に生かそうぜ」って慰めといた。いや、マジで、気にする必要ないのに。アイツのお陰で、どれだけ助かったことか。
しかし、フランクとは対照的に、エリックはやっぱりムカつくバカだった。あのバカはコトが終わって、ゼワリン領で事情聴取されていた期間に、「まっ、何とかなったな。結果良ければすべて良し。おう、そういや、金の取り分どうするよ?」とヘラヘラと能天気に言ってきやがった。イラっと来た。
「テメェ、誰のせいでこんなことになってんだ?」
横にいたリナもムカついたのだろう。
「その態度は何?ホント最低」
「ち、違うんだよ」
「何が違うんだ?このヤり逃げ野郎が」
「お、俺はヤり逃げなんかしてねぇ」
「ホント不潔」
「酔っぱらって喧嘩しただけだろうが。ヤり逃げなんかしてねぇって」
「酒のせいにすんじゃねーよ、ヤり逃げ野郎が」
「うるせぇ。お前は黙ってろ」
そして、乱闘が勃発した。あのガキ、マジでムカつく。
だが、最悪の凶事があったのは、オレが王都に帰り着いたまさにその日のことだった。あまりに大事になってしまった弊害なのか……。
「ただいま戻りました」
オレは執務室で待っていた父上と母上に挨拶した。二人共無表情だった。嫌な予感がヒシヒシとしたわ。
「災難だったな」
父上がそう言った。
そりゃ、連絡は来てるわな。それは想定内だ。
「いや、それほど大したことはなかったです。まぁ、良い経験になりました」
事の発端といっていい保証人の件という隠し事のあるオレは当り障りのない答えをした。それに、なにより眠たい。帰還の挨拶なんぞ早く終わらせたかった。
「ほう、大したことない……か」
父上がつぶやいた。ちょっと嫌な間があった。
「ところで、今回の護衛の依頼だが、お前は班としての経験を積むとかなんとか言っておったな」
「……はい」
もうこの時点でオレは良くないことが起こるのを確信していたといってよかった。
「今日の昼前、ヒュー殿が見えられてな……。頭を下げていかれた。後日、エリック殿と共に正式に挨拶に来るとのことだ」
「……」
この後、マジ切れされた。夜中の三時まで。オレ、結構疲れてたんだけど……。
「当主に無断で保証人になるなど考えられない」とか「立会人に裏の人間もいるなんて」とか「それを黙っているなどもっとあり得ない」とか「娼館への借財など、世間に洩れたら我が家の威信は地に落ちていた」などなど。
大体、この辺のループだった。1回聞いたらわかるっちゅーねん。クドクドクドクドと同じ事を。こっちは、「はい、申し訳ありません」って言ってるのに、「本当にわかってんのか?」とくる。どう返事して欲しいのか先に言っといてくれ。
しかもだ。信じられないことに、高位魔剣と中位魔剣とお金――あのあと捜査への協力があったから、流石にビガたちは商談をキャンセルせざるを得なかったが、オレたちがいなければ死んでいたと言って、王都に着くや否や依頼料と共にボーナスをくれた――を没収された。「これは家で預かる」ってね。
なんでだよ?
いや、言ったよ。オレはちゃんと「ノー」が言える漢だからね。
「あの二振りの魔剣は、双子派スーザン流の剣士として、一騎打ちに勝ち、古来からの伝統に則り、勝者の正当な権利として得たものに他ならず、私個人のものです。また、依頼料も私個人が仕事を達成し、得たものです。父上の言は不当な言い分と言わざるを得ません」
そしたら、母上が「だから何?」とか言うのよ。デスマスク並みの無表情でさ。メタクソ怖かった。思わず、「いえ、なんでもありません」って言っちゃった……。
オレは毅然として「ノー」と言える漢になりたい。……クソが。




