67 夢にまで見た……④
ドアの横の壁に背を預けて、ちゃんと一人で寝れるのかと、部屋の外で様子をみているはずだった。
身体に、カクンっと落ちるような浮遊感を感じて、ハッとして目を覚ました。
「! ……ん、やべ、ねてた。……ん?」
膝のところに、少しの重さと温もりに気がついた。
毛布から少しだけ出ている小さな頭がおれの膝の上に乗っかっていた。
小さな手がおれのシャツを握りしめている。
サクヤだ。森の中でみつけた迷子の女の子。
一人で寝れるのかと、もう一度、聞いた時も、大丈夫だもんと言っていたが、そうじゃなかったようだ。
いつの間に、ベッドを出て、ここに来たんだ?
「……さん、おかあ、さん」
身じろぎをしたサクヤの閉じた目尻が濡れている。
やっぱり知らない場所で、ちっちゃい子が一人で寝れるわけないよな。心細いだろし。
サクヤが1人でいた経緯も聞けてないから、なかさないように気をつけて話を聞いて、親のところに返してやらないと。
「……」
おれはサクヤを毛布ごと抱き上げた。
廊下は冷える。こんなとこで眠らせるわけにはいかない。
「……ん? おにいちゃん?」
ベッドの上に戻して、毛布とそのうえに掛け布団もかけたら、サクヤが目を開けた。
「起こしたか、わりぃ。けど、廊下じゃ風邪ひく」
「おにいちゃんだって、ねてたよ」
「おれは大丈夫。なれてる」
土の上で寝たことも、砂の上で寝たことも、木の枝の上で寝たこともあるから、心配はいらない。それに、一度も、体調をくずしたことはない。健康だけは自信がある。記憶の中で病気……なった記憶がないな。
「もっかい寝ろ。まだ夜中だぞ」
「……ね、アキラおにいちゃん」
小さな手がおれの方にのばされて、服の裾を遠慮がちににぎった。
「どした?」
「ここにいて。……おにいちゃんも、いなくなりそうで、……こわいよ」
「……」
「ひとりにしないで」
「わかった」
おれはサクヤの頭をポンポンとなでた。
「安心しろ。ここにいる。ねても、そばにいてやる」
「うん」
「おう」
「ありがと、おにいちゃん」
ふわっと笑って、サクヤは夢のなかにひきこまれるかのように、眠りに落ちた。
おれの服をにぎったままの、サクヤの指をそっと開いてはなし、その腕を布団のなかにいれてやった。
ベッドに背を預けて、床に座る。
特技のひとつがどこでも寝れるでよかったと思う。
おれが、長老様とよぶ、この大木の上なら、安全だ。超巨大で、まるで物語の世界樹みたいな長老様に、近寄ってくる魔獣はいない。寄ってくるのは小鳥とか小動物だ。
それから周辺の土地に、結界石もしっかりと配置し、埋め込んでいる。お高い特大サイズの結界石だ。よほどの魔法使いでもなけりゃ破壊は無理だと思う。それくらい魔力をガチガチに込めてる。
だから、血の気の多いいっちゃってるやつらは侵入できないようになっている。
この近辺から、交流のある拠点までは、走って3日はかかる。
わざと人里はなれた場所でおれは暮らしている。
この場所のことを誰にも教えたことはない。
でないとめんどくさい輩がやってくるだろう。
めんどくさい輩とは、同じように召喚された異世界人たち、ではある。
この世界のてっぺんをとる!とか言ってる集団、力こそすべてとか、現地人許すまじと言ってる集団等いろいろあるが、やつらは、あちこちの拠点や、異世界人の国、現地人の国を、時として、襲うからたちが悪い。
諦めて、現状を受け入れ、生きていこうとしている集団にとっては、迷惑この上ない。
おれも何度もしつこくからまれたことがある。温和で穏やかで優しいつもりでいるが、さすがにイラッときた。
誰が一番かなんて、どうでもいいだろうと思うが、あいつらはそうじゃないようだ。アタマ、おかしい。
サクヤの親探しに出かけるときは、くれぐれも気をつけないといけない。
あいつらは、血の気が多い上に、思い通りにならなかったこの世界の人間をものすごく恨んでいるからな。
ほんと、なんであんな奴らを召喚したんだろ。害にしかならないだろ。
いろんなことをぼーっと考えていたら、また睡魔が襲ってくる。
この、拠点は、長老様の守り、結界石と二重で守られてる。
寝込みを襲われる心配がないから、安眠できる。
そういえば、ここから一番近いのは、あの拠点だよな。元の世界の店がよりどりみどりだった。コンビニ……からあげ、ポテチに、手が届かない……。
みつかったら、大変な騒ぎになるだろうな。
けど、ここよりさらに人里皆無の奥地だし、それに何より、あの絶対防御結界が、ものすごい反撃をして、やつらを返り討ちにするだろうなと、確信めいて思う。
おれは、敵意なんて皆無で、ささやかな買い物をしたいだけなので、いれてくれないかなぁ……。
「ふはぁ……」
あくびをしてしまう。
サクヤをもうしばらく見守って、それから、おれも寝るようにしよう。
どこでも寝れるから、座ったままでも、問題なしだ。
問題があったのは、サクヤだ。
翌朝、目が覚めて、立ち上がって、サクヤを見て、大きく目を見開いた。
「サクヤ! おい、大丈夫か!」
顔が赤い。
頬が真っ赤だ。息も荒い。
手を伸ばし、額に触れる。
熱い。
発熱している。
廊下で、少し寝たからか?
それとも、やっぱり精神的疲労からか?
眉毛を寄せて、サクヤがおれにうったえる。
とぎれとぎれに。
「あつ、いよ。し、んどいよ。くるしいよ」
「しっかりしろ」
薬は、ここにはない。ポーションもない。
病気したことないから、ない。かろうじてあるのは傷薬だ。それも使用期限があやしい、年代物だ。
「大丈夫だ。おれがなんとかしてやる」
そういいながら、サクヤを毛布でぐるりとくるんで抱き上げた。
「しばらく我慢しろよ。絶対、落としたりしないから寝てていい」
「……ん」
目的地は、あの拠点だ。
巨木の壁と絶対防御結界に守られた、あの拠点なら、ドラッグストアがあった。
そこなら、いろんな種類の薬がある。
絶対防御結界のことなんて、頭になかった。
絶対に助ける。
それだけを思いに、おれは駆けだした。
いつもよりさらに早く、走る。
絶対に助ける。
それだけを思い、走った。




