29話 秘密のツーショット
「……な、なんだよ。なんでこうなるの。やっぱり動画回してる?」
「あは、どこにどうやってカメラ置くの、こんな場所に。雨まで計算に入れられる超人だったら、もっと楽な人生送ってるよ」
「……じゃあまた恋人らしいことの練習?」
「ううん、ちょっと違うかな。これは、そう、雨宿りだよ。それに寒いからさ、少しだけこうしてよ? 風邪引かないために。だから、これは練習じゃなくて緊急対応なの」
美夜は色々と都合のいい理由を用意してくれるが、結局はくっついていることに変わりない。
黙り込んだら、変な気分になってきそうだ。彼女の不安定な温もりとか、細かい息遣いとかに、飲み込まれそうになる。
ここだけは今、世間から切り離されているかのようだった。
外にいるというのに二人きりの空間のようで、それを意識しすぎると、勝手に鼓動が高鳴っていく。
俺はそれらから目を背けようと必死に話題を探すが、思考回路が繋がりきってくれなかった。
「えっと、動画のこと……。どうしようか」
なんて、抽象的な話題を振ってしまう。
俺がリア充ならば、もっとマシに振る舞えのかもしれない。たとえば、気にしない素振りをしたり、はたまた強気に手を握ってみたり、とか。
が、非リア充の俺は、そんな少女漫画のヒーローみたいな振る舞いはできない。
それどころか続く話題も出てこなくなる俺に対して、美夜のフォローは鮮やかだった。
「これからもっと頑張りたいねぇ。そういえば私ね、あれからまた新しいネタ、思いついたんだ」
「……今度はどこに行きたいの? 別府? 下呂?」
「ちょ、そりゃあ温泉はいきたいけどハズレ~! 単純にさ、二人で質問コーナーに答えるの。実はやったことないでしょ」
「たしかに、言われてみれば」
「でしょ? せっかく最近、登録者の数も伸びてきてるし、もうすぐ3万超えるよ? 今がチャンスだよ、きっと。生放送とかで募集するの」
「いいな、それ。SNSで事前に募集もしておけば、質問が途切れることもないだろうし」
「そう、そうそれいいよ! 事前に選別とかしておいてさ」
彼女は靴先を何度も地面に叩いて、喜びをあらわにする。
それから、なにを思ったのかスマホを取り出すと、俺との間、頭の上に掲げる。
インカメラへとモードを切り替えると、そこに映るのは濡れネズミみたいになった美夜と俺だ。
いつも、あえてボサボサに仕上げていた髪が下りてきて、どちらかといえば、動画に近い姿になっている。
「なんだよ、急に。鏡の代わりって言うなら、貸すけど?」
「もう、私だって鏡くらい持ってるよ。山名が持ってるのが変なだけだし。そうじゃなくて、写真。SNSにあげられないかなぁと思ってさ。この写真と一緒に、質問を募集するの!」
「……いや、ダメだろ。制服映ったら、色々まずいんじゃないの。特定班が動くぞ、知らんけど」
「だから、撮るのは上だけだよ。ちゃんとトリミングもするし。なんかさ、珍しいじゃん? こんな光景。今、私たち二人とも、ずぶ濡れで公園のドームで身を隠してるんだよ。こんなこと、この先ないでしょ。だから、記念に。いい?」
「まぁそれなら……」
シャッターが切られる音がしたのは、まだ俺が了承する前だった。
しかも、撮った場所が暗すぎたのか、自動でフラッシュが焚かれ、目を瞑ってしまう。にゃは、と画面を確認して美夜は目を細める。
「二人ともダメじゃん、これ!」
美夜もばっちり目を閉じていて、まったく意味の分からない写真が撮れてしまった。
どっちもびしょ濡れで、しかも目を閉じていて、なにがしたいのか全然伝わってこない。
二人で見て、同じタイミングで吹き出してしまう。
「あは。やっぱり、この写真はSNSにあげるのはナシかも。さすがに別の奴にしよ。ひどすぎ、人様に晒せない」
「ほんと。おおいにナシ。で、撮りなおすか?」
「ううん、いい。でもさ、代わりにこっそり持ってるよ。待ち受けにはしないで、こっそり。今日の思い出に。いいかな?」
「だったらそれ、俺にも送ってくれよ。細川さんだけ持ってるんじゃ、不公平だろ。時間がたってから、それでいじられても困るし」
「えっと…………加工してからでもいい? 私のところだけ、肌とかちょっと光当てたいかも」
「不公平だろ、それ! というか、そんなことしなくても……」
細川美夜は、なにをしていようが、たとえば濡れていようが化粧が少し落ちていようが、そんな些細なことでは揺らがないくらいに可愛い。
言おうとして、俺は直前でそれを飲み込んだ。
動画の中でなら、何度も言ったことがあるようなセリフだ。だが、こんな空気で言ったら、余計な誤解を招きかねない。
その後、俺たちはしばらくそのままの状態で、雑談をしながら豪雨をやり過ごすこととした。
すっかり濡れてしまい、身体が冷えていたこともある。
温もりを手放しきれず動く気になれないうち、美夜が寝てしまい、どうしようもなくなったのだ。
俺も眠気に襲われるが、寝落ちを阻んだのは、梨々子からの着信だった。
それで冷静になって、俺は美夜を起こさないようそっとそばを離れる。
「今、どこ? まだ学校? ……誰かといる?」
「あー……帰ってる途中で、大雨にあってさ。えっと、色々あって細川さんと」
まだ、すこやかに寝息を立てる美夜を見ながら、俺は素直に言ってしまう。
ちょっと頭がまだボケっと白みがかっていたこともあった。
「……驚いた。二人で仲良く下校?」
「ほんと、たまたまな。傘取りに帰ったら一緒になったんだ。お姉いる? 車で迎えにきてもらいたいんだけど。10年物のワゴンの軽で」
「……ん。伝えとく。10年物のワゴンの軽で、ね」
こうして大雨の中、二人きりでの下校は思わぬ形で中断となった。
最初から迎えを呼んでおけば、ここまで濡れることもなかったのに、
な、なんとまた残れました〜!!
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