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学園は王城の北東の方角にある。もともと王都は王城を中心として円形に町が作られていった。まず、王城の周りを貴族の屋敷がぐるりと囲んでいて、貴族街とよばれている。次に、貴族街の周りの東西と南は平民街になっている。現在もなお拡張中だ。北は王国騎士団の敷地で、騎士団関係の建物や練兵場や厩舎などがあり、厳しい審査を経た民間のご飯屋なんかも出店している。王国騎士団を北に置いたのは北の帝国との戦争の後詰めをするのに少しでも近いところにということらしい。
で、学園は王国騎士団の敷地に隣接するようにある。それゆえ、通学路が貴族街と王国騎士団の敷地内になるため、治安がとてもいい。近衛第二騎士団と王国騎士団の騎士の巡回もあるしね。だから、貴族でも徒歩で通学している者が多かったりする。
そして、各家のサロンは学園を中心として王城に近い西に王家、北に大公家をはじめとする譜代の武官系の家、南に譜代の技官系、東に譜代の文官系と外様という具合に置かれている。当時は今と派閥が異なっていたからね。
オレはサラと学園の授業なんかについての雑談をしながらちょっと遠い海賊派のサロンに向かった。ちなみに、マリアはいない。稽古の日は学園で合流することになっている。
すると、校門のところで出て行こうとする知った顔とばったり会った。チャーリー・キャッシュだった。コイツもグローブ流王都中央道場の門下生の一人だ。そして、キャッシュ家は大公派だった。
「よう。サラとデレク先生じゃねーか。今、来たのかよ?」
「そうだけど、どっか行くの?」
サラがそうチャーリーに言った。
「道場に忘れ物した。あっ、そうだ。ついでに、外で飯でも食おうと思ってんだけど、一緒にどうよ?」
「いや、ちょっと用事があってね。悪いな」
「そうか、残念」
全然残念そうでないチャーリーに「学園で先生はやめろ。バカ」とオレが言うと、「先生は先生じゃねーか」とニヤニヤしながら言い返してきた。そして、「じゃーな」と手を上げ、チャーリーは校門を出て行った。
この問題もあったな……。
いまだにちょっと違和感があるのだが、オレは大公派の細剣閥の連中と普通に仲良くおしゃべりする仲になっていた。大公派とだぜ。前の人生では考えられないことだ。
それに、オレがどうこうという前に、そもそも細剣遣いは派閥関係なく仲が良いようだった。学園内でもよく周りを見てみると、ちょいちょい王党派と大公派の細剣遣いの学生が学食で一緒に飯を食ってたり、廊下でダベっていたりする。いや、ホント、前のオレは何を見ていたというのか?まったく気づいていなかった。王党派と大公派は皆仲が悪いと頭から信じ込んでいた。
オレなりに考察してみたところ、その理由は二つあると思う。まず流派が同じ、つまり、同門が多いってことだ。長剣術だと王党派はフォレスト流で大公派はフェルビー流って感じにきれいに分かれていた。でも、細剣術はそうではない。グローブ流王都中央道場にも王党派と大公派がごちゃ混ぜで通っている。だから、他にもチャーリーみたいに道場で一緒の奴らがたくさんいる。まあ、特にグローブ流は大陸では二大流派だが、王国では細剣遣い10人中7人くらいはいるといわれている一強といっていい流派だしね。
そして、もう一つは長年虐げられてきたことから来る団結力だ。細剣が大型魔獣討伐でも戦力になるようになって、まだ300年とか350年くらいだ。まあ、300年は長いといえば長いんだけど、その前まで千年単位でずっと細剣は軽く見られてきた。この差別されてきた者たちの一体感は半端ないものがある。学園が始まった後、御不浄決闘の勝利のお祝いをオレのところに言いに来てくれた他派閥で他流の細剣遣いが何人いることか。おかげで、前の人生では名前どころか顔すら知らなかった他派閥の奴とも話すようになっている。それに加えて、そういった歴史的な背景で伝統的に単純な数でも長剣遣いが多く、細剣遣いはいまだに少ない。細剣遣いは剣士の5人に1人くらいだろう。そういう少数派としての団結力もあると思う。
なんか……。
今から話に行く用件のことを合わせて考えると、恐ろしいような気もしてきた。アレがきっかけで派閥の均衡がおかしくなるとかやめてくれよ。つーか、声を大にして言いたい。オレは悪くない。悪いのはスードだ。オレは已む無くだ。クソっ、あのブタ、死んでからも祟りやがるんじゃねーだろうな。
オレにとって海賊派のサロンはもう我が家みたいなもんだ。完全に顔パスでズンズン中に入っていく。もはや全員顔馴染みと言っていい連中に「おう」っと挨拶を交わしながらフランクを探すと、フランクはいつもよくいる2階の遊戯室のソファで本を読んでいた。
オレが「よう、フランク。ちょっと、いいか」と声を掛けると、フランクが本から顔を上げて「ああ、デレク」と言ってから、サラを見た。そして、あれっ?って顔をして思わずといった感じで言った。
「エリックは?」
「ん?……。いや、知らねーけど」
「……昨日の夜、遊びに行ったんじゃないの?」
確かに、昨日の夜、オレはエリックとホワイト通りに行った。ホワイト通りとは王都の健全なお店が立ち並ぶ繁華街だ。王都の先輩としてエリックを連れて行ってやった。ちなみに、普通の貴族子弟はそんなところに自分たちだけでは行かない。エリックは放任主義の海賊派だし、オレは父上に剣の腕を認められているので結構自由にさせてもらっている。
「ああ、昨日な。飯食って、ちょっと遊んだだけだぞ。オレは今日朝から稽古だったからな」
フランクが眉をしかめる。オレが「エリックがどうかしたのか?」と聞くと、フランクは肩をすくめてみせた。そして、サラに目をやった。
「それより、サラ・パーカー殿だよね?どうしたの?」




