52 魔王①
「なるほどね。あの、ひきこもりの、エセ平和主義のくそジジイが、何百年ぶりに外に出てきて、人間の住処襲ったっていうから……生き過ぎて、頭の中どうにかなって、殺戮衝動にかられたのかと思っていたが……そういうことかよ」
おれは組んでいた足をくみかえた、
「数百年ぶりに生まれた、かわいい、かわいい、愛娘の、報復のためにねぇ……、おれのことは、ボッコボコに半殺しにして、反省しろ、帰ってくるな、と、瀕死のまま、たたきだしてくれたのに、なぁ……」
頬杖をついて、椅子に深く、身体をしずめる。
いつもは行儀が悪いですよと、小言をいう腹心の一人も、おれの様子から、言葉を飲み込んだ。
「いつの間に、ガキなんて、こしらえていたんだろうなぁ。ガキ? あぁ、そうか、認めないけど、おれの、イモウト様に、なるのかなぁ?」
そう、妹。
ただし……
「腹違いってやつだけどな。だろう? なにせ母上は、あのジジイに、殺されたからなぁ」
許しを請う母を突き放し、そのまま容赦なく、斬り捨てたのを、どれだけの月日が過ぎても――忘れたりはしない。
「こんな、おもしろ、楽しいことを知ってしまったからには、おれはどうしたらいいんだろうなぁ?」
誰も何も答えない。
おれの身体から溢れ出した魔力の圧で、報告をしていた密偵は、床にへばりついている。
腹心達はさすがに膝を屈したりはしないが、他、家臣達のなかには、座り込んでしまった奴が、何人もいる。
おれの国は、厳格さなんて求めていないから、多少の行儀の悪さくらい、おれは大目に見てやる。
ただ、あの、ジジイは、そうはいかない。
あの、黴臭い古い古い国の中に、引きこもって鎖国して出てこなければ、よかったのになぁと思う。
お互い、平和?に過ごせてたのになぁ――本当に、残念で、がっかりだよ。
でもまぁ、少々、飽きてたから、ちょうどいい。
魔王と呼ばれ、馬鹿な人間の相手をしてやるのもつまらなくなって、その役は他の魔族の国になすりつけてやったから、何十年に一度の娯楽がなくなっていた。
頻繁に勇者を名乗るやつに襲来されていた時はめんどくさいと思っていたが、やめてしまうと、案外暇つぶしにはなっていたのだなと思った。
人間の国を襲うのも、相手が弱すぎてつまらなくなった。
他の魔族の国も、おれに敵わないと、バカな頭が理解したのか、めったに攻めてこなくなった。つまらない。
おれもあのジジイと一緒でひきこもりか?
同じは嫌だが、外はつまらん、弱すぎ。羽虫どもにこちらからかまうのは、めんどくさい。
人間をかまって遊んでるほかの国の奴らは、よく飽きないな。人間をいくら殺しても、大した力にはならねぇのによくやるな、と思っていた。
次になにすることもなく、腹心達とともに、内政に勤しんでいたおかげで、あのジジイの国と並ぶ、いや、それ以上になったとは思う。
だから、国力でも、戦力でも、イケると思うな。
腹の底から楽しくて、大声で笑いたくなってくる。
おれの、退屈な日々に終止符を打ってくれるのは、やっぱり、あのクソジジイだよな。
「威圧を、魔力を……抑えてください、我が君。死にそうになってるものがいます」
「……ん? わりぃ」
絞り出すような苦しげな声で腹心が言ったので、目を向けると、床にはいつくばった者達の中には、口から血を吐いたり、目尻から血を流してるものもいる。
少し赤黒い魔族の血だ。純粋な赤色の人とは違う血の色。
「わりぃな、楽しいお知らせに、つい、興奮してしまった」
こんな、気分にさせてくれてありがたいのに、殺してしまっては申し訳ないな。
「治療してやってくれ。ポーションなら、どれ使ってもかまわねぇ」
「その前に、威圧を、抑えてください。誰も、動けません」
「わかった、わかった」
意識して、魔力を押さえる。ぐっと無理やりフタをするかのように。
「早く治療してやれ」
「は」
倒れ伏した者たちを、動けるようになった者が連れて出ていく。
「さて、これからどうするかなぁ」
高揚感に、身震いする。
「あのジジイに会いに行くか?」
よくわからんが、またいなくなったとかで、娘を探し、外に出てきてるらしい。
「ジジイではありません。始祖王であり、魔王陛下です」
おれにぶち殺されることを恐れない、腹心の一人が言う。
ほかのやつなら、即ぶち殺すが、こいつは乳兄弟でもあるから、多少のことは許す。
それに、今は、キゲンが最高にいい、つもりだからなぁ。
「そうだな。おれも、自国がある王だし、やはり、この場合は、父上と、呼ぶべきかな、どうだろうなぁ」
どうだろうな、どうしようかな?
クソジジイの、滅多に見られない様を見に行くか?
それとも、ジジイの大事な大事な、愛娘を、先にみつけだすかな。
おれの、カワイイ、イモウト様らしいからなぁ。
――ああ、本当に、楽しくて、楽しくて、たまらないな。
さて、どうしてくれようか……。退屈な日々はもう終わりだ。




