04「帰る家がないから、どこにでも行けるんだ」
聖ショード教会記念病院の交通の便はあまりよくない。外来用駐車場も狭く、利用料も高い。
というのも車道の混雑をさけ、救急車をいち早く受け入れられるようにしているからだ。
そのため多くの利用者はバスを利用する。
ステイシーもそうだ。目的のバスが来るまで、バス停で待つより仕方がない。
時刻表をみると、バスはいま行ったばかり。待合客もいなかった。
「どこまで乗るんだ?」
そう言ったのは、運転手などではなく蒸気機関の冒険者――ディッシュだった。
「初対面のオトコに自宅を教えるほど尻軽じゃないっす」
「自宅に帰ってどうするんだ?」
「クソして寝るっす」
「そうじゃねえよ。汚えな」
「動物はみんな、隠れてクソするんですよ。あのカワイイ女の子も、あっちのおばあちゃんもそうっす。クソなんかしてませんって顔で、腹の中はクソでいっぱい」
「深いこと言ってるように聞こえるけど、ダマされねえからな」
ディッシュはステイシーの顔をみた。
ステイシーはニヒルな笑みを浮かべているが、冗談でそうしているのか、なにかに耐えようとしているのか、どちらともわからない。
「そうじゃなくて、自宅に帰ったところで、会社のやつに捕まるだけじゃないか?」
「そしたらクソぶちまけてやるっす」
「クソから離れろ」
ステイシーは会社から大事故の責任を追及される立場だ。身柄が自由であるはずもない。自分の身に危険が及ぶのを知って、その上でどうにか逃げてきたのだろう。
「敵対ギルドの冒険者に話すことなんかないっす。ギルド間抗争になっちまいますよ」
「ならねえよ。俺は別の仕事を受けてきた」
「よかったっすね。仕事があって」
「ビルの持ち主から、爆発事故の原因を調べるよう依頼を受けたんだ」
「えっ……」
「蒸気供給所は蒸気爆発のせいにしたがっているが、持ち主は納得していない」
ステイシーは驚いてディッシュを見た。
「だ、大丈夫なんすか? ギルド同士の揉め事は……」
「さあなあ。蒸気供給所の担当技師がどこの会社のどこの誰だか、持ち主は知らないし、蒸気供給所自体は表向き、ギルドとは無関係ってことになってる」
もちろんそんな建前が通るとは思わない。
だが、表立って向こうに口実を与えることはないだろう。
「入浴補助役のセラピストと偶然恋愛感情が芽生えて、個人的情事に及んでしまうようなアクロバティック建前っすよ」
「せめてその口をもうすこし上品にしてくれるなら、手伝ってもらおうと思っていたんだが……」
「景品の貴金属を買い取ってくれる店が偶然遊技場の隣にあるような建前っすよ!」
「それならよし」
病院から爆発事故現場までは、蒸気自動車で数十分。
ディッシュがハンドルを握るのは型落ちのトラックキャンパーだ。ベースになるピックアップは二人乗りだが悪路走破性も高く、荷台に載せた居住スペースも広々としている。
「こういう車乗るのって初めてっす」
「助手席は普通の車だろ」
「よくキャンプとか行くんすか?」
「おまえ、俺が冒険者だってこと知ってるよな?」
「でも最近の冒険者って遠出しないって言うじゃないっすか。ダンジョンの横でテントを立ててコトに及んでたら欲を持て余したドラゴンが車を……なんて話、昔話っすよね?」
「ないわけじゃない。それに、家をもちたくないんだよ。住処が敵にバレると面倒だからな」
「ホームレス冒険者ってわけっすね」
「気楽だぞ。帰る家がないから、どこにでも行けるんだ」
「車ごとなくなったらどうするんすか?」
「命が残ってりゃ取り返せる」
「かっけーっす!」
ステイシーのキラキラした視線を感じながら、ディッシュは苦笑した。
「でも、モテそーにはないっすね」
「うるせえ」




