02「あたし、あの爆発事故の責任者なんす!」
「ほえ〜。これが冒険者ギルドの中っすか!」
冒険者仲間の視線が痛い。
ディッシュは出てきたばかりの通路から、冒険者の秘密酒場に戻ることになった。
女はどうやら冒険者に用事があるらしい。敵意は感じない。だとすれば依頼主だろう。
「や、こーゆーとこに入るには、伝言板にXYZって書くとか、G13型トラクター求むとか新聞に出さなきゃならないかと思ってたんすけど、こうやってナンパしちゃえば良かったんすねー」
「本当はあるんだ。そういうのも」
「そうなんすか?」
「ああ。敵対ギルドとか、マル冒の捜査官やら。そういうのが来られると困るからな」
「あたしはそーいうんじゃないっすよ」
「見りゃわかる。こんな緊張感のないスパイが居るか」
本当は、見てわかるわけもない。だがそれでもディッシュは女を客として迎えることにした。
理由は一つ、このめちゃくちゃ目立つ美女が、裏町の若者のような口調で、わいせつな言葉混じりに病院で騒ぐからだった。
『助けてほしいんす!』『このままじゃクビになった上、ろーや行きっす!』『ギルドのナカに入れてほしいす!』『入れて!♡ お願い早く入れてぇ!♡』
こんな喋るわいせつ物はとっととつまみ出すに限るのだが。
最初に『助けてほしい』という言葉を聞いてしまったのが、ディッシュの甘さである。
「初めてナカに入っちゃったす……!♡ すっごい……!♡ おっきい……!♡」
仲間たちの視線が無遠慮に突き刺さるのを感じる。
無理もない。発言こそ品はないが、その美貌は本物である。
真っ先に目が行くのはミスリル糸のようなアッシュブロンドヘア。そしてそこから飛び出す尖った耳。この街ではあまり多くないエルフのそれだ。
身につけているのは技術者向けの作業服。背中に背負うのは小型の差分機関。エンジニアが持ち運ぶ魔術装置だ。
体格は小さく、手足も驚くほど細い。一見するとおしとやかな美女にもみえるのだが。口から出るのは、間違った言葉を教えられた外国人のようなものばかり。
ここがよその治安の悪い酒場であれば、若者が我先にと下品な言葉を浴びせてきそうなものだが、治安が悪く下品な酒場ではあっても、ここは冒険者の秘密酒場。招かれた部外者はお金をくださる依頼主様である。万が一にも機嫌を損ねてはならない。
ここにいるすべての冒険者が、慎重に様子を伺っている。
「ようこそ、冒険者の店へ。ここは初めてだね」
バーテンダーが、カウンターの席に女を招いた。
「上で困っていた依頼主を連れてきた。あとは任せる」
「えっ!? あなたが助けてくれるんじゃないんすか?」
「冒険者への依頼は、一度はギルドを経由しなきゃあならない決まりだ。本部が確認して、その上で任せられそうな冒険者を紹介することになってる」
「あんたが連れてきた依頼主なんだから、あんたに優先権があるよ」
バーテンダーは、有無を言わさずカウンターに二人分のコースターを並べた。
「それと、責任もね」
もっともな話である。ディッシュは観念したふうにカウンターに座った。どちらにせよ蒸気機関を背負ったままでは背もたれのある席には座れない。
「そう、そうっす! あたしのソレを奪ったんだから責任とってほしいっす!」
「人聞きの悪いことをいうな。拾っただけだ」
ディッシュは女の示すソレ――円盤の入ったペンダントをカウンターに置いた。
「これ、どこで拾ったんすか?」
「さあな。いつの間にか荷物にひっかかってた」
「もしかして、爆発事故があったとき近くにいたりしたっすか?」
「どの爆発事故だ?」
ディッシュはとぼけて見せるが、それはかえって不自然だった。
「あの蒸気爆発っすよ」
蒸気テレビではさっきからずっと爆発事故の話ばかりだ。これではとぼけていますと言っているようなものである。
「逆に、あんたは何か知ってるのか?」
「いえ、そうじゃないっす。あたし、あの爆発事故の責任者なんす!」




