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4-7

 ガトーたちに見送られ、オレとエリックはヘブンズ・ドアの門を出た。レッド通りの入り口の方に向かって、しばらくの間、黙って歩いて行く。オレの内心にはサインしたことへのウジウジした思いがいまだいろいろと残っていた。それに、エリックには言いたいことが山ほどあったけど、店先で言うのもどうかと思ったからだ。しかし、ヘブンズ・ドアからある程度離れたところで、オレは我慢できなくなった。まずは、とにもかくにも一番大事なことをエリックに念押ししておかなければならない。


「おい、金は早めに払っといてくれよ。オレの名前も証文にあるんだからよ」


「……いや、金がない」


 エリックはそう宣った。なぜか無駄に落ち着いた佇まいでだ。


「はあ……?何言ってんの?お前ん家、金あんだろーが?」


「家にはあるけど、俺は持ってない」


「……?」


 そりゃそうだろう。そんなことはわかってんだよ、このバカ。……どういうことだ?ちょっと意味が分からない。オレが何と返していいか、わからないでいると、エリックが言った。


「お前は何も心配すんな。俺が必ず返す」


 ……んんん?何言ってんだ?コイツ。「俺が必ず返す」?「俺が」?はあ?


 すると、おもむろにエリックが足を止め、オレに向き直って、「デレク、すまなかったな」と頭を下げてきた。


「いつもと変わらず平然としてるお前を見て目が覚めたよ。俺はセコイことを考えていた。家にバレたら怒られるとか、跡目が遠退くとかな。小せぇ男だったわ」


 平然としてた?いやいや、大分嫌々だったし、サインすんのなんかかなり躊躇してただろ、オレ。どこ見てたんだよ?


「でも、おかげで覚悟が決まったよ。テメェのケツはテメェで拭く」


 ……全然話が見えないんですけど。まあ、テメェのケツがどうののくだりはまさにその通りなんだが、しかしだ。クソっ、なんかとてつもなく嫌な予感がしてきた。


「……いや、それはいいけど、どうするつもりなんだよ?」


 オレが恐る恐るそう聞くと、エリックはメチャクチャ真面目な顔で応えた。


「今から、家に帰って、ヒューの家名を返上してくる」


「……はあ?」


「それで、ハンターでもして、コツコツ返していくよ」


 エリックがやけに静かな眼でオレを見てきた。オレはあまりにも理解不能で、二の句は継げないわ、白目をむきそうだわで、てんやわんやな状態だ。


 ……そういえば。


 なんか前にもコイツのこんな目つきを見たような……。あのときは、確か……強くなれるかどうか、聞かれたんだったな。うん、そうだ。なんか一人で納得してたな。そんでもって、コイツはあれからビックリするくらい急激に強くなっている。まぁ、まだオレの方が強いけど……。いや、それはいいとして、このバカの思考プロセスはまったくもってオレには意味不明なんだが、一度やると決めたらやる奴だ。それだけは確かだ。ハンター?あれだけの借金を返すのに何年かかるんだよ?いくら返済は無期限だといっても、限度はあるだろう。仮に2、3年経ってもまだほんのちょっとしか返せていないとかだと、家に督促が来る可能性は普通にある。


 しかも、有耶無耶にして踏み倒す気だなんて思われた日には厄介な状況になる。あのアルビとかいうハゲだ。ケツ持ちが立ち会った契約を反故にされるなんて裏社会の連中は絶対に許さない。自分たちの組織のメンツにかけて、貴族相手でも闘うだろう。そして、裏社会の連中は面倒な相手だ。真正面からやり合うのならば、ジュライフィールド家やヒュー家といった大身の、しかも、武門の貴族家が裏社会の連中に負けることはあり得ない。オレやエリックだって刺客には勝てるだろう。だが、あくまで真正面から闘うという条件ではだ。アイツらは貴族相手に真正面からは闘わない。買い物に出かけた使用人やちょっと外に遊びに行った騎士の家族といった弱者を襲う。御用商人なんかも狙い目だ。そう、いつどこで誰が狙われるかわからないんだ。そうなると、使用人は退職したり商人は御用達を辞退することになったりする。実際、中の人をやっているときに、あの手の裏組織の依頼で貴族の使用人を襲ったことがあった。そうこうしているうちに、コトが表沙汰になると、家名が地に堕ちることになる。金の貸し借りで揉めて裏社会の連中に喧嘩を売られたうえに、家中の者が襲われて怪我したなんて、貴族にとっては致命的な事態だ。貴族なんてものはその成分の半分以上は「信用」から成り立っているもんだからね。


 おまけに、コッチから逆襲を仕掛けるのが難しいんだよな。ああいう裏組織のメンバーが誰かを特定するのはその道のプロでも難しいからだ。ヘタすりゃ、ボスが誰かもわからん場合がある。もちろん、町一つ灰燼に帰す勢いでやるならば話は変わってくる。肩がぶつかって骨が折れた並みの訳の分からない因縁をつけられた場合のようにコッチに大義があれば、ウチみたいなある程度の大身の貴族はソレをするだろう。王家のお膝元の王都だろうが関係ない。組織に関係していそうな商家に片っ端から踏み込んで行って、尋問という名の拷問で組織の関係者を吐かせていけば、アイツらも音を上げざるを得ない。もっとも、平民層の反感は間違いなく買うから、貴族側もダメージはデカいけど。とはいえ、貴族もナメられたら終わりの商売だからな。


 ただ、今回はそんなことにはならんだろうけどね。なんせ証文にガッツリとオレたちがサインしちゃってるからね。しかも、結構な大金とはいえ、ウチやヒュー家にとっちゃ端した金だ。あの証文を持って家に行けば金を払ってもらえるのは皆が分かっている。いや、ホント、このバカ、何考えてんだ?家名返上?はあ?本当に意味が分からんのだが……。


 てゆうか、ハンターって……。コイツが魔獣討伐とかでヘタ打って死んだら、結局、オレが金を返すことになるんじゃねーか。


「いやいや、ちょっと待て。なにもそんな大事にしなくても……」


「いや、もう決めた」


 エリックのくせに、やたら爽やかな顔をして言ってくるのがムカついてしょうがない。だが、今はグッとこらえるときだ。とはいえ、オレにもいい考えがあるわけでもない。クソっ、なんでこんなことに……。


「ちょ、ちょっと待てよ。早まるなって。ほら、あれだ……。そ、そうだ、とりあえず、フランクにでも相談しよう。なっ、なっ」


「いや、これ以上恥をさらしたくない」


 ……面倒くせぇ。


 コイツ、たまに変なモードに入るよな。どうすんだよ、コレ?最悪だ。オレが家でバチクソに怒られる未来しか見えんのだが……。しかも、このバカ、マジでこのままだと家名捨ててハンターになりかねん。いや、別にいいっちゃあいいんだが……いや、ダメだ。落ち着け、オレ。


 そのとき、マリアがオレたちに気付いて、駆け寄って来るのが見えた。オレは早口に言った。


「おい、とりあえず、マリアには何も言うなよ。そんでもって、話はあとだ。いいな、絶対に勝手な真似はすんなよ」


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