09「おいおい……そりゃ、剣じゃねえだろ……」
ディッシュがアライダと対峙するのはこれがはじめてではない。蒸気甲冑を相手にしたことも何度かはある。
なのでわかる。不利だ、と。
観光地の駐車場である。つまり遮蔽物は多く、相手より自分は小さい。だが蒸気甲冑の装甲に手持ちの拳銃弾は通用しない。
現に数発が直撃したはずだが相手はケロッとしている。腕部マニピュレーターを口元に当てて高笑いしているほどだ。
狙いをステイシーから逸らすために飛び出したが、早くも後悔していた。せめて徹甲弾だけでも持ち出していれば。
それなら、とディッシュは剣を抜いた。義足に隠した折りたたみ式ブレードだ。
蒸気機関の出力を上げ、剣を握る。
魔力が刀身に注ぎ込まれ、甲高い振動音をあげた。
「アライダ!」
切っ先を蒸気甲冑に突きつけ、見得を切る。
「いざ、勝負!」
対するアライダは――
「いい心がけですわ! わたくしも剣一本でお相手して差し上げてよ」
よし、乗ってきた。
アライダはこういう芝居がかったやりかたに弱いのだ。
火器の間合いでは使える武器がない。しかし剣同士なら別だ。
蒸気甲冑の背負う大剣がいかに大きくても、その身長より長いということはない。
だが、蒸気甲冑が抜刀した剣を見てディッシュはすぐ後悔した。
「おいおい……そりゃ、剣じゃねえだろ……」
「剣ですわよ」
分厚い刀身。本体と独立した蒸気機関。そしてその刀身にまとわりつく、鎖状に連なった刃。
「蒸気甲冑専用武装、その名もチェーンソードですわ!」
「それをいうならチェーンソーだ!」
金切り声のような排気音をあげ、チェーンの刃が回転する。アライダはそれを大上段に構え、地を蹴った。
「サメでも神でもバラバラにしてさしあげますわ!」
チェーンソードが振り下ろされる。
ディッシュは間一髪、横っ飛びでその一撃を回避した。
耳の奥が割れるような金属の音。チェーンソードが駐車場の蒸気自動車に食い込み、いとも容易く真っ二つにしていた。
「冗談じゃない!」
ディッシュの剣も蒸気魔術で強化されてはいる。しかしそれはあくまで剣としての範囲内。あんなものを受けきれるはずがない。
「避けるなんて卑怯ですわよ!」
蒸気甲冑は空いた手で車の前半分を軽々と持ち上げる。まるで酔漢が椅子かなにかつかんだかのように、ディッシュに向かって投げつけてきた。
ディッシュもそれには面食らう。
「なんてことするんだ!」
「ぽーーっぽっぽっぽっぽ!! わたくしの愛機シュヴァイ・ダロガは特別製! そのパワーに怯えおののくがいいですわ!」
「違う! 町中でこんなに派手に暴れるヤバさにドン引きしてんだ!」
「甘いですわね! ディッシュ・ドッククラウド!」
指を突きつけるような動作。その足元には、見知らぬ誰かの愛車の後ろ半分。
「大事の前の小事ということわざを教えてさしあげましてよ!」
「そうか、勉強になった」
瞬間、ディッシュは義足のバネで前へ飛んだ。前傾姿勢で剣を突き出し、狙いは蒸気甲冑の頭部。
「甘いですわ!」
だがその剣は、突きつけられていた蒸気甲冑の腕で容易く弾かれてしまう。ディッシュの腕を離れた剣は、空中できりもみを描き、罪なき誰かの愛車に突き刺さる。
「わたくしを挑発し、片手を剣から離すように見得を切らせるとは素晴らしい頭脳プレーですわね。あいにくとそう簡単にいきませんわよ!」
「俺からも教えてやる」
「大男総身に知恵が回りかね。ということわざがある」
「誰が大男ですの!」
ディッシュはすでに蒸気甲冑の足元へ潜り込んでいた。
剣はフェイント。重心ははじめから下に落としている。
そしてディッシュの足は両方とも義足。
つまり剣はもう一本あった。
金物のこすれる音。そして飛び散る火花。
蒸気魔術の力で切れ味をました剣が、蒸気甲冑の膝関節を貫いた。
「な、なんですの!」
「俺は自分より小柄な相手と戦う機会が多い。小柄な相手にやられると面倒な技もいくつか知ってる。自分がやるほうになるとは思わなかったが」
まして相手はスカート飾りのついた蒸気甲冑である。下方向の視界は悪いだろう。そう見越しての攻撃だった。
ディッシュは剣を引き抜いた。
蒸気甲冑はその重量も破格であり、それをささえる膝パーツにかかる負荷も大きい。動けなくなるまで破壊することは難しいが、戦力を大幅に落とすことはできる。
アライダはまだ立っていたが、もはやそれが精一杯だろう。
「くっ……殺しなさい!」




