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童帝王、ハーレムを作る!~女神にモテスキルを授けられたはずが、なぜか国づくりを始めました~  作者: 塩野さち


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第6話 アカリちゃん、聖女になる

【アカリ視点】


 セラ村に滞在することになった私は、自分には何の力もないことを痛感していた。


 ユウタくんは、すでに村人たちから深く慕われている。

 ミリアさんは、村の人たちと自然に馴染んで生活している。

 レナさんたち銀槍団(ぎんそうだん)の傭兵たちは、武器を持って村を守ることができる。


 でも、自分は何もできない。


 前世では、川で溺れたところをユウタくんに助けられた。

 この異世界でも、森で魔獣に襲われかけたところを、ユウタくんと村の人たちに助けられた。


(私は、また助けられるだけなの?)


 ふと湧き上がったその思いが、どうしても頭から離れなかった。

 そこで私は、銀槍団の隊長であるレナさんに頼み込むことにしたのだ。


「私にも、戦い方を教えてください」


 私が深く頭を下げると、レナさんは困ったように眉をひそめ、危ないからやめた方がいいと諭してくれた。

 それでも、私は真剣な声で食い下がった。


「ユウタくんに助けられてばかりじゃ嫌なんです。今度は、私も誰かを守りたいんです」


 私の必死の言葉を聞いて、レナさんは静かに頷いてくれた。


「なら、まずは死なないための動きからだ」


◇◆◇


 その日から、私は剣と槍の基礎を習い始めた。


 ただし、私に戦いの才能はまったくなかった。

 素振りの用の剣を振ればすぐに手がしびれてしまうし、長い槍を構えればへっぴり腰になってしまう。

 足運びも遅く、すぐに息が上がってしまった。


 それでも、私は泥だらけになりながら必死に練習を続けた。

 レナさんは厳しいけれど、本当に大切なことをちゃんと教えてくれた。


「魔獣を倒そうと思うな。まずは距離を取れ」


「剣は最後の手段だ。槍は相手を近づけないためのものだ」


「怖いと思うなら、それでいい。怖さを知らない素人が一番早く死ぬ」


 私は何度も地面に転び、すり傷を作りながらも、少しずつマシな動きができるようになっていった。


 休憩時間には、ミリアさんが冷たい水を持ってきてくれた。

 ユウタくんは、いつも少し離れた場所から心配そうな顔で私のことを見つめていた。


「無理しなくていいんだよ、アカリちゃん」


 ユウタくんが気遣うように声をかけてくれる。

 でも、私はゆっくりと首を横に振った。


「ううん。今度は、私も逃げたくないから」


 私がまっすぐに目を見ると、ユウタくんは言葉に詰まり、それ以上は何も言わなくなった。


◇◆◇


 そしてついに、赤目犬(レッドハウンド)討伐の日がやってきた。


 レナさん率いる銀槍団は、村の外れにある森の獣道に次々と罠を仕掛けていった。

 村の男たちは武器を手に持ち、補強した柵と見張り台を固めている。

 私はレナさんの指示で、安全な後方支援として参加することになっていた。


 本当は、戦えないユウタくんを安全な村の中心に残すつもりだったらしい。

 けれど、銀槍団の傭兵たちも村人たちも、口を揃えてこう言ったのだ。


「ユウタ様には、いていただくだけでよいのです」


「若様が見てくださるだけで、皆の士気が上がります」


「むしろユウタ様がいないと不安です」


 その熱烈な言葉を聞いて、ユウタくんはみるみるうちに顔を青ざめさせていった。


「俺、戦えないんだけど!?」


 情けない声を上げるユウタくんに、レナさんは大真面目な顔で言い放った。


「構いません。ユウタ様は我らの旗印です」


 ユウタくんは天を仰ぎ、何かブツブツと文句を言っているようだった。

 後でこっそり聞いた話だと、「ハーレムを作りたかっただけなのに、ついに旗印になってる」と嘆いていたらしい。


◇◆◇


 夜の闇が深まり、ついに討伐が開始された。


 グルルゥッという低い唸り声とともに、赤目犬の群れが夜の森から姿を現す。

 しかし、レナさんたちの動きは完璧だった。

 罠にかかる魔獣、槍で的確に仕留められる魔獣。

 銀槍団の傭兵たちはさすがの強さで、次々と赤目犬の群れを追い詰めていく。


 ユウタくんは後方でガタガタと震えながらも、必死に声を張り上げていた。


「みんな、無理しないで! 怪我しないで!」


 たったそれだけの言葉で、前線で戦う傭兵たちの目がカッと燃え上がった。


「ユウタ様が我らを気遣ってくださっている!」


「生きて帰るぞ!」


「セラ村を守るんだ!」


 私はその後ろ姿を見て、少しだけ胸が熱くなった。


(ユウタくんは、やっぱり人を動かすんだ。前世では教室の隅にいたのに、今はみんなの中心にいる)


 戦いは、ほぼこちらの勝利に向かっていた。

 しかし、最後に予想外の出来事が起きた。


 一匹だけひときわ大きな赤目犬が、強引に罠を破って飛び出してきたのだ。

 その巨大な爪が、村の子どもをかばって前に出た若い女傭兵――ニーナさんに振り下ろされた。


「きゃあっ!」


 ニーナさんは腹部から肩にかけて深く裂かれ、地面に倒れ込んだ。

 ドクドクと赤い血が流れ出し、止まらない。

 レナさんたちが慌てて駆け寄るが、手持ちの応急手当の道具ではどう見ても間に合わないほどの重傷だった。


「ニーナ! しっかりしろ!」


 レナさんの悲痛な叫び声が響く。

 私はガタガタと震えていた。

 まただ。また目の前で、誰かが自分のせいで死ぬような気がした。


 自分は何もできない。

 また助けられるだけ。

 また失うだけ。


(そんなの、絶対に嫌だ……!)


 私は無我夢中で駆け寄り、涙を流しながら心の中で女神様に祈った。


(ティア様。私に特典はいらないって言いました。でも、お願いです。この人を助けたいんです。今度は、救われた命を、誰かを救うために使いたいんです)


 強く、強く祈った。

 すると、脳内にかすかに、あの透き通るような女神様の声が響いた気がした。


『アカリ。これは褒美ではありません』


『あなたが救われた命を、誰かのために使うと選んだからこそ開く力です』


『癒しの力を授けます。ただし、忘れてはいけません。命を救う力は、命の重さを背負う力でもあります』


 その瞬間、私の両手が淡く、温かな光を放ち始めた。


 私は導かれるように、ニーナさんのひどい傷口に両手を当てた。

 ポワァッと温かな光が広がり、あふれ出ていた血がピタリと止まる。

 そして、深く裂けていた傷口が、まるで時間を巻き戻すかのように少しずつ塞がっていったのだ。


「……あれ、私……生きてる……?」


 ニーナさんがゆっくりと目を開け、不思議そうに自分の体を触った。


 周囲が、水を打ったように静まり返った。

 信じられないものを見るような目で、レナさんが呆然とつぶやく。


「奇跡だ……」


 武器を持っていた村人たちも、次々とその場に膝をつき始めた。


「聖女様だ……」


「アカリ様は、聖女様だったんだ!」


 突然の状況に、私は激しく戸惑った。


「ち、違います。私はそんな立派なものじゃ……」


 私が慌てて否定しようとすると、レナさんが私の前に進み出て、深く、真剣に頭を下げた。


「いいえ。あなたは、私の大切な仲間を救ってくれた。銀槍団は、このご恩を一生忘れません」


 ミリアさんも駆け寄ってきて、涙ぐみながら私の両手をギュッと握りしめた。


「アカリさん、ありがとう……!」


 そして、ユウタくんも心からほっとしたような、優しい笑顔を向けてくれた。


「すごいよ、アカリちゃん。本当に、助けたんだ」


 そのまっすぐな言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が切れ、私は泣きそうになってしまった。


 前世では、助けられるだけだった私。

 でも今度は、私自身の力で誰かを助けることができたのだ。


◇◆◇


 その後、残っていた赤目犬も無事に討伐され、群れはほぼ壊滅した。

 これでしばらくは、村を襲う危険はなくなったはずだ。


 村へ戻ると、私は村人たちや銀槍団の傭兵たちから、本物の聖女としてうやうやしく扱われるようになってしまった。

 広場の中心では、ユウタくんが何もない虚空を見つめながら、ひきつった顔で叫んでいる。


「ちょっと待って。俺、ついに聖女まで抱えた王みたいになってない?」


 どうやら、彼にしか見えない画面か何かが出ているらしい。

 ユウタくんはさらに虚空に向かって声を張り上げた。


「だから! 広い! 意味が広すぎるんだよ!」


 見えない誰かに一生懸命ツッコミを入れるその姿がおかしくて、私はこの世界に来て初めて、少しだけ声を上げて笑ってしまった。


(私はまだ、ユウタくんに許されたわけじゃない。自分を許せるわけでもない)


 自分の手を見つめ、そっと胸に手を当てる。


(でも、救われた命をどう使うのか。その答えを、少しだけ見つけられた気がした)


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