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3-14

いつもお読みいただきありがとうございます。


次回更新は7月11日(土曜日)21時台の予定となります。


今後ともよろしくお願いします。

 オレはゆっくりとエリックたちに近付いて行った。高位魔剣を持った山賊の代表みたいな奴からは目を離さない。その山賊もオレを観察するようにジッと見ている。オレの左手にある高位魔剣にもチラッと目をやり、一瞬、ほうっと少し感心したような顔をした。そして、右手にだらんと細剣を下げたまま何もせずにオレを待っていた。


 うーん、夜中の奇襲に向かないというデメリットに次ぐ、我が高位魔剣のデメリット其の二ってところか。ガキだと思って油断してくれなくなる。


「すまん。助かった」


 フランクが心配そうに見ているなか、エリックが悔しそうにそう言った。「余計な事すんな」とか言い出したら蹴り飛ばすところだったが、コイツも少しは大人になったようだ。もっとも、あの山賊との我彼の実力差を痛感しているのかもしれない。そうだとしたら、厄介な相手だ。


「おう。お前らは他の山賊どもをやれ」


 オレがそう言うと、エリックは「レニン流だ。かなり遣うぞ、気をつけろ」と応えた。そして、一度、山賊の代表みたいな奴に目をやってから、他の山賊どもの方に向かった。


 レニン流はグローブ流と並び立つ細剣術二大流派のもう一つの流派だ。大体、大陸で細剣遣いを10人集めれば3人くらいはレニン流がいるといわれている。


 レニン流は円を描くような曲線的な動きと多彩な受け技が特徴で、まずは相手の攻撃を受けたり、躱したりすることを重視し、隙を突いてヒットアンドアウェイの要領でじっくりと相手にダメージ与えていくという、どちらかというと「後の先」の戦い方を得意とする流派だ。歴史的には、レニン流はグローブ流――当時はグローブ流が細剣術界のダントツの一強だった――を破るために編み出されたという経緯があったりする。レニン流が編み出された当初はグローブ流はその横の動きについていけず、カモにされていたらしい。レニン流は最強の細剣術として持て囃され、門人が激増したとかなんとか。


 正直、個人的にはレニン流は遣りずらい相手だという認識だ。中の人をやっているときにレニン流の闘い方は何度も見たことがあるし、実際に闘ったことも数知れずある。何てゆうかイライラする闘い方をする。コイツらチマチマとホントに陰湿なんだ。フットワークもいいし、なにより受けが本当に手堅い。そして、とにかく受けて受けて受けまくる。変に払って相手の態勢を崩そうとかしない。粘り強く堅実に受けに徹する。で、焦って接近戦なんかに持ち込むとエラい目に合う。コイツら鍔迫り合いはもとより巻き上げや巻き落としとか超得意なんだよな。レニン流とやるときは剣を合わせちゃダメってのが鉄則だったりする。エリックのバカも巻き落としでも喰らって剣を手放すまいとして体のバランスを崩して地面に転がったんだと思う。まあ、見てなかったから、知らんけど……。


 オレは改めてその山賊を見た。うん、コレは強いわ。しかも、持ってる高位魔剣のあの存在感よ。明らかに高位魔剣の中でも業物だと思う。


 ソイツはおもむろにうっすら青く光っている細剣を構えた。腕と剣をまっすぐ前に伸ばす構えだ。レニン流の北派だ。……いやいや、北派って。珍し過ぎる。てゆうか、南部で北派の剣士を見るのは初めてかもしれん。


 北派は別名で神殿派ともいわれていて、カーチャ教のナントカって神殿がその発祥の場所になる。だからだろう、大陸の最北部にある教国――カーチャ教の教皇が国家元首の国――の御留め流だ。大陸南部にある我が国ではレニン流は南派が主流、というか、南派しかいないはずだが……。というのも、詳細は今は省くが、教国は北のバカ帝国とカーチャ教および国家の存亡をかけた聖戦の真っ最中だ。だから、教国御留め流のレニン流北派の剣士は全員総出で戦争に参加しているはずだった。


 山賊は名乗りもせずに無言のままゆっくりとオレの周りを円を描くように回り始めた。セオリー通り、左構えのオレの背を取ろうとする動きだ。上空から見たら反時計回りになるだろう。


 オレはちょっと驚いた。名乗らねぇのかよ、えっ?って感じだ。この強者の雰囲気で高位魔剣まで持っているような剣士だ。切紙くらい絶対に持っているだろう。そして、切紙持ちの剣士は闘いにおいて、ましてや、こんな一騎打ちの場合には必ず流派と自分の名を名乗る、と思うんだが……。まあ、別にそんな決まりがあるわけではないんだけど、伝統というかねぇ、常識というかねぇ。


 なんで?なんか訳ありなのか?破門されたとか?うーん、……まっ、今はいいか。


 不思議に思いつつも、オレも名乗らず晴眼に構え、切っ先が常に相手の眉間に向くようにその場で足を踏み変えながら体を回していく。


 レニン流北派独特のこの構えも鬱陶しいんだよなぁ……。


 この構えはもう上体は突きを放っている形になっているから、あとは足を踏み出すだけで突きが完成する。それどころか、相手が間合いに踏み込んできたら、向きの調整だけで自ら踏み込まないでも相手が勝手に剣に突き刺さってくれることになる。だから、コッチからヘタに踏み込めない。そうして今みたいに間合いの少し外の距離に居続けられると、相手のペースにはまる。オレを中心にしてグルグルと回るステップに緩急やフェイントを織り交ぜられて、わずかにでも隙を見せると、細剣と腕を伸ばしたままで足を踏み出すだけの軽い突きが飛んでくる。そして、チクチクとダメージを喰らってイラついて飛び込むと堅く受けられて、さらにイラついて動きが粗くなると、カウンターを取られる。面倒な相手だった。


 まあ、本来ならね……。


 だって、気付いちゃったんだもん。この構えって、オレとか婆さんにとっちゃあカモがネギどころか鍋まで背負って来たようなもんだ。ちょうどいい塩梅に剣を突き出してくれてるし。それどころか、剣を合わせるのを向こうが待っている節もあるからね。


 ふむ、相手が名乗らなかったのはオレにとってはラッキーだったのかもしれない。名乗られていれば、オレも普通に名乗り返していたところだ。双子派スーザン流がジッと相手が来るのを待っているのは怪し過ぎるからな。……さてと、あとは油断だけはしないようにしないとな。


 オレは身体内の魔力を震わせ始めた。


 山賊はトン・トン・トンと一定のリズムのステップでオレの周りを3周回った。1周ごとにじりじりと間合いが縮まってきている。オレは少し焦れながらも、堪えて待っていた。こういう待ちの戦い方は性に合わないみたいだ。


 山賊がもう1周回ったところで、一挙手一剣足の間合いに入った。そこで、山賊はトン・トン・トンからトン・トン・ト・トンとリズムを変えたステップを使った。中の人をやっていた時に何度も見た緩急をつけたステップだった。とはいえ、ほんの一瞬だが、体の向きを合わせる対応が遅れた。山賊がスッと踏み込んできた。少し差し込まれた形の余裕のない受け方になってしまった。とはいえ、そこまで突きに威力はない。オレはその突きを受けることができた。


 秘剣・真受。


 オレの態勢が若干とはいえ乱れているのを見て取ったのだろうか。山賊が連撃の為に細剣を手元に手繰り寄せる動作をした。が、それが途中で乱れる。オレは悠々と相手の胸に突きを繰り出した。ヒット。心臓だ。二撃目は要らない。大きくバックステップした。


 山賊は呆然と口を半開きにした顔で自分の右手の細剣を見て、次にオレを見た。そして、いやにゆっくりと左手を上げ、胸を抑えた。


「女神よ、どうか我に安らかな抱擁を……」


 山賊はオレから目を離さずに呟くようにそう言った。そして、ガックリと膝から崩れ落ち、うつぶせに地面に倒れ込んでいった。


 うん、やっぱり……。


 今のはカーチャ教の祈りの言葉だった。葬式とか己の死期を悟った人とかが唱える定番の祈り文句だ。でも、カーチャ教の信者はウチの王国にはほとんどいなかったと思う。となると……、北派といい、この祈りの文句といい、絶対に教国の人間だ。つーか、神殿騎士だよな、コイツ?何でこんなところに居るんだ?聖戦はどうした?しかも……、山賊?


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