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僕は第三王女エリザベス・セプトリンドバーグの部屋に行った。従者として明日の予定の確認をするためだ。でも、彼女はそこにいなかった。人がめっきり減った王家のサロン内を探すと、エリザベスは遊戯室の窓から外を見ていた。僕は話しかけようとしたが、あまりに寂しげな背中にそうすることができなかった。
第三王女は終わった、というのが貴族界隈の統一見解となりつつある。残念ながら、それは僕も否定できない。デレク・ジュライフィールドと会ったあの日に全てが終わってしまった。
あの「不浄の剣」という言葉を軽く見たかのような「言葉の綾」という発言で細剣遣いたちを敵に回してしまった。いや、細剣遣いだけじゃない。長剣遣いたちも「剣の誇り」を知らぬと蔑んでいる。武官系はもうエリザベスを相手にしていない。
そして、技官系からも総スカン状態だ。エリザベスはあの場の最上位者であり、学園における技官系のトップだった。にもかかわらず、上手く話を収められなかった。その挙句、決闘になり将来有望な魔術師を一人死なすことになってしまった。特に理論派の連中の怒りは凄まじいものがある。
王家としても庇いきれないどころか下手をすると王家自体も危ういという判断で、エリザベスは切り捨てられた。王家の公式見解は「全ては第三王女の独断と偏見から出たもので、王家は関係ない」というものだ。内々にだが、その旨の書簡を関係各所に届けまわっている。
あの日まで「あのデレクさんがそんなに凄い剣士になるとは想像もできませんでしたわ」とか「どれほどの腕前なのかしら?エド、ちょっと手合わせしてみてくださらない?」などと嬉しそうに言っていたのが、こんなことになるなんて……。
でも、デレク・ジュライフィールドを責めるわけにはいかないだろう。彼は彼のなすべきことをしたまでだ。それに、一度はスード・ストロウライトに撤回と謝罪のチャンスを与えもした。あれは細剣遣いとしては最大限の譲歩だったはずだ。それでも、当事者の一人であり、王党派武官系筆頭のジュライフィールド家の彼がエリザベスに寄り添うポーズだけでも見せてくれたら、エリザベスもここまで……。いや、そもそも彼がエリザベスの勧誘を断らなければ……。だが、それはあまりにも虫が良すぎる話だった。
それに、サラ・パーカーももうサロンに顔を出さなくなった。パーカー家は細剣閥だけでなく正騎士爵家全体への影響力も絶大だ。そして、サラも細剣の腕前はもとよりサッパリした性格や誰に対しても平等な態度などで王都在住の同年代のリーダー格の一人だった。特に女子たちからの信頼が厚かった。エリザベスが最も気を遣い、かつ、最も友人になりたいと思っていた女子だった。もちろん打算はあっただろう。何せエリザベスはサラとは正反対で女子受けが最悪だった。特に子供の頃は酷かった。どうもあの容姿は女子に本能的に忌避されるようだ。まあ、エリザベスも男子を操るのが簡単すぎて、一時期調子に乗っていたというのもある。途中で気付いて、なんとか同年代の女子たちとの関係を構築し直そうとしたが、難航していた。その橋渡し役を期待していたはずだ。だが、一方でエリザベスは単純にサラのことが人として好きだったフシがある。最近になってようやくサラとプライベートな秘密の話をしたとかって喜んでいたのに……。
もう今や王家のサロンに来るのは文官系の子達くらいだ。それも日に日に減って行っている。
実は僕も親からいろいろ言われている。従者を辞めた方がいいんじゃないか、とすら言われた。しかも、第二王子からのお誘いも来ている。僕の能力を買っているとのことだった。
チェイス家は大した家柄ではない。本当なら僕に王族の側付きの役が回ってくることはなかった。しかし、自慢じゃないが、僕は剣も学問も子供の頃から他の子よりズバ抜けて良くできた。それで、8歳のときから同い年のエリザベスの側に付けられた。
エリザベスは見た目通りの人ではない。芯のある強い人だ。でも、とても聡明なくせに抜けているところもあるし、すごく純粋でいて結構黒いところもある。不敬かもしれないが、僕にとってはとても可愛らしい人だった。そして、とある理想を密かに掲げていた。それを僕にだけ打ち明けてくれた。王国の貴族を真の意味で一つにしたい、と。だが、全ては……。
エリザベスが僕に気付いた。
「あら、エド。どうしたの?」
「君を探していたんだよ。明日の予定の確認をね」
……僕はずっと君の側にいる。




