3-13
サラが相変わらずバキバキにキマった目をしたまま聞いてきた。
「この後どうされますか?」
「……?いや、家に戻って、父に報告をと考えておりますが」
あとは婆さんにも手紙を出さないといけない。つーか、ホント、なんでオレについて来たんだ?
「ああ、もちろんそうですね。ただ……、私も詳しくは知らないのですが、御不浄決闘では他流派への報告なども必要と聞いたことがあるのですが」
「えっ、そうなんですか?」
マジか……。まぁ、「不浄の剣」と呼ぶことは細剣術の全流派への挑戦だからなぁ。てゆうか、凄い目つきで案外冷静なんだね……。
「どうでしょう、私の師に相談されてみては?デレク殿はまだ王都の他流派の細剣道場への伝手が少ないでしょう?先程もお話した通り、師はキャンベル先生とはお友達ですし。それにデレク殿にぜひお会いしたいと言っていましたから、きっと力になってくれると思います」
うーん、確かにオレは何もわかってないけど……、いいのかな?と迷っていると、なおもサラが言ってくれた。
「デレク殿には決闘の方に集中して頂きたい。ぜひ師に相談して、余計なことは任せちゃってください」
いやいや、軽いノリで師匠を使うんだな。でも、こうまで言ってくれているし、ゲーリーと友達だってんならいいかなと思った。
「ありがとうございます。そうさせて頂きます。これからお伺いしてもよろしいですか?」
「はい。師は道場におられます」
マリアを報告のため先に家に帰し、オレはサラとグローブ流細剣術王都中央道場に向かった。その道すがら、オレはさっきから消えない疑問をサラにぶつけてみた。
「あの……、なんでスードはあんなに緊張感がなかったんでしょうか?御不浄決闘を知らないとかあるんですかね?」
「……ああ。うーん、おそらくですが」
サラはそう言って、自分の見解を教えてくれた。曰く、王都にいる魔術師は理論派と呼ばれる連中が多い。そして、理論派は魔法を戦闘に使う技術というより神からの贈り物と捉えその解明をすることで神に近づこうと考えている。だからかどうか、学究肌で少し浮世離れした者が多く、貴族でも「帝国と戦争などしている暇があるなら、研究がしたい」と公言したりする。で、スードは領地に帰らず、ずっと王都に住んでいて、理論派の高名な魔術師に師事してきた。おそらく、御不浄決闘のことはもちろん武人の誇り等も知識としては知っているが、現実のものと捉えきれていないのではないか、とのことだった。それから、「王女もそうでしょう」とサラは最後に付け加えた。
お、おう……、王女「殿下」のくだりは意味深だな、と思った。でも、前の人生を含めたスードのオレや武官系への態度の謎が少し解けたような気もする。象牙の塔から野蛮な未開人を見下ろすような感じだったのだろう。
「……しかし、あのブタ、いい代理人が見つかるんですかね?フフフ。ストロウライトの家中に腕利きがいるという話は聞いたことがありませんが」
サラが冷笑を浮かべてそう言った。
へー、家中に人がいないというのは朗報だ。そして、ゲーリーの剣術豆知識講座によると御不浄決闘の代理人探しは難しいらしい。
そもそもの話だが、剣士と魔術師が直接決闘することはない。開始線の遠近で勝負が決まるからだ。もう少し詳しく言うと、魔法には詠唱が必要だから、詠唱が終わる距離があれば魔術師が、それより近いと剣士が勝つ。そんな始まる前から勝負が決まっている決闘は神聖なものとはいえないという理由だ。
ちなみに、魔術師同士の決闘もない。かなり昔はやっていたそうだが、開始線の距離に合わせた魔法のチョイス――詠唱の長さと飛距離と威力の相関関係から決まる――が重なることが多く、相討ちが続出して、決闘の意味がないとなったからだそうだ。
これらのことから、魔術師が決闘するときは剣士を代理人として出すことになっている。
蛇足だと思うが、一応言っておくと、決闘で代理人が負けると、本人もその場で死ぬことになる。
で、なぜ御不浄決闘の代理人探しが難しいかと言うと、代理人になったということは細剣が「不浄の剣」だという考えに同調したのだとみなされるからだ。そうすると、その後の仕官も雇い主側が細剣遣いに配慮して嫌がることになる。ハンター同士のパーティーとかでも同じだ。それに、剣の師匠からは確実に破門どころか絶縁される。
もっとも、決闘は神聖なものという考えが武人には根付いており、もはや絶対的な信仰とすらいえるので、決闘の結果を覆すような真似はしない。ゆえに、御不浄決闘に勝った相手方――細剣に喧嘩売った側――本人はもとより代理人や家族に細剣遣い達が直接的な報復をすることはない。だから、何らかの事情があるとか条件次第では、凄腕の代理人が見つかることもある。
……嫡子の為にストロウライトが法外な金を積む可能性はある。まっ、今考えても仕方ないことだ。
そのあと、王都中央道場でオレはドナルド・マクガバン先生に会うことができた。先生は笑顔でオレを歓迎してくれ、次に話を聞いて鬼神の顔になり、最後は「私に全てお任せあれ」と頼りがいのある顔を見せてくれた。
そして、トントン拍子に話は進み、三日後に決闘となった。




