表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/52

3-14

 三日なんてあっという間だった。控室から案内役に先導され、オレは決闘の場となるガードン流長剣術王都東道場の中庭に立った。足元が少しフワフワしていて体が若干重い。


 ……昨日、寝れなかった。昼間、リナから激励を受けたときは余裕ぶっこいてたのに……。


 マズい。自分の体じゃないみたいだ。寝不足と緊張だろう。昨日ベッドに入るまでは、オレも切紙持ちの端くれで、何とかなるだろうと思っていた。多分、ザコ相手だし。だが、考えてみれば、中の人として嫌というほどオレの体が殺し合いをするのを見てきたが、オレがオレの意思でオレの体を動かして人間相手に殺し合いするのは前の人生も含めて今日が初めてだった。それに、万が一にも負けたら……。死ぬのは嫌だけど、しょうがないなという思いもある。そんなことよりも、ここまで仕込んでもらった婆さんに申し訳ないし、なんだかんだ愛着が湧いてきている双子派が弱いと思われるのも嫌だ。正直、そのプレッシャーが半端ない。


 大丈夫だ。落ち着け。オレはまだ若い、一晩くらい寝てなくても問題ない。それに、どうせザコだ。とにかく落ち着け。オレがそう自分に言い聞かせていると、決闘相手が来た。30代後半くらいか。中肉中背で顔もこれといった特徴のない男だった。長剣を腰に差している。


 案内役が離れ、周りにズラッと見届け人や関係者がいるなか、オレたちは適当な距離までお互いに歩み寄った。


「双子派スーザン流、デレク・ジュライフィールド」


 オレはそう名乗り、抜剣して晴眼に構える。


「オウバル流、ペーター・アビニョン」


 相手がそう応じ、長剣を八双に構えた。


 えっ?……。


 流派を名乗った?オウバル流?……確か、大陸北部のマイナー流派だ。しかも、長剣の剣身が赤い。高位魔剣だ。はあ?周りもどよめいていた。切紙持ちなのか?オレは相手をよく見た。どっしりと地面に根付いているかのように立っていた。


 ……強い。オレより上かもしれん。


 嫌な汗が背を濡らす。だが、幸いにもペーターは動かず待ちの姿勢だ。もうやるしかない。とにかく集中しろ。


 オレは一つ大きく息を吐き、前に出た。間合いに入った瞬間、左に行くと見せて右にステップをきる。しかし、ペーターはフェイントには引っ掛からずに、オレの動きに余裕でついてきた。


 牽制のスピード重視の軽い突きを顔面に放つ。右八双から中段に構えを移すようにして払われた。思ったより強い払いだ。オレは手首と肘の力を抜いて時計回りにクルリと剣を回してから胴に突きを、と思ったのだが、ペーターの剣が絡みつくようについてきてオレの剣先が明後日の方向を向かされた。


 あっ、と思ったら、もう胴に平突きが伸びてきた。これは躱せない。襟首に人差し指をひっかけて胸の前に置いておいた右手でペーターの剣の腹を左斜め下に向けて払った。だが、手のひらに衝撃はなく、辛うじて剣に触れた感触があるだけだ。オレがしたかったことを逆にされた。肘を支点にクルリと剣先が回転し、ペーターが右八双の形になった。


 クソっ、詰んだか?


 ドッと額に汗が噴き出たのが分かった。向こうは万全の構えだが、オレは右手の払いがスカされた形だ。少しだけだが体勢が崩れている。次の袈裟の一撃は受けられるけど、今よりさらに体勢を崩される。その次はもうわからない。そして、その次の次は……。オレは覚悟を決めるしかなかった。


 ペーターの袈裟斬りが左肩めがけて来た。剣の根元の方で受ける。辛うじて右手も添える事が出来た。が、いかんせん体勢が悪い。たたらを踏むように後退させられた。オレは地面に尻もちをつくようにして倒れ、その勢いを使って後転をし、膝立ちになった。ペーターがスムーズな追い足で迫ってくる。剣はまたも八双の位置にビタッと止まっていた。


 誰が見ても勝負ありと思うだろう。一方は立っており、他方は膝をついている。どう考えても立っている方が有利な状況だ。立っている方は全身の力を使え、さらに重力の助けもある。しかし、膝立ちでは上体の力しか使えないうえ、移動すらできない。後転分の距離すなわち時間は稼げたが、ほんの一瞬延命しただけだ。


 だが、オレはその時間が欲しかった。二撃目の袈裟斬りを真っ向から受け止めた。秘剣・真受。


 オレはかなり押し込まれて、地面に横倒しにされた。が、それはオレにとっては想定内。でも、ペーターは……。すぐに地面を右ひじで押し、腹筋もフル稼働させ、上体を起こす。もう一度八双に剣を戻そうとしていたペーターの動きが止まっていた。驚いた表情で自分の手元を見ていた目がオレに戻って来る。オレは座ったままペーターの左ひざに突きを入れ、素早く地面に倒れ込みながら寝返りを打つ要領でゴロゴロと転がる。わずかに遅れて振り下ろされたペーターの剣がオレの背をかすめた。跳び起きる。ペーターが地面に剣先を埋めたまま、オレを見ていた。


 ……手応えは良かった。落ち着け、詰めを誤るなよ。


 オレがゆっくり間合いを詰めていくと、ペーターはまたも右八双に剣を取った。一つフェイントを入れてから、左に回り込む。ペーターは右足のかかとに体重を乗せてうまく向き直った。だが、左足はまともに動いていない。スピードを上げて、もう二歩回り込み、目線と肩の動きで顔面を突くと見せてから、右足の内腿に突きを入れる。コツンと骨の感触があった。サッと間合いの外に出る。


 嬲るつもりはさらさらないが、ここまで来て油断をするつもりもない。オレは晴眼に構え直す。ペーターはもはや剣を杖のようにして立っていた。しばしの間、オレたちは見合った。やがて、ペーターはオレから視線を外し、左側を見た。オレはペーターから目を離さない。ペーターは誰かに一つ小さく頷いてから、オレに向き直り、「お見事」と言った。そして、剣を地面に突き立てた。


 オレは構えを解き、間合いのわずかに外まで歩を進めた。ペーターが足を震わせて立っている。だが、まだ油断はしていない。


「何か言い遺すことは?」


 オレがそう聞くと、ペーターは応えた。


「妻と娘の庇護をお願いしたい」


 ……なるほど、ストロウライトから腹いせに何をされるかわからんか。


「我が剣に懸けてデレク・ジュライフィールドが承った」


「有難い、感謝致す」


 ペーターはそう言って、少し考えるような表情をしてから、唇をほとんど動かさずオレにだけ聞こえる声で聞いてきた。


「あの技の名は?」


 ……アレのことだよな?一瞬迷ったが、オレも唇を動かさず最小限の声で応えた。


「秘剣・真受」


「フフフ、良い冥途の土産になり申した」


 ペーターはそう言って、もう一度左側に目をやった。オレにはやけに長く感じられた時間だったが、実際はそうでもなかったかもしれない。ペーターがオレに向き直った。


「お願い致す」


 ペーターが目を閉じた。オレは「いざ」と声を掛けてから、細剣を眉間に突き入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ