01「そのペンダント、たぶんあたしのっす!」
ここはとある冒険者の秘密酒場。
情報を交換し合う、冒険者専用酒場だ。
ディッシュは苦虫を潰したような顔で蒸気テレビを見ていた。昨夜関わったビル爆発事故のニュースだ。
依頼主に頼まれたのはゴブリン駆除である。ビル解体ではない。
「ディッシュ、依頼主からよ」
液体の入ったグラスが置かれた。
敷かれた紙のコースターには、『依頼取消』とだけ記されている。
「だろうね」
「それ以外はこちらで処理したわ」
失敗に対する損害賠償などを負わずに済んで、一安心ではある。
ここのバーテンダー、若くはない筋肉質の女。彼女も冒険者ギルドの一員だ。実働部隊と依頼主をつなぐ役割をもつ。
ギルドを通した仕事であれば、冒険者が直接依頼主とやり取りすることはない。
「あとの三人は、あんたを見捨てて先に帰ってきていたよ」
ディッシュは複雑なため息をついた。見捨てたのはお互い様だ。
「いま『上』にいる。会ってく?」
「……いや、無事ならどうでもいい」
「……あれ、あんた。なんか引っ掛けてるよ」
ふと、バーテンダーがディッシュの背中に触れた。
ディッシュが背負った蒸気機関に何かが引っかかっている。
「なによ、これ」
それはペンダントだった。といっても紐は頑丈さを優先したコードであり、チャームもメダルのような円盤だ。
「ガラクタだろ」
爆発があったとき、ディッシュは爆風とともに瓦礫を浴びた。おおかた、その時に飛んできたものだろう。
「ふうん、それなりに大事なものに見えるけどね。どっちにせよ、あんたが拾ったものだし、好きにしな」
バーテンダーはそう言って、ディッシュの前にペンダントを置いた。
ディッシュはさして興味はなかったが、そのペンダントの円盤部分にスリットがあることに気がついた。何かを挟み込んでいるような隙間だ。
急に気になって、ディッシュはメダルを開いてみる。
「……パンチカード?」
中から出てきたのは、やはりメダルのような金属の円盤。ただし、不規則な歯車のようなギザギザがあり、内側の面にも穴が開いている。それこそ蒸気魔術師が用いるパンチカードのように。
パンチカードならディッシュも知っている。蒸気魔術師の使うものだ。
蒸気魔術は呪文を唱えない。差分機関と呼ばれる魔術装置に、穴の空いた紙のカードを差し込むのだ。いわば正統魔術師の用いる呪文書のようなもの。
しかしこのディスクは、金属でできている。通常の紙のカードと違って、これでは穴を自在に開けることができない。
形状も異なる。中心の大きめの穴にシャフトを通せば、不規則なギザギザも、変わった歯車といえなくもない。
カードキーの一種だろうか。特別な鍵穴に差し込むならそれもありうる。
いずれ蒸気魔術師に見せたら、なにかわかるだろう。
ディッシュはそのペンダントを、なんとなしに首にかけてみた。こうしてみれば、持ち主が自ら名乗り出るかもしれない。
厄介ごとの種かもしれないが、冒険者にとって厄介ごとは飯の種でもある。
グラスの中身を飲み干したディッシュは、階段を上に上がった。
重い耐火扉を出ると、そこは清潔な病院の一階だ。
聖ショード教会記念病院。
ディッシュが籍を置く冒険者ギルド、聖ショード教会の事業の一つ。真っ当な病院である。
完全な隠れ家というわけではないが、偶然誰かが迷い込むような場所でもない。
冒険者の秘密酒場への通路は、外科外来の隣にあった。ここなら生傷の絶えない冒険者がウロウロしていても違和感がない。
ディッシュの義肢装具士はここの勤務医でもある。この円盤のようなものに関してもなにか知っているかもしれない。
だが、外科外来に表示された勤務シフトからみると、今日はここには来ていないようだ。
「あの、すみません! 冒険者さん!」
その真横から、女が呼びかけてきた。
「ギンギンで硬そうな冒険者さん!」
なんだ、その表現は。
できれば関わりたくないが、こんなところで冒険者に話しかけてくるのはだいたい依頼主だ。
みれば、女神のような美女がそこに立っていた。
「カチコチでギンギンで黒光りする女泣かせの冒険者さん!」
女神のような美貌で、クソみたいなことを言う女が、そこに立っていた。
「そのペンダント、たぶんあたしのっす!」




