3-15
マクガバン先生をはじめとする見届け人たちがペーターの死の確認や今後の段取りの相談なんかをしている間に、オレはオレ側の関係者がいるところに来ていた。関係者と言っても父上と兄上とマリアしかいない。婆さんは手紙が届いたかどうかのタイミングだし、オレにも同門は一応いるそうだが、会ったこともない。家中の者も王都屋敷の連中はあんまり知らないし。
「よくやった」
父上がオレの肩をバンバン叩いて、見たこと無いくらい興奮を露わにしていた。その横で、兄上も顔を紅潮させている。
「ペーター・アビニョンから妻子の庇護を頼まれました」
「うむ、聞こえておった。このあとすぐにストロウライトのところに行く。私に任せておきなさい」
父上はそう言って、「ほれ」と水筒を差し出してくれた。「ありがとうございます」と言ってオレはそれを受け取った。
水を飲み、「ふー」と一息つくと、急に頭と体が重くなってきた。こんなに疲れを感じるのは久しぶりだ。体はもちろんだが、精神の方も限界だった。最後の方のやり取りがアドリブ全開過ぎて、アレで良かったのかと思う。それに最期の一撃はめちゃくちゃ緊張した。手が震えそうになるのを抑えるのに必死だった。
……それにしても、強かった。
地力は明らかにペーターの方が上だった。秘剣がなかったらオレが死んでいただろう。その秘剣にしても少し魔力の振動が足りないように感じたのだが……。オレは腰の魔剣を手で触れた。必死過ぎてよくわからなかったが、コイツが力を貸してくれたのかもしれない。勝ちをなんとか拾ったとしかいえない勝負だった。
オレがそんなことを思っていると、突然「どこに行く!」と怒声が響き渡り、続いて「逃がすな」とか「まだ殺すな」とかいう緊迫した声が聞こえてきた。
ザワついている方を見ると、スードが地面に押さえつけられていた。「嫌だ」とか「なんで僕が」とか「父上、助けてください」と叫び、なんとか体を動かそうともがいている。
「見苦しい」と兄上が吐き捨てるように言うのが聞こえた。
スードを取り囲んでいた人たちの中からマクガバン先生がオレたちのところにやって来た。
「お見事な勝負でございました。祝着に存ずる」
先生はニコニコの笑顔でオレにそう言って、「それで、どちらにしますか?」と聞いてきた。
一瞬、へっ?ってなった。あんまり頭が働いていない。でも、父上の「本人の最期の話だろう」というアシストでどうにか理解できた。
代理決闘において代理人が負けた場合の代理人を立てた本人の最期の話だった。本人は当然死ぬことになるが、その作法が二通りある。パターン其の一は決闘の勝者自ら手を下すというもの。パターン其の二は本人が自ら毒杯をあおるというものだ。この二つのパターンに意味合いの差みたいなものはないらしい。そして、御不浄決闘の場合、其の一が選ばれることが多いけど、其の二でも何ら問題ないとのことだったはずだ。
……どうしよう?今、頭回ってないんだけど。
オレはチラッとスードの方を見た。スードと目が合ってしまった。
「ああ、デレク。許してくれ。不浄の剣と言ったことを取り消し、謝罪する。頼む、許してくれ」
今さらかよ……。クソっ、気分悪い。
困って、父上を見ると、父上が顔をしかめながら言った。
「アレとデレクは子供の頃から知った仲だ。毒杯でいいんじゃないか?」
「……そうですね。毒杯の方でお願いします」
こうして、スード本人の最期は毒杯に決まったのだが、スードは泣き喚いて毒杯を飲もうとしないので、見届け人たちが抑えつけて無理やり口の中に毒を流し込むという事態になった。オレは決闘の勝者の義務としてそれに間近で付き合わされた。
後味が最悪の御不浄決闘が終わった。




