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4-6

来週はゴールデンウイークということもあり、所用で更新できません。申し訳ありません。


そういう訳で、次回更新は5月9日(土曜日)21時台の予定となります。


今後も読みに来てくださると嬉しいです。よろしくお願いします。


 オレは娼館の中を突っ切ってさらに奥の方に案内された。多分、帳簿を付けたりとかそういうことをする事務所的なところだと思う。下にも置かないって程じゃないけど、まぁまぁ丁寧な感じだ。「こちらにどうぞ」と言われて、その部屋に入った。さすがに腰の剣に手をやることはしなかったが、いつでも抜ける態勢ではいた。


 部屋の中には、かなり太った男とスキンヘッドの痩せたおっさん、そして、エリックがいた。二対一で小っちゃい机を挟んで向かい合って置かれた二人掛け用くらいのソファーに座っている。


 エリックはオレを見ると、あからさまにホッとした顔をした。ちょっと左の目尻の辺りが腫れているが、元気そうだった。


 太った男とスキンヘッドが立ち上がる。オレは一人で座っているエリックの横に行った。


 太った男は大して暑くもないのに、額に汗を浮かべている。それを拭きながら、「御足労をお掛けして、大変申し訳ありません」と言ってきた。オレは肩をすくめて応えに代えた。太った人にありがちだが、イマイチ年齢が分からない。でも、コイツは普通の商売人だと思う。


 問題はスキンヘッドだ。見たところ、そこまで遣う感じではなかった。だが、間違いなく、堅気の人間じゃない。しかも、そういう組織の幹部っぽい雰囲気だ。中の人をやっているときにこの手合いはよく見てきた。言葉で説明するのは難しいが、どこか醒めた、人が簡単に死ぬのを何度も見てきた目つきとでも言うべきか。軍人たちやハンターどもに通じるものがある目つきだ。でも、それだけじゃない。商売人に通じるような妙に柔らかい雰囲気もある。おそらく、この店の用心棒というかケツ持ちしている組織の幹部なんだろう。メンド臭ぇことにならなきゃいいが……。


 太った男がヘコヘコしながら「どうぞお座りになって下さい」と言った。事を荒立てるつもりもないので、素直に座った。


「手前、この店の館主をしているガトーと申します」


 太った男がそう自己紹介してから、自分の隣を見た。


「こちらは当館の顧問をしてもらっているアルビ殿です」


 アルビが笑顔で頭を下げる。ふーん、前面には出て来ないか。重石替わりってとこかな。


 オレは名乗り返すべきかどうか一瞬迷った。どういう状況なのかさっぱりわかっていないからだ。普通に家名を名乗ってもいいものか。でも、エリックからの結び文を貰ったときに「デレク・ジュライフィールド様ですか?」と言われたのを思い出した。加えて、ガトーのやけにへりくだった態度は貴族向けのものだ。ただのガキにする態度じゃなかった。


「ご丁寧に、どうも。デレク・ジュライフィールドだ」


 そして、「で、なんでオレが呼ばれたんだ?」とエリックを見た。エリックはダンマリに入った。ちょっと両頬を膨らませているのが、なんか余計にムカつく。説明しろよ、とイラッとしたが、此処で言ってもしょうがない。


 そのとき、お茶が運ばれてきた。持ってきたのは腰に短剣をぶら下げた女だ。細身で40過ぎくらいか。だが、コイツは遣うな、と思った。お茶を置いたりする動作がめちゃくちゃ滑らかだ。女はそのままアルビの後ろに居残った。


 皆がお茶を一口飲んでから、ガトーが「手前から説明させていただきます」と言った。


 話は超シンプルだった。エリックが店で暴れたからその損害を賠償してくれってことだった。もう少し詳しく言うと、発端は他の客がエリックに「なんでガキがこんなところに」と言ったことらしい。夜の店内は職種からしても薄暗くて、その客はエリックが貴族と分からなかったようだ。それに双方が酒を飲んでいた。口論に発展した挙句、エリックがソイツをブッ飛ばした。ついでに、あとから来た店の警備担当の者相手にも大暴れした。おかげで、いろいろ損害が出たってことのようだ。


 ……なんでだよ?。


 その客をぶん殴るのは百歩譲ってわかるわ。店の者はダメだろ。呆れたし、ガクッと力が抜けるし、オレに何の関係があんのかわからんし……。


 ガトーが「請求させて頂く額がこちらに」と書面をオレに差し出してきた。なんでオレに?と思ったけど、流れで受け取った。


 こないだまで買い物なんかに行ってたからわかるけど、オレと婆さんの生活費の15年分くらいだろう。オレがまともな金銭感覚をしているとは思わないが、なかなかのお値段だと思う。


 そんなことを考えていると、ガトーが内訳を説明し出した。ウチの警備の人間の医療費がどうたらとか備品の壺や額が壊れたやら壁に穴が開いたとか言っているが、別にオレには関係ないのでスルーする。


「これが医者の領収書や壊れた物の見積書などです」


 ガトーがそう言って、またもオレにそれらの書類を差し出してきた。チラッとエリックを見ると、前を向いて腕組みし目を閉じていた。いやいや、お前の問題だろーが。つーか、寝てんじゃねーだろうな。しょうがないから受け取った。


 一応、なんとなくそれらを見ていると、「しかし、無手でもお強いのなんの、さすがシンシャ流ですな」とかガトーがしゃべっている。そして、オレが見終わるタイミングで、「ご納得いただけたら、こちらにサインを」と新たな書面を出してきた。またオレにだ。


 なんかの証文のようだ。しかも、もう既にエリックの名前が家名付きで書いてある。というか……。


「……オレのサイン?」


 オレは聞き返した。


「ええ、こういう場合、第三者の方に保証人になって頂くのが通例でして」


 はあ?嫌なんですけど……。


 流石にマズいだろ。娼館に借金って……。バレたら確実に父上と母上に殺される。つーか、なんでオレなんだよ?エリックを見ると、なぜか偉そうに頷いてきた。このボケ、さっきは寝てたくせに……。


 証文の中身を読んでみる。んんん?無期限?金利無し?はあ?オレは思わず証文の裏面も見た。白紙だった。ガトーを見ると、苦笑いを浮かべて言った。


「こういう商売をしている以上、ウチにもメンツってものがあります。だから、たとえ御貴族様といえども見逃すことはできません。とはいえ、御貴族様、それも海賊八家のヒュー家やジュライフィールド家と揉める気はありません。かかった実費だけ貰えれば十分です」


 うーん……。


 エリックを見た。エリックがまた頷いた。ホントに大丈夫なんだろうな?コイツ。はぁ、てゆーか、そもそも家に無断で保証人になること自体が大問題なんだけど……。しかも、裏社会の人間もいるし。ヤバ過ぎるだろ、こんなの。どうしよう?……まぁ、でも、ヒュー家のみならず海賊派は裕福で有名だからな。明日どころか今日中に返せるか。あとは証文を燃やして証拠隠滅。オレはサインなんかしていないったらしていない。


 ……でもなぁ。


 スッゴイ嫌なんですけど。オレはもう一度エリックを見た。エリックはやたら気合の入ったというか、妙に覚悟の決まったというか、そんな目でオレを見ていた。オレが来たときはショボくれてやがったくせに……。オレはしぶしぶ筆を取った。


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