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「やっぱり、私も行きます」
一旦は待機することに納得したマリアがまたゴネ出した。オレたちは今、レッド通りの入口付近にいる。
「だから、さっきも言ったろ。それは悪手なんだって」
というのも、文の文面は「誰にも言わず、一人で来てくれ」だった。にもかかわらず、二人で行った日にはエリックがどうなるかわからない。しかも、万が一面倒ごとになったときはマリアに援軍を呼んで来てもらわないといけない。二人で行っても、向こうが人数をかけてきたらどうせやられちまう。まぁ、その前に普通にエリックを人質にされるだろうしね。
「お前はここら辺に居て、2時間経ってもオレが帰って来なかったら父上に報告しろ。なっ、頼んだぞ」
「いや、でも……」とかまだ渋るマリアを「これがベストだから」とか言って強引に納得させた。
オレはレッド通りに入った。なんか行く前から疲れている。はぁ。両サイドに並ぶ店の名をさり気無く確認しながらゆっくり歩いて行く。「ヘブンズ・ドア」って看板を見つけた。エリックからだと思われる文に書いてあった店の名だ。
ここか……。
結構デカい店だ。そして、明らかにエッチなお店だった。しかも、ライトな店じゃなくザ・娼館だった。それに、なんとなくだが、かなりの高級店かもしれないとも思った。クソっ、エリックめ。
オレはさも他所に用事がある体で行き過ぎる。さすがに朝っぱらだからか、人の出入りはなかった。それに、別段、他の店と比べて警備が物々しいとか変わった雰囲気もない。ただ、門のところに、門番なのか、やたらイカツイ体格の男が二人いて、うち一人の耳が潰れていたのが見えた。無手の技を修めてそうだ。ソイツらはオレのことをチラッとは見たけど、それだけだった。オレはとりあえずレッド通りのドンケツまで行った。
さて、どうするか?……。
といっても、とりあえず行かないと何もわからないんだけどね。
そもそもの話だが、オレはエリックの字なんか見たこと無いから本当にエリックからの文かわからねぇ。
仮に、正真正銘エリックからの文だったとすると、オレに何の用だ?って話だ。金が足りない?まぁ、有り得るけど、文には「金を持ってきてくれ」なんて書いてなかった。ただ「誰にも言わず、一人で来てくれ」って書いてあっただけだ。うーん……、オレを呼ぶ理由がまったくわからん。
じゃあ、エリックの名を騙ってオレを呼び出したとして、誰が?何で?って話になる。オレはヘブンズ・ドアなんて店に行ったことがない。ヘブンズ・ドアの直接的なオレに対する恨みとかではないと思う。もっとも、結構デカい店だったから、どっかの貴族家と懇意にしていて、そこから何らかの指令が出ていると考えられなくもない。となると……、ストロウライトか?それくらいしか心当たりがない。でも、ストロウライトがやるかね?御不浄決闘に泥を塗るような真似したら、普通に御家御取潰しになってもおかしくない。それに、それ以前に、細剣遣いたちに殴り込みかけられて族滅するだろう。そんなアホなことするか?多分、しないと思う。他は心当たりゼロ……、でもないか。ジョナサン君のホワイトバーンも有り得るっちゃあ有り得るか。でも、息子の顔の形をチョロっと変えたくらいでそんなことするかね?一応、ホワイトバーンも王国では名の知られた武門の家だ。子供の喧嘩に家がシャシャリ出るなんて恥ずかしい真似はしないはずだ。
それに……、あの雑な文の渡し方もねぇ。文の内容と全然マッチしてないんだよなぁ。あんな貴族街のど真ん中で、しかも、マリアがいるところであっさり渡されたからなぁ。どう考えても御内密にって感じはしない。オレの勘はそこまで深刻な問題ではないと告げているけど、当てにはならんような気もする。うーん、まぁ、あれだけデカい店だとそれなりに世間体ってもんもあるから、朝っぱらから大騒ぎになりそうなことはしなさそうにも思えるし……。
まあ、一応、マリアの保険もあるし、行くか。最悪、殺し合いになっても、2時間半くらい粘ればウチから援軍が来る。
オレは来た道を戻り、ヘブンズ・ドアの門の前に立った。門番の二人がオレを見ている。耳が潰れてる方はもとより、もう一人の方も結構喧嘩慣れしてそうだった。
正直言って、オレはちょっと緊張していた。残念ながら前の人生で娼館に来たことはなかった。そりゃそうだろう、前の人生では金なんか湧いて出てくるものみたいな感覚だったとはいえ、全部ジュライフィールド家のツケだったのはわかっていた。まだガキだったから、娼館のツケなんか家に回したら確実にボコられる。そして、実は中の人としても来たことはなかったりする。まぁ、あの妖剣クソ野郎の趣味は人をいたぶって殺すことで、こんなところのまっとうな?サービスじゃあ興奮しないんだと思う。
オレが近付いていくと、耳が潰れている方が声を掛けてきた。
「すいやせん。今は営業時間外でして」
「ああ……、いや、エリックって奴にここに来いって言われて来たんだけど」
オレがそう言うと、「確認してきやす。ちょいとお待ち下せえ」と言って、店に入って行った。なんか意外にちゃんとしてんなと思ったし、コイツらはオレが来ることを知らなかったくさいなとも思った。




