5 虚飾
生まれ? 親の身分? 血筋? 色?
そんなもので、最初っから否定されて、踏みにじられて、そんなんで、真っ直ぐに育てと言われても、無理があると、俺は思う。
ひねくれてる。性格悪い。あの方とは大違い、卑しい血を引くものはこれだから嫌だとか、右から左に罵られ続けてれば、そりゃさ、腹に一物かかえてる、喰えないヤツの出来上がりってもんだと思う。
しかし、他人にここまでいいたい放題の真っ黒な感情ぶちまけておいて、当人たちはいたってまともなつもりなのも、びっくりだと俺は思う。
人の感情が目に見えるものだとしたら、あいつらの口から吐き出されてるものは、黒だ。どす黒い、ひとかけらの白も混ざらない色。
そんなぞっとする輩の中に、聞こえないふりして生きている俺は、ただ惰性に日々を過ごしてるだけだ。
死ねないから、生きてるだけ。
自分で死ぬのも、だるいから、生きてるだけ。
では、生きやすいように、自分で、努力して、認められるようにすればいいと思うかもしれないが、そんなもん、幼気でまだ純粋だったかもしれない、幼児の時にやってる。
で、優れてるところを見せれば、出る杭は打たれるってやつだ。
あいつらの、崇拝する、半分だけ血のつながったあの人より、優れているところを見せれば……
まず、何かの間違い、不正、ズル、まぐれだとなる。
しかし、どうあっても事実だとなると、殺意が芽生えるらしい。
目障り、だから、殺せ となる。
生きたいとも特に思ってもなかったが、殺されてやる気はない。
なんで、アイツラごときに俺が、殺されてやらなきゃならない?
努力とか環境改善とかは、幼児のときにやめた。
殺されてやらないように、生きてきた。
「まじで、めんどくせぇ……」
今日は、みなさんの、大事なあの人の婚約披露パーティーだそうだ。
この魔物あふれた世界を救う聖女様との、婚約だそうだ。
本日の主役の二人のまわりに、着飾った老若男女が幾重にも取り囲み、祝福の言葉をなげかけている。
お二人さんは、にこやかにそれを受け止めている。
俺は、壁の花っていうのか?
目立たぬ端っこ、壁際で、我知らず、こぼれてしまう皮肉げな笑みを浮かべて、それを眺める。
ほんの数ヶ月前には、隣に別の女いたよなと思う。
彼女はどこにいった? 還った? ──そんなはずはない。
術はないときいている。一方通行の、俺に言わせれば人さらいの、召喚術ゆえに。
なら、どこにいる? どこへ?
それとも、不要だからと──
「……」
不穏な考えを否定するように、きつく目を閉じて、その考えを振り払う。
それだけはないだろう。
いくらなんでも、それだけは……。
閉じていた瞼をあけ、視線を流した時、離れた場所で笑顔を浮かべ談笑している、今日の主役と目が合った。
俺は皮肉げに微笑み返して、声に出さず、口だけをうごかす。
幸せそうで、なによりです。 お異母兄様?
むろん、返事はないし、合った視線は、誰にも気づかれないうちに、そらされたが。
「殿下。こちらにいらっしゃいましたのね?」
「私達、ご挨拶がしたくてさがしておりましたのよ?」
近づいてきてることはわかっていたが、さすがに逃げるわけにもいかず、その場にとどまっていたが、少し、後悔した。
ニオイがきつい。化粧と、つけすぎてる香水の匂い。
誰か、こいつらに香水のつけ方おしえてないのか? 一瓶、ぶっかけてるようなきついニオイだ。
あいつは、自然な、なんだろう本当の花?みたいなにおいがしたな。ふと、そう思った。
「殿下、私たちとお話してくださいませ」
「そうですわ。この前の、遠征のお話など」
「まぁ。そんな恐ろしい話。私、こわいですわ」
「それよりも、城下にできた、新しいカフェのお話をしましょう。ぜひ、ご一緒したいですわ」
売約済みになったあの人に見切りをつけて、どうやら身分だけはある、俺に目標設定を変えたらしい。
「こんばんは、何を話しましょうか、美しい人たち」
俺は、この場にふさわしい、ウソだらけの微笑みを浮かべて、耳障りだけはいい話をしてやることにした。
こんな夜には、本当の言葉なんて、必要はない。
そうだろう?




