8 おちる
「いや、だからね、同じところからずうっとね、何十年? あ? 何百年も、召喚してたりしたらね、そりゃ、現地の人は神隠しだなんだと、言い出すわけで。もうちょっと、召喚の場所ずらしたり、世界、いやせめて国を代えるとかできなかったんですか? え? 生命をかけた成功率も低い術でそんな器用な真似はできない。なるほど、じゃ、やめさせればよかったのに。それで、召喚されちゃう人達は、神隠しなんてある土地は呪われてる、恐ろしいと、土地を放棄して逃げ出すわけですよ。かつては栄えた大きな都市だった、そこはね、人がいなくなり、建物は朽ち果て、森にのまれていったわけです」
一息にそこまで語って、ちょっと失礼といって、どこからか取り出した瓶の中身をを一気に飲み干す。
美味しいですね、この味、新作?と感心したようにつぶやいたあと、空になった瓶は、ぱっとかき消すように消えた。
「こほん、…それでですね、本来ならその場所から人がいなくなって、そこで召喚される人間もいなくなるのでしょうけれど……まあ、どこにでも阿呆はいるものでしてね」
そこで、私にじっと目を合わせる。
「その、阿呆たちを、久々の獲物だと釣り上げたのが、あなたの世界のものというわけでしょうね」
「あ、あほ、うって……」
黙って相槌を打ちつつ聞いていた私も、あまりの言い方に、思わず言葉を発してしまった。
「阿呆は、あほう、でしょう、バカでもいいですし。愚か者でも、ね」
「はぁ」
「神隠しのうわさのある、放棄された大都市がかつてあったと言われる樹海。そこから、この世界から別の世界に行ける。そこは理想の世界で、今までの自分とは違う自分になれる。世界を渡るときは、望む力をあたえてもらえる……チート?でしたっけ? 」
「はい、いっておりました。チートとか転生特典だとかなんとか」
「で、外見も、今までの自分とはかわることができる、とか?」
「はい。そうです。…大半が、イケメン? 美形をご希望でしたね」
「いやはや、なるほど。そんな、望む力、望む容姿を与えることができる。そんなことができるなら、わざわざ異世界からよんだりしませんよね?
自前の人間に、与えますよね、そんなことができるのだとしたら」
「……はい」
「それに呼んだのは、神ではないのだから、そんなことができるわけがない、ですよね?」
にっこり笑っていってるが、少しも目は笑っていない。
「それで呼び出された阿呆な奴らが、叶わぬ願いに荒れて、人攫い、略取、誘拐、かえせないなら生活を保障しろと要求していると?」
「はい」
「ふうん。簡単な話、必要ない、求めていた基準に達しないなら処分すればいい話でしょう?」
あっさりと何の感情も込めずに言ってのけた目の前の御方に恐れをおぼえるが、私にはそれができなかったから、ここにきた。
はるか上の存在である、御方に懇願するために。
「…恥ずかしながら……私にはそれが……できません。だからといって、彼らを還してあげるだけの力もなく……。あ……それで、もともと彼らがいた世界の創造主である、あなた様に、彼らをおかえ」
「いりませんよ」
私が最後まで言うのをまつことなく、被せるように、告げられた。
「私の世界を拒絶した者たちです。私はその者たちを引き取る気はまったくありません」
「で、ですが」
「世の中、そんなに甘くはない。私は、あなたと違って、優しくもない。私に返却すると言うなら、そうですね」
微笑みながら、告げられる。背筋が凍りつきそうな、冷たい微笑みだ。
「私に委ねられた時点で、処分ですね。これは決定事項です」
「! そ、そんな、で、ですが。どうか、お考え直しください。処分などと、そんな酷いことを」
まだ何も決まってはいないのに取りすがるようにいった私を切り捨てるかのように、かの方は告げた。
「酷いなとどいうくらいなら、はじめからさせなければいい。
召喚などという他力本願なことをする輩を放置したお前が、無能だ。
己の世界のもの、自分がしたこと後始末は、自分でしろ」
がらりと変わった口調。突き放すような声音に、背筋が凍る。
「で、で…すが」
言い募ろうとする唇が震える。
「くどいな。……ならば」
直後、すさまじい圧が私を襲う。
「そんなだめな世界でも自分が創造したものであり、見捨てられぬというのなら、自分でするといい」
「え」
立っていたはずの床が消えた?
というよりも、私自身が消えた。
「自分の世界を壊せないというのなら、自分でやりなおしなさい。
他人の世界から他力本願をするのではなく、自分自身で」
告げられる声は遠く、けれど、はっきりと意味は脳裏に刻まれる。
消えていく。
溶けていく。
落ちていく。
私は私が作った未熟な世界に堕ちていく。
私は……。




