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3-10

 オレはマリアを伴い王家のサロンにやって来た。学園における王党派の牙城ともいえるのが王家のサロンだ。


 そもそも、サロンって何って話だ。


 学園が創られてしばらくすると、学園生から不平不満の声が続出した。やれ「学生食堂が昼時に込み過ぎて、昼食が食べられない」だの、「練武場の予約がいつもいっぱいで取れない」だの、「魔法試射場が狭すぎて長距離魔法の練習ができない」だの、「図書館の読書スペースが少なくて立ち読みしなければならない」などなどだ。


 そこで、学生食堂をはじめとした建物を新たに建てようとなった。学園はその当時、王都のはずれに創っていたので、土地はある。しかし、国庫に金がなかった。帝国とのかなり大きめの戦争があり、さらに折悪しくちょっとした飢饉も重なったからだ。


 で、当時のリーダー格の大貴族が寄付――傘下の貴族からの寄付も含む――という形でそれぞれが食事処兼休憩所的な意味合いの建物や、他にも武官系の家は武闘場、技官系の家は魔法場、文官系は図書館みたいな感じで建てた。なんでそれぞれが同じような使用目的の建物を勝手に立てたのかはオレにはわからん。何かしらの貴族的アピールがあったんだろう。ともあれ、自分が建てた建物を自然と大貴族とその寄子たちが自分たち専用で使うって感じになった。もちろん、ジュライフィールド家のサロンもある。兄上がいるから、行くつもりはないが。


 オレが門のところで名乗ると、すんなり中に入れてくれた。前の人生でここにはよく来ていた。ちょっと懐かしい。スロープを歩いて正面玄関に行く。連絡がいったのだろう、開けっ放しになっている扉の中に入ると、一人の女子生徒がわざわざオレの迎えに来ていた。見知った顔だ。サラ・パーカー、細剣遣いだ。


 パーカー家は正騎士爵――王家の直臣の騎士爵を「正」騎士爵と呼ぶ――で代々、近衛騎士を務める家だ。今の当主、つまりサラの父親は近衛第二騎士団の偉いさんで王家をはじめとしたVIPの護衛をする部署のトップだったはずだ。王党派武官系細剣閥のリーダー格で、かなり影響力のある人物の一人だ。そして、サラはおそらく学園における第三王女の従者とは別の護衛役だ。女同士じゃないと行けない場所もあるしね。それに、今だけじゃなく将来的にもそうなるだろう。


 前の人生でオレはサラとはほとんど話したことがなかった。いつも生ゴミを見るような目で見られた記憶しかない。まぁ、前のオレのあの体たらくでは嫌われていたのだろう。しかし、今は見たこと無いニコニコ笑顔で、「初めまして、サラ・パーカーです」と挨拶された。オレはちょっと動揺したが、それを隠し、「デレク・ジュライフィールドです」と挨拶を返すと、「お噂はかねがね聞いております」と言われた。


 はあ?……。


 オレがびっくりすると、サラは面白そうな顔をして、「私の師であるドナルド・マクガバンとゲーリー・キャンベル先生はお友達でして、師匠からデレク殿の話をよく聞かされます」と言われた。


 あのジジィめ……。


「……いや、良い話だといいのですが」


 オレは何とかそう返事を返した。


 サラは「殿下がお待ちです」と言って、2階にある第三王女の部屋に案内してくれた。知ってるから一人で行けるけど。……というか、えらい歓迎ぶりだ。普通、迎えなんて寄越さない。なんか気が重くなってきた。


 王女の部屋の前の廊下に従者っぽいのが二人いた。その内の一人は顔をボコボコに腫らした男子学生だった。んっ?と思ってよく見ると、昨日ジョナサンに付いて来ていた従者のナントカ君だった。おお、これは帰ってからジョナサンに腹いせに殴られたんだなと思い、「お前も大変だな」と声をかけると、「は、はひっ」とかよくわからない返事をされた。しかも、ナントカ君は床をずっと見つめていた。


 物凄く嫌々だが、オレは部屋に入った。王女がわざわざソファーから立ち上がって出迎えてくれた。はぁ、座ったままでいいんですけど……。


 部屋には他に3人の学生がいた。全員知った顔だ。いずれも当然王党派の家、しかも、うち二人は重鎮といっていい家の子だ。将来の第三王女の側近候補の連中だろう。王女の座るソファーの後ろに立っている。オレから見て左からジョナサン、スード・ストロウライト、エド・チェイスだ。


 ジョナサンはナントカ君と同じで、床をじっと見つめていた。でも、顔の腫れとかはまぁまぁ治っていた。自分だけポーション飲んだらしい。ケチくさい男だ。前にも言ったと思うが、コイツの家は王党派武官系長剣閥のナンバー2の重鎮だ。トップはウチね。


 で、スード・ストロウライトだが、ストロウライト家は魔術師の名門で、王党派技官系の筆頭と目されている家だ。スードはそこの嫡子でなかなかの魔法の腕だったと思う。小太りで嫌味な男だった。ちなみに、第三王女も、というか、王家は魔術師を多く輩出する家で、技官系の総元締めともいえる。


 そして、エド・チェイスは武官系の正騎士爵家の子だ。そんな大した家柄ではないが、小さい頃から剣と学問で抜群の才を示し、王女の側付きにされたとかって話を聞いたことがある。学園における王女の従者だ。オレは前の人生でコイツが死ぬほど嫌いだった。


 サラが王女とオレの間にある机の左側に立ち、王女が俺に席を勧めた。オレは右腰の剣を右手で鞘ごと抜き、そのまま手に持った。王の御前ならいざ知らず、王女相手ではこんなもんだろう。マリアが俺の後ろに立った。


 まずはオレが昨日挨拶に来れなかったことを詫びてから、お話し会が始まった。はぁ、帰りたい。


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