53 夢にまで見た……①
今日の晩ごはん(予定)、美味しい鳥(うまいが、くっそ素早い)を、必死で追いかけていたら、信じられない光景に出くわした。
「うわ、すげぇ。……元の世界の、店たち。うわ、何でもありじゃん。幻、見てるわけじゃ、ないよな?」
自分の頬をぎゅっとつねってみた。
普通に、痛い。
「うわ、コンビニもある。……おれ、あの、からあげ、好きだったけど。……くん、ある?」
ふらふらっとすいよせられるように、近づいていく。
警戒心なんて、忘れた。
鳥? とっくに見失った。どうでもいい。
ここにきて、何年過ぎた?
獣を狩って、畑を耕して野菜を育て、調理して、ほぼ自然のままの味で生きてきた。
だけど、無性にあの味を思い出して食べたくなる時が何度もあった。夢も見たことがある。
「24時間営業だよな。今、深夜だけど、開いてるでオッケーだよな? わ!」
文字通り、ビッタン!って音がするくらい、勢いよく顔面をぶつけた。
「痛っ。なんだ、結界?」
両手を前に突きだしてみた。
透明な、なにかが行く手を阻んでいる。
無色透明な、結界だ。
周囲を見回して、結界のもとになっている結界石がないか、探す。
結界石は、魔石に魔力を込めて、獣や魔物を侵入できなくするための、魔道具だ。
上級なものは、人はもちろん魔族さえ侵入を許さないという。下級なものは、獣を防ぐくらいしかできない。
どの精度のものにしろ、常時発動するためには、継続的に魔力の補充が必要になる。
おれは目を細めて、周囲を見渡す。魔力を目に込めて、探る。
結界石らしきものはない。
だとしたら、人の手によって?
すごいスケールだ。
むこうじゃ、なんとかドーム何個分の広さですとかいう、広さのたとえの仕方があったが、少なくとも、数個分は余裕でありそうな、ドーム型の結界が目の前に展開されていた。
だが、俺はにやりと笑った。
「デカけりゃ、いいってもんじゃないんだよ!」
おれは、鞘から剣を抜き放った。
赤色光が刀身に走る。
対人相手ではないから、思いっきり、振りかぶる。
「おれの、コンビニへの執念をなめるなよ!」
振り下ろす。
おれの来店を、阻止する結界なんて、粉砕してやる。
「! うわ、ぎゃ! あ、あぶね」
粉砕されそうになったのは、オレだった。
十メートル以上、後に飛び退った。
おれがいた場所に、無音の雷が落ちた。
目を焼く光が放たれ、地面を焦がし、白煙があがる。
この威力の雷が落ちれば、轟音がしそうだが、音はなかった。
……まさか、夜だからサイレントモード、とか?
目の前の、透明な結界越しの、こっちの世界ではあるはずのない非常識な店舗群の持ち主が、結界の発動者だとしたら、ありえると思った。
俺は逃げ登った大木の枝の上で、愛剣、紅蓮の黄昏(命名、おれ)の刀を確認する。
幸い、刃こぼれはしていない。
だが、手はビリビリと、衝撃に震えている。
「……よかった、紅蓮の黄昏(命名、おれ)は無事だな。――おれの手は、雷でビリビリに感電しちゃってるけど」
取り落としそうなので、鞘に戻す。家に帰ったら、手入れしつつで、もう一度、確認だな。
おれは身軽に枝から地面に着地した。
ここ数年、野生の森で生き抜いてきた、おれの運動神経は限界突破している。
おれは透明な結界のむこう、夜の中、光を放ち、存在を主張する、コンビニを見据えた。
「物理がだめなら、魔法で。おれの、執念をなめるなよ!」
両手を前に突き出す。
握りしめた拳から、炎が立ち昇る。
ちなみに、おれは火属性だ。
「火の龍よ。地獄より灼熱の焔を纏い、顕現し、我が眼前の敵を焼き滅ぼせ(呪文、作、おれ)」
拳の炎が、だんだんと形を取っていく。龍だ。西洋の竜ではなく、東洋の龍。
詠唱必要ないし、炎をドラゴンの形にする必要はないが、それはおれのこだわりということで。
龍が大きく口を開き、炎の牙をみせる。
「いけぇ! 灼熱の焔を解き放て! っ!うわ、つめてぇ!」
音をたてて、頭上から大量の水が、文字通り、ふってきた。
鼻にもノドにも流れ込む。苦しい。ゲボっと水を吐き出した。
ジュッという音とともに、龍は消滅している。
消滅というより、消火かもしれない。
水の直撃を喰らったせいか、ふらりと身体がよろめくが、一歩前に出した足でふんばり、なんとか、転倒をまぬがれた。
「すげぇ。やべぇ。この、結界。――!」
おれは枝よりも高く、大木のてっぺんに飛び上がる。
俺がいた場所。濡れて、水たまりもできた地面が、銀色に光り、バチバチと威嚇のように音を出している。
あのまま、あそこにいたら感電間違いなしだっただろう。
「足を一歩、ふみだしただけなのに……なんで
? わ!」
今度は風切音がした。
何とか避けたが、数本、切れた髪がパラパラとおちた。
顔をきられなくてよかった。
あの切れ味じゃ、大量出血間違いなし。
今のは、まるで警告みたいだ。
「……もしかして……敵認定された?」
攻撃を受けて返すを2度繰り返したあとは、警告から、攻撃に転ずるとか?
この万能結界ならあり得る。
現に、透明だったのが、うっすらと赤く発光している。
雷、水、風ときたら、次なんだろう? もう、なんでもありの、気がする。
「……」
これは、撤退したほうがいい。
この世界で、何年もぼっちで、生き抜いてきたおれの感が、そう教えてくれている。
「く。今日のところは、これで帰る。夜も遅いし、夜遊びはいかん。家に帰らねば。さようなら」
誰に言ってるのか? 結界か?
なんか、話が通じそうな気がする。
帰るからさ。
だから、さらに音をたてて、地面にバチバチ雷落とすの、やめようか?
おれは未練がましく、後を何度も振り返りつつ、大木から大木へと、飛びうつっていく。
「……からあげ……ポテチ……」
食べたい。
駆け寄れる距離にあったのに、行けなかった。
涙、出そう。
今日は大人しく帰るから……さ。
数日……余裕を持って一ヶ月くらいしたら、敵認定したこと、わすれてくれないかなぁ。
あきらめきれない。
優秀な万能結界は、敵認定した者を忘れることはないと、気がつくのは、きっちり一ヶ月後に、再訪したときだと、――今の、おれは知らない。
さらに強化された結界に守られた場所に、ほぼ日参するようになるなんて、知らない。




