58 唯一無二②
「あははははっ、弱い、弱すぎだわ。あはははっ、それで、魔族?」
身体を折り曲げてしまうほど、可笑しくて、たまらない。
笑いすぎて、おなかが痛いわ。
「だ、か、ら、こんな辺鄙な村を襲うことくらいしかできないのね? 魔の森の中の、獣は強すぎて、狩れない?
なら、畑でも、耕したらどうかしら? 野菜は、身体にいいわよ? 他人の物奪う前に、肉体労働しなさい。雑魚魔族さんたち」
グリグリとえぐるように、ハイヒールで、背中を踏みにじる。
焼け焦げた身体でもがいているが、この足下の魔族の余命はわずか。
だって、周囲で、様子をうかがってる魔族ごと、私が、滅しちゃうから。
だって、弱すぎて、真面目に相手にするのは時間の無駄だわ。
観客は、魔族しかいないし。
さっと手をかかげる。
私の手に風が渦巻く。風の刃を放つ。オリジナルで、追尾機能付き。
隠れていた魔族達が、いっせいに、こちらに背を向け、逃げ出そうとする。
もちろん、逃がさない。
狙うのは、ピンポイントで、首ね。断末魔の悲鳴なんて、聞きたくない。
でも、避けることができたのなら、ちゃんと相手をしてあげる。
「ゼロ、ね」
声をあげることなく、首と胴体が離れた魔族達が、ドサドサと倒れていく。もちろん、生命はない。
足下の魔族が、息をのむ。
「た、タスケテ……たす」
ぐっと、足に力をこめた。
不快だから、眉根を寄せる。
「命乞い? この場合は、私みたいな、美女に踏まれてもらってるんだから、ありがとうございます、でしょう?」
「……っ! ぐはっ」
力を込めすぎたのか、赤黒い血を吐き出した。
「私の足に、飛沫飛ばさないでくれるかしら?」
素早く踏みにじっていた足を引く、大きく開いていたドレスのスリットが、はらりと閉じた。
その場に押さえつけられていた魔族は、もうもがくこともない。瀕死だ。
「弱いわねぇ。聞きたいことがたくさんあるから、せめて、一人は残してくれと頼まれていたけど、これは無理かしらねぇ。困ったわ」
「いや、まったく、あなたは困ってませんよね?」
背後から、あきれ果てたと言うような、ため息交じりの声がして、振り返る。
少し、息を切らしている、神官服姿の青年だ。
「あら、遅かったわね、リオネル。もう、終わったわよ」
「……遅くはありません。あなたのように、詠唱も、魔法陣も、経由地もなく、ぽんっと現場に、転移してしまうほうがおかしいのです」
「まぁ、おかしいって失礼ね? あなただけよ? 私にそんなこというのは」
「………なるほど、私にも、かしずいて、崇めてほしいのですか?」
「いいえ」
即答する。
赤ん坊の時から知っている、この子に、そんなことさせる気はない。
「それで、村のほうは、どうですか?」
「そうねぇ、みんな、教会に早々に逃げ込んだから、無事みたいよ。神父が、教会本部に連絡してくれたからね」
くるりと視線をめぐらす。
破壊されているのは、村の正門の一部と、半壊の家が数軒。怪我人は、門番と、冒険者が数人というところだ。
魔族の襲撃を受けたにしては、被害がほぼない。
「素早く教会本部に連絡をした、神父は褒めてあげましょう。緊急マニュアル通りに行動して、偉いわ。危険大、即、緊急魔道具使用、本部連絡、という流れね。
村長とは、御布施の相談ね。私が来てあげたから、こんな極小の被害ですんだのよ。勘違いして、魔族が弱いと思ってないといいけど。私の、出張費用は、お高いのよ。
それから怪我人は、慈悲深い私が、優しく治癒してあげましょう」
「………しかし、魔の森に接しているとはいえ、教会本部のある、この国まで魔族が出没するとは……」
「そうねぇ。なにか、が、おこり始めているのでしょうね。なぜだか、世界がざわざわとしている気がするわ」
「……それは、予言ですか?」
「いいえ」
と、答えておく。
今は、まだね。
「それなら、それに、ポーションかけて、ちょっと回復させて、吐かせますかね」
それといったのは、地面で虫の息になっている魔族のことだ。
「あら、ポーション、つかうの?」
「見習い作の、売り物にならない失敗したものでも、……量があれば、効くでしょう」
「それってバケツに入れた廃棄予定のものじゃ」
「有効活用です」
「私の、側近は、ケチね」
「あなたにだけは、言われたくはありません」
空色の目を細めて、眼鏡の位置を直す。
目なんて悪くないくせに。
幼児の頃は、美幼女と性別を間違えられるほどだったのに、かわいくなくなったわ。
「ん?」
教会の扉が、そうっと開くのがみえた。危険がないか、確認しているのだろう。
しばらくして、安全を確認したのか、中から、村人たちが、老若男女、たくさん出てくる。
たいして大きくない教会だから、すし詰めで窮屈だったろう。
神父の、姿もみえる。
壊れた門の外にいる、私たちをみつけ、歓声が上がる。
「おお、大聖女様!」
「われらを、お助けくださったのは、大聖女様か!」
「ありがたや」
私たちの方にむかって駆け出してくるもの、その場にひざまずいて、祈り出すもの達もいる。
どちらにしろ、彼らが、感謝し、崇めているのは、私よ。
純粋な感謝や賞賛っていうのは、やっぱり、とっても、気持ちいいわ。
もっと、褒めて、崇めなさい。
「ふふふっ……」
高笑いしたくなったけれど、さっき、魔族の相手をしているときにしたから、今は、しない。
にっこりと、慈悲深く微笑んで、彼らが私の前に、駆けよってくるのを待つ。
ド田舎だから、新聞の支社がないのが、残念だわ。号外が出ないじゃない。
でも、あとで独占インタビューなんて、受けてあげてもいいわよ。
だから、小娘、聖女達の特集やめなさい。部数が伸びたからって、連載って、どういうこと?
「……………はぁ」
腹の底からでた、深い深いため息が聞こえたが、そんなの知らない。
私は、唯一無二の大聖女。
小娘、聖女たちなんて、足元にもおよばないのよ。




