05「げ……劇的な出会いだな」
ビル付近の道は封鎖されており、迂回路も含め混雑していた。
そのためディッシュらはやや離れたところに車をとめ、歩くことにした。
「やっぱり簡単には入れなさそうだな」
歩いたところで、ビルの周囲は消防隊や保安官、そして野次馬たちに囲まれている。
「出直すっすか?」
「その間に証拠を消されたら終わりだ。どこかに潜り込めるスキは……と」
「あるわけないでしょ」
ディッシュにそう答えたのはステイシーではない。
酒と煙草で枯れた、中年男の声だ。
「今度はどんな悪さをしようっていうんだい? 冒険者くん」
「げっ……」
「げ?」
「げ……劇的な出会いだな」
ディッシュは絞り出すように言った。
「そんなドラマチックなもんじゃないでしょ。君と俺の間だし」
そういったのは、くたびれたスーツに身を包んだ小柄な男。火をつけていないタバコをくわえ、困ったようにヘラヘラと笑っている。
「冒険者ギルドのお仲間っすか?」
「いえいえ。どちらかといいますと、冒険者の敵でしてね。はじめまして、わたくし、こういうものです」
男が出したのは黒革のパスケース。開くと身分証と銀色に輝く星の紋章。その下にはエビルシンデラ市保安官の文字。
「保安官……?」
「組織犯罪対策部、コートニー・ナコタ保安警部です。よろしく」
ステイシーは改めて男の顔をみた。
骨ばった顔立ちに、カールをかけた短い髪。笑顔ではあるが、目は全く笑っていない。タバコをくわえた唇にも大きな刀傷がある。
「捕まったほうじゃなくてっすか?」
「バカ!」
ステイシーの正直な感想に、ディッシュは蒼白になる。
「がっはっはっは」
しかしコートニーは大きく笑って流した。
「正直、冒険者みたいなギャングとやりあうには、見た目だけでもハッタリがいるんだよねー。中身はどうあれ、コワモテのほうが出世できるってわけ」
そしてコートニーはディッシュをひとにらみする。
「で、冒険者が何しに来たの?」
「……野次馬にきちゃあ、ダメですかねえ」
「取り締まる法律はないね」
ディッシュたちがいるのは封鎖テープの外側。他にもマスメディアや野次馬がウロウロしている。
「だけどな、冒険者。俺が呼ばれたってことはわかるでしょ。この事件」
「……ああ、まあな……」
「どういうことっすか?」
神妙に頷くディッシュに対し、きょとんとするステイシー。
「組織犯罪対策部ってのはね、『マル冒』つまり冒険者担当って言われてるの。つまりこの事件に冒険者が絡んでるってわけ」
「おれたち市民は税金払ってるんだから、しっかり働いてくれよ」
「そうしたら捕まるのはおまえかもしれないよ」
そういって、しばし睨み合う。
「ま、というわけだからね。冒険者。面倒を起こさないでちょうだいよ。俺、早く帰りたいんだからさ」
「とっとと帰れ。俺も帰る」
「そうしようか? ねえ」
「ダメですよ!」
コートニーの軽口を止めたのは、覆面ポリスカーの運転手だった。市保安官の制服に身を包んだ、浅黒い肌の女である。
「ちょうどいい、冒険者諸君にマキちゃんを紹介しよう。出ておいで」
「ちゃんはやめてくださいよ……」
扉が開き、女が一歩踏み出す。
「デッッッ……」
立ち上がったその姿を見て、ディッシュたちは絶句した。
大柄なディッシュより、さらに頭一つ大きい。コートニーの隣に並ぶと、まるで大人と子どものようにさえ見える。
ただヒョロ長いわけではなく、手足もそれに見合ったはち切れんばかりの筋肉に包まれており、まるで伝説に聞くオーガのようだった。
「新人のマキちゃんだ、すごいでしょ。この筋肉!」
「ええと、マキ・モブトリーです。保安巡査です……」
そう呼ばれたマキは、おろおろと視線を彷徨わせていた。
「覚えておきなさいよ、冒険者」
コートニーはディッシュの真横に立ち、肩をぽんと叩く。
「事件が起きても明らかになる前に犯人ごと揉み消せば、残業はいらないんだからね」
その顔からは、先程までの笑みは消えていた。
「……心得ておきますとも」
「なら、よし」
そう言ったコートニーの顔には、再び笑顔が張り付いている。
「行こう、ステラちゃん。エビのうまい店に連れてってやる」
ディッシュはステイシーの腰に手を回すと、強引にその場を立ち去った。




