夢現
僕らはコーヒー牛乳を飲み干し、温泉を後にした。
「ちょ、ちょっとフリージアさん」
「なんだい?蓮くん」
「温泉を後にしたのはいいんですけど、僕たちこれからどうするんですか。外も暗くなってきて、これから冒険はちょっとしんどいですよ」
「まあ、そう心配しなさんな。今日の晩はウチで過ごしなさい」
「泊めてくれるんですか?」
「そうだと言ってるだろ。夜メシも出すよ」
「本当ですか!?」
「ああ、疲れてるだろうし、姉さんの頼みでもあるからな」
「わーい!」
2人は温泉代もコーヒー牛乳代も払っていただいた上に、ご飯まで出してもらえて、さらに寝床まで用意してくれるフリージアに申し訳なくなったが、言葉に甘えることにした。
* * * * *
街の中心から少し外れた場所に、フリージアの家はあった。
「飯、できたぞ」
「ありがとうございます!」
フリージアさんが作ってくれたのは、牛丼らしきもの。男飯って感じがする。
「これはオーク肉丼だ」
「オーク!?」
海と僕はオークと聞いて同じものを想像したと思う。
「オークってあの二足歩行の豚みたいなやつですか?」
「ブタ?っていうのはよくわからないが、あの牙の生えたでかい二足歩行の生物だ」
オークって食えるんだ...。
「牛丼じゃなくて豚丼だ」
海がぼそっとつぶやいた。
そこ重要かなぁ...。
「まあ、豚丼だね」
しかし、元のを想像すると本当にうまいのかはよくわからない。
「いただきます」
僕は勇気を出して、口へ運んだ。
「...うまっ!?」
あの姿からは想像できないくらいうまい。豚丼と全く同じ味がする。
海も目を輝かせて食べている。
「ごちそうさまでした!」
「満足いただいたようで何よりだ。あとは歯磨いて寝なさい」
「はい!」
僕らはフリージアに従って寝る準備を済ませた。
「お前らが寝る部屋はここな」
そう言ってある一室に導かれた。
部屋は五畳半ほどの広さで、フローリングの床にダブルベッドが一つポツンと置いてあった。
「いつも俺が寝ている部屋だ。ベッドは全て新品のものに交換してある。一度も使ってないから安心しろ。広さはダブルだ。まあ十分だろう。明かりは蓮の水の力で消してくれ。水量の調節は自分でやってくれ。じゃあ。おやすみ」
そう言ってフリージアはどこかへ消えた。
ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。
いくらダブルベットだとはいえ、2人並んで寝るのはハードルが高いだろ!小学生の頃だったらただの幼馴染だし何も意識してなかっただろうけど、今は幼馴染でも意識してしまう。中学生だぞ!
海もそうだろ。
「わあ、ダブルベッドだって。並んで寝るのは小学生以来だね」
くそ。海があまり意識してなそうなのが悔しい。
「そうだね。久しぶりだね」
なんとか平常心を保つため、他愛もない返事をした。
2人並んでベッドに入った。
僕は海の方を見ていられないので、海に背を向けて寝た。
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
寝られるかな...。
* * * * *
ベットに入ってから3時間ほど経っただろうか。
僕は案の定、緊張で眠れなかった。
「蓮。...もう寝てるか」
突然、海の声が聞こえた。声の聞こえ方から、こちらを向いているような気がする。
「ダブルベッドのこと言った時、蓮はあんま意識してなさそうなんて思ったでしょ。そんなことないからね。私だってドキドキしてる。大体、蓮は顔に出過ぎなんだよ。全部わかっちゃうよ」
...。
「今日、蓮が恋バナをしたって言った時に、私だったらいいな、なんて思ったの。もし、蓮が他の誰かを好きになったとしたら、大切な幼馴染が他人に取られてしまうなんて、嫌で嫌でたまらなかった。恋したことないから、この思いが恋からくる感情なのか、友情からくる感情なのかわからないや」
...。
「私が厨二病なのは、蓮に少し気にかけてもらいたかったから。別に根っからの厨二病ってわけじゃない。ローズに厨二病って言われた時はびっくりしたけど。やっぱり私、蓮が好きなのかも。自分の気持ちなのに、わかんないや」
...。
「寝てる時にこんなこと言う私は卑怯だね。おやすみ」
ん?
え?
いやいや。起きてるんですけど!?
1から10までガッツリ聞いてしまったんですけど!?
海が僕のことを好きなのかもしれない?いや、でもかもしれないだからな。確証はないか...。
やばい。心臓の音、うるさい。
* * * * *
ピヨピヨ...。チュンチュン...。
朝になってしまった。寝たのか寝てないのかよくわからない。
夜中はずっと夢現な気分だったな。
あの言葉が今でも脳裏に焼き付いている。
夢だったのか?それとも本当に海が言ったことなのか?全くはっきりしない。
今日の海の様子見て考えるか。
「おはよう」
海の消えるような声が聞こえた。
寝起きのせいか声が低い。
「よく眠れた?」
声の低さに落ち着いた雰囲気を感じて心地よい。
ずっと聞いていたい。
僕の意識が遠のいた。
* * * * *
「...きて!おきて!蓮!」
「ん?」
「起きないか...。右手に宿し力が、蓮を起こす力となる。いでよ!超日光」
勢いよくカーテンが開いた。
突如降り注ぐ日光が僕の目を焼き尽くす。
「うわぁぁ!」
「起きたかい?」
朝の支度を済ませたであろう海が僕の顔をのぞいた。
「ちょっともう時間だよ。なんで私が起きたら寝始めちゃうの?」
「あ...ごめん。色々心地よくて寝ちゃった」
「私が早起きじゃなかったら、大変なことになってたよ」
「おはよう。海。起こしてくれてありがとう」
「いいよ。別に。次はちゃんと起きてね」
海は部屋を出て行った。
なんか、同棲してるみたい。
いや、僕キモいな。
* * * * *
「おう。早いな、海。もう起きたのか。おはよう」
「おはようございます。フリージアさん。1時間くらい前には起きてましたよ。ちょっと散歩してきました」
「おお、そうか!いいね!朝散歩!あっ。そうだ。あとちょっとで朝ごはんできるから、ちょっと手伝ってくれない?」
「わかりました」
「蓮はもう起きてくるか?」
「はい。おそらく」
海は洗い物を任された。
「海は厨二病なんだってね。僕の姉さんもそうだったよ。海も姉さんみたいになるかもね」
「ローズさんほど強くはなれないと思いますよ」
「いや、なれるよ。海から感じるんだ。魔王を倒せる力を持っていると」
「本当ですか?」
「ああ。あと、海ちゃんよりは劣るけど、蓮も厨二病じゃないのに、力を使えるのはすごいことだ。これから冒険に出るだろう。初めはワシガ村という村に行くといい。あそこにも厨二病の村長さんがいるから、会ってみると力をもらえるかもしれんぞ」
「蓮に最初はそこへ行くように伝えておきます」
「あと騎士秩序には気をつけろ。特に四天王だ。あいつらはなかなか手強いぞ」
「...わかりました」
海は喉を鳴らした。
転移して1番初めに会ったあいつのことだ、と海は思った。
「手伝ってくれてありがとう。これ運んでもらっていい?」
「はい」
フリージアさんの飯はうまい。
このご飯もとても美味しそうに見える。
トーストの上にカリカリのベーコンと目玉焼きが乗っている。
「れ〜ん!れ〜ん!起きて〜!」
「起きてるよ」
「えっ!?いつの間に!?」
さっきまでいなかったはずの蓮が椅子に座っている。
海は寝起きだから気が付かなかっただけだと思い、まあいいかと深くは考えなかった。
フリージアは過去に、よく姉に料理を振る舞っていたので、彼の作る飯はうまいのである。




