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次回更新は8月8日(土曜日)21時台の予定となります。
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オレたちは2階のちょっと大きめの会議室みたいなところに案内された。廊下側に出入り口が二つ、反対側の中庭に面した側は窓になっている。方角は……よくわからん。ケッ、どうせ方向音痴だよ。
長机の上に軽食が載っている。とりあえず、オレは適当に席に着いた。
てかさぁ……。
これって詰んでねぇか?完全に死地だろ、ここ。確かに、オレたちはまぁまぁ強いよ。その辺の騎士に後れを取るとは思えない。でも、殺し合いなんて所詮は数だ。オレたちはたった6人ぽっち。しかも、戦力外の2人を守りながら。ゼワリン騎士団が何人いるのか知らんけど、百人もいれば終わるだろう。
となると……。
逃げるしかねぇんだが……。まぁ、窓からしかないわな。身体強化術を使えば2階程度から飛び降りても怪我なんぞしない。ただ、そんなことは向こうもわかっている。まっ、一応、確認はしとくべきか。
オレはできるだけさり気なく立ち上がって伸びをしながら、窓辺に行った。外を見る。中庭からコッチを見上げている騎士と目が合った。だが、予想に反して、1、2、……9人しかいない。
え?ん?ラッキー……?
いやいや、あとで増えるんだろう、などと思っていると、目の端に何か動くものが見えた。正面玄関の方だ。旗指物と共にゾロゾロと騎士団が出て行く。多分、オレたちをここに連れて来た連中だ。
……。
んんん?どこ行くの?なんで?はぁ?舐められてんのか?それとも、フランクの考え過ぎ?……いや、さっきからこの領主館に流れている妙に張り詰めた緊張感。中の人をやっているときに何度も経験したやつだ。絶対、これから人死にが出る。絶対だ。
しばらくして、ゼワリン男爵が来た。さっきはあんまりちゃんと見てなかったけど、よくよく見ると、男爵は白髪交じりで年の頃は50歳くらいの細身の男だった。男爵は改めて、「我が領で不逞の輩に」どうのこうのという挨拶をし始めた。グダグダと喋っている。オレは全く聞いていなかった。なぜなら、廊下に人の気配がドンドン充満しだしたからだ。殺気のオマケ付きで。これ、隠す気ねぇだろ。
オレの両隣にいるリナとマリアも廊下の殺気に気づいたようだ。今から速攻で男爵を人質に取るという考えがチラッと頭をよぎったけど、まあ、無理か。オレは二人に「中庭に人が少ないから、無理そうなら、窓から逃げるぞ」と小声で伝えた。
そのときだ。急に男爵が叫んだ。
「よし。やれ」
入り口から騎士たちが乱入してきた。皆、剣を抜いている。今日の殺し合いはこれで最後にしてくれよ、と思いつつオレも長机を蹴倒して立ち上がり、剣を抜いた。オレたちはビガとビシャの二人を背に窓際で一列になって応戦し始めた。
闘いは当初からオレの予想に反してオレたちが優勢な展開になった。なんせ敵は出入り口からしか入って来ないので、背後を取られる危険がない。屋上とかから窓を蹴破って入ってくる可能性も考えていたが、その気配はなかった。だから、前だけに意識を集中できる。しかも、腕の方も昨日の山賊どもより落ちる奴が多いような気がする。正規の騎士のはずのにどうなのかと思わなくもないが、楽でいい。おまけに、思ったより敵の人数が少ない。30人ほどか。ちょっと、拍子抜けだ。
4人倒すと、周りを確認する余裕ができた。エリックがさっき男爵と内緒話をしてオレを値踏みした奴と殺り合っている。予想通り、ソイツはそこそこ遣う。だが、エリックは結構、余裕を持って闘っていると見た。他も同じだ。
男爵は?と思い探すと、ちょうど出入り口から逃げ出すところだった。ここは大丈夫そうだ。隣のリナに一声掛けてから、あとを追った。行きがけの駄賃に、1人殺っといた。オレが廊下に出ると、男爵が端の部屋に入っていくのが見えた。走って行って、部屋の中を慎重に覗くと、男爵が本棚をどかしているところだった。壁に小さな扉がついているのが見える。
「どこへ行く?」
男爵がパッと振り返った。オレを見ると、「チッ」と小さく舌打ちし、細剣を抜いた。右腕と細剣を一直線に伸ばし、オレに切っ先を向けてくる。
やっぱり、北派かよ。
オレは晴眼に構えながら、なぜかため息が出そうになった。なんだかなぁ。……つーか、やっぱ、生け捕りにしないとダメだよな?領主が山賊とグルだってだけで、大問題なのに、教国の影がガッツリと……ねぇ?となると、「秘剣・真受」が使えないんだけど。取り調べとかで秘剣のネタバレされたら、シャレにならんからな。
男爵は右半身の構え、どかした本棚で背中を、小さな戸のついた壁で左側面を守る形だ。じっと動かない。
……参ったな。
このままじゃオレが不利だ。あの構えに正面からは流石にいけない。左右のどちらかから崩すしかない。そして、左構えのオレとしては左、つまり、右構えの背の方に行きたいが、本棚が邪魔だ。かといって、右に行くと右構えからは良く見える位置になるし、逆にオレが背をとられる危険もある。まあ、負ける気はしないが、できれば部屋の真ん中まで引っ張り出したい。
それに……。
覚悟が決まってそうな眼をしている。こういう手合いは厄介なんだよな。相打ち狙いとかヤメテくれよ、メンドくさい。
高名な細剣遣いが格下相手に命を落とすのは相打ちのケースがほとんどだったりする。というのも、細剣は与える傷が小さい。そのうえ、人間は致命傷を負っても即死することは少ない。たとえ細剣で心臓を貫かれても、十数秒くらいは生きて普通に動ける。他の臓器だと半日くらい生きていることもある。だから、相手は心臓を突かれながらも相打ちに持ち込む最期の一撃を喰らわせる事が出来る。これが長剣による斬撃だと与える傷が大きく、いろんな筋肉やら骨を損傷させることになる。そうすると、即死はせずとも体がまともに動かないから、相手は最期の一撃を放てない。細剣の欠点だな。
はぁ、やっぱ、殺しちゃダメ?
秘剣を遣えば、すぐ終わるんだけど。どうしたもんかね?……てゆーか、別にこのままでいいのか。さっきの感じからして、もうじきリナたちがこっちに来れるはずだ。……ああ、いや、男爵のところの騎士が逃げてくる可能性があるか。
うーん……。
とりあえず、廊下の物音に気を配りつつ、現状維持だな。ついでに、攻撃ならぬ口撃を仕掛けて、チャンスがあれば行くってところか。
「なぁ、アンタ。山賊風情と組むなんてよっぽど金に困ってたのかい?女?それとも博打?」
「……」
反応なし。
「ゼワリン男爵家って結構長く続いてる家なんだろう?その最後が山賊の片棒担いで終わりって、情けないねぇ」
「……」
「つーか、奥方とか子供とかは居るの?今、王都?可哀想に。アンタのせいで首チョンパ確定なんだけど」
「……」
クソっ、ピクリとも反応せん。男爵はポーカーフェイスのままだ。
「そういや、アンタもカーチャ教なの?」
オレがそう言うと、男爵の目がわずかに見開かれた。半ば反射的にオレは男爵の突き出した右腕の小手を肘と手首の返しだけで上から下に斬りにいった。体の方はすぐにバックステップできる態勢だ。男爵はわずかに遅れながらも腕を引き戻し、ナックルガードないし剣の根元で受けようとする。
かかった!
オレは剣の軌道を変え、「C」の字を描くようにして、男爵の受けを躱し、下から小手の内側を突いた。手応えあり。素早くバックステップして、間合いの外に出る。
男爵が剣を持つ右手を下げた。右手の剣がブラブラ揺れている。持っているのがやっと、といった感じかな?まだ誰も来ない。しばらくこのまま待つか。
「へぇー、カーチャ教ってことは内緒なの?」
男爵がオレを睨みつける。
「お布施のし過ぎで金欠になったのかな?聖戦費用が嵩んでるって話だしねぇ」
「……」
男爵がまたポーカーフェイスに戻った。
……うーん、カーチャ教との関係を知られたくなかったみたいだけど、なんでだ?
すると、「デレク」とオレを呼ぶリナの声が聞こえてきた。向こうも無事に終わったようだ。
「端の部屋だ。男爵もいる」
オレはそう大声で返した。すぐにリナが部屋に入って来たのが目の端に見えた。オレは最大限の注意を男爵に払っていたつもりだったが、その瞬間に少しだけ気がそれたのは否定できない。男爵が右肩を前に出すような動作をしてオレに細剣を投げつけてきた。切っ先なんか明後日の方向を向いていたのに、オレはとっさに真横に避けてしまった。男爵の左手が腰から短剣を引き抜いたのが見えた。「あっ」と思いつつ、前に出るが、間に合わない。男爵が己の左の首筋に短剣を突き立て、引き抜いた。ビュ―っと勢いよく血が噴き出る。そして、ゆっくりと男爵が床に倒れた。
マジか……、クソが。
リナと黙って目を見交わしたあと、オレは倒れ伏している男爵に目を遣った。ゆっくりと血溜まりが大きくなっていくのが見えた。




