45 闇に堕ちる①
――ああ、なんて、簡単なんだろう、生命を奪うという行為は。
次はどうしよう? どちらからやろうか?
私を騙した、あの国?
私を殺した、魔族達?
それとも、全部、全部、全部、この世界ごと壊してしまおうか?
足元には血の海。たくさんの骸が無造作に転がっている。
力を試してみようと、手始めに小さな村を襲ってみた。
自分たちが、どんな力を得たのか、知りたかったから。
転移して、たまたま降り立った、村だ。
村人は50人にも満たなかった。
まずは、人の良さそうな顔をした、第一村人から、試し斬りをしてみた。
闇色の力がからまった刀身をふるう。
一瞬ためらったのは、私がかつては、人だったから?
腕が切れ、首がもがれかけたことのある私が、今、生きていても、もう、人ではないことはわかっている。
私は何になったのだろう?
正義の心は、どこに行ったのだろう? 砕け散った?
私は、人には親切にし、誰から見ても正しい行いをしなければならないと思っていたはずなのに。
今は、ただ、心が冷たい。真っ黒な夜の闇よりもっと黒く、そして、冷え冷えとしている。
私を動かすのは、許さないという、一つの感情だけ。
だから、大人に逃がされた子供たちが泣きながらも声を出さないように隠れ潜み、森の奥からこの惨劇の場をみていることに――気がついているが何もしようは思わない。
罪悪感もない。みられていても、なんとも思わない。
子供だけで生き延びることができたのなら、誰かに話せばいい。
ありのままに話し、助けを求めればいい。
同じように、自分の力を試していた仲間の一人が、子供たちに気がついて、黒い魔法を放とうとしたが、首をふって止めた。
「なんで。邪魔するなよ」
「必要ない。全員を殺して、口封じする必要はない。私たちは逃げているわけでもないし、身を隠す理由もない」
私たちは、人だったときになかった力を得た。
黒い闇色の――けっして、勇者や聖女にはなれないだろう、禍々しい力を得た。
死んで、蘇り、悪い方のチートにでも、目覚めたのかもしれない。
異世界に召喚されて、チートなんて都合のいいものはないのかと残念に思っていたけど、殺されて、手に入れるなんて、……笑える。
生きている時に、この力に目覚めてたら、それが黒い闇色でなければ、聖女とか、勇者とか呼ばれて、ばかみたいにあがめられてたかもしれない。
魔王を倒しに行ってください、勇者様とかいわれていたかもしれない。
………愚かな道化師。
「ちっ」
私に、とめられたことに苛ついたのか、舌打ちして、村の中心部に行き先を変え、魔法をはなった。ドーンと、破壊音が響き渡る。
悲鳴が聞こえた。まだ、家の中に隠れていた村人がいたのだろう。
魔法を受けた家々は、ぐしゃりと音をたて、つぶれていく。
「……家を壊したら、今夜、泊まる場所がないね」
この身体になって、睡眠は必要なんだろうか?
「こんな、ちっぽけな村の、小汚い家で寝れるわけないだろ。館か城だろ」
家を潰した上に、追い打ちをかけるように火魔法を放った仲間がいう。たしか、深山とか名乗った。下の名前は聞いてない。
黒い炎が、大きく、広がっていく。
「館、城ね」
それはどこかにあるだろうけど、こんなふうに襲ったら、抵抗も激しいだろうし、血まみれで住める状況になるのか?
「それなら、あたしがつくるよ、真琴ちゃん」
私に声をかけてきたのは、清香だ。
ほかの仲間たちが村を襲っていたときには、何もせず眺めていた。
彼女は、異世界に召喚されて、癒しの魔法の適性があるといわれた。
私たちが魔族との戦いに駆り出され、圧倒的力の前に殺戮されているとき――泣きながら瀕死の仲間に癒しの魔法をかけ続けていたのをおぼえている。優しい、私の親友。
彼女はどんなふうに死んで、闇に堕ちたのだろう。
「まずは、今日の宿でいいかな?」
彼女の手から、黒い力が流れでていく。
かつて、彼女の手からは――小さな傷しか癒せていなかったけど――白い光が放たれていたのに。
潰されて、火魔法が放たれた家々の残骸に届く。
黒い闇が広がり、火を消し、それから瓦礫がどんどん集まってくる。
小さな球体となりどんどん周りの瓦礫を飲み込み、大きな球体となっていく。
それぞれの場所で、村を破壊していた仲間たちも動きをとめて、その様を見守る。
「材料は家の残骸と、人と血と、断末魔の声、悲鳴。あたしの恨み少々かな。あはは、つまんない」
肩をすくめて、清香は続けた。
「ふふ、不思議だねぇ。こうなってからのほうが、いろいろできるようになったね。闇落ち、バンザイだねぇ」
次の瞬間、巨大化していた球体が弾け、黒い闇が視界を覆った。
すぐに晴れ、そのあと、建物が出現していた。
私たちがこちらに来て、住まわされてた屋敷と似通ってる。
ただし、白かった外壁は黒い。
「ごめんね。想像力なくて。でも、今晩の宿にはいいでしょ。部屋割もそのままでいいし、備え付けの家具とかも再現できてると思うよ。ただ、メインカラーは黒だと思うけど」
「いや、全然いいと思う。すげー」
館か、城と注文つけていた深山が、建物を見上げている。
屋敷の周りに仲間たちも集まってくる。
近くにあった建物は跡形もない。
すべてこれの材料になった? 村人も?
森に潜んでいた子供たちが、清香が力を行使し始めたとき、いっせいに森の奥へと逃げ出したことには気がついている。
追う必要はない。
無事に逃げられるとは限らないし、森には魔物がいるはずだ。
「真琴ちゃん、行こう」
私の手をひっぱり、屋敷の正面入口に歩き出す清香の体温は冷たい。
私もだろう。
「侍女さんは、当然いないから、自分たちでしなくちゃね」
「そうね。料理とかもする必要あるのかな」
「わかんない。おなかすかないし」
「私もかな」
「料理したいけど、たぶん材料ないよ。命あるものはつくれないから」
「そうなの?」
「うん。なんとなく、わかる、かな」
「そう」
「でもね、みんながいるから、怖くないよ」
「……うん」
人ではなくなり、闇に堕ちた。
許さないという感情だけを抱き、私は、これからどこへ行こうとしているのだろう。




