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欠片たち   作者: siki


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43 友達④


 目が覚めて、少しの間、どこにいるのか、わからなかった。

 

 肌触りのいい毛布が身体にかけられていて、思いのほか、近い場所に、友達の顔があった。

 腫れ上がってた瞼も元に戻り、頬や、額にあった傷もない。

 すーすーと寝息が聞こえるので、寝てるだけだと思って、安心する。

 良かった。生命の危険はもうない。

 そういえば、名前、私もだけど、彼も名乗ってない。

 目が覚めたら、今更だけど、私も名乗って、教えてもらおうと思う。

 身体を起こそうとして、目に入ったのは、たぶん飲み物の入った入れ物。みたことない色鮮やかな絵が描かれてる。ツルツルしてて、渡されたときは冷たかった。

 開け方がよくわからなくて、頑張ってみたけど駄目だったから、少し熱を持ったみたいに熱くなってきてた、彼の頬に当てたりしてた。

 そういえば、外にあった光ってた長方形の箱形に飾りみたいに並んでたひとつだった気がする。

 冷たいそれを彼に当てつつ、眺めたり、そんなことしてたら、いつの間にか、私も寝落ちしてたのだろう。

 彼の掛け布団の上に、横になってた。

 身体には、肌触りがとてもいい毛布がかけられていた。

 

 魔族はそんなに睡眠を必要とはしないけど、私はまだ子どもなので、ちゃんと寝ない日が続くと寝落ちすることもある。

 そんなときは、エリスはまだ子供だ、可愛いらしいと、まわりの何百歳も年上の魔族達を萌えさせるからイヤだったのに、今日はしかたない。

 この、ふかふかの寝具が悪い。

 床に直に引いてるのに、ふかふかで厚みがあるし、上に掛けてる布団はあたたかく、同じく厚みがあるけど、軽い。

 彼の身体に掛けてあげてるとき、あまりに軽くてびっくりした。

 私の上にかけられていた毛布はものすごく手触りがいい。思わず、頬をスリスリしたくなる。そんな、ちいさな赤ん坊みたいなことは、したいけどしない。我慢。

 この毛布、かけてくれたのは、リンと名乗った異世界人の少女だろう。

 彼を助けてくれた恩人。何も聞かず、私たち二人を、彼女の領域に受け入れてくれた。


 リンが受け入れてくれたから、この中にはいれているのだと思う。 

 でなければ、この中にはいれない。

 白い霧を越えることは、本来なら、魔族である私も、この世界の人である彼もできない。

 それは決められていることだと、なぜか、本能で私は知っているのだと思う。

 リンが、リンの領域の中に、受け入れてくれたから、ここにいられる。

 この、リンの領域以外には、おそらくでられない。

 でたら、外に弾き出されるのか、……それとも……、わからない。


 私たち、魔族やその他種族は 白い霧の漂う果てしなく広大な大森林の中に国家や集落を作ったりして暮らしてはいるが、白い霧には触れられず、避けるようにして暮らしている。


 それから、白い霧を越えてはいる大森林は、私たちの知る大森林とは違うともいわれていた。


 いつも話の長くなる、お父様にいつだったか、教えられたことがあった。いつも聞き流していたので、今まで忘れていた。


 白い霧の中と外、両方を行き来できるのは、異世界人でもあまりいないのではないだろうか? 過去にはいたとはいっていた気がする。


 はじめてみた、白い霧には、別格の、たとえば神に匹敵するような、力を感じた。

 ちょっと触れてしまっただけで、弾かれて、想定外のところに飛ばされたこともあった。そのおかげであの町にたどり着いて、彼に出会ったのだけど。


『……』


 不用意に、白い霧には触れてはいけないと、お父様が言っていた気がする。

 継ぎ足しの創造神より、力ある本来の大神様が、流されているものだからと言っていた。


 千を超える年月を生きているお父様は、たくさんのことを知っている。


 ちゃんとお父様の話、聞いておけばよかったと、いまさら思う。


「おきた? エリスちゃん」

『!』


 急に声をかけられて、ビクッとして、ガバっと起き上がる。

 スルッと毛布が肩からすべり落ちた。床に、柔らかく広がる。


「ご、ごめんね。いきなり、声かけたからびっくりしたよね」


 あまり広くない部屋の壁のところに、リンが座ってた。

 そばには、白い袋が置かれてる。

 

「買い物から戻ったら、寝てたから、私もちょっと、休憩してた。起きたみたいだから、おなかとかすいてないかなと思って、声かけてみたんだ。ごめんね、驚かす気はなかったんだよ」


 首を振る。

 ちょっと驚いたけど、問題はない。


 よかったと笑って、リンが立ち上がって、足音をたてず静かに私のそばに来て、横に座った。

 持ち上げる時に、ガサッと音がした白い袋も横に置く。

 彼の顔をじっと観察して、ほうっと息を吐く。


「うん、よかった。深く寝てるね。ちょっとやそっとの音じゃ起きないってわかってるけど、声をひそめちゃうね。……ふーむ、ワンルームって、やっぱりお一人様用なんだよね。向かいの部屋開けちゃうかな」


 腕を組み、小さな声でつぶやいてる。


「となると、不便だし……やっぱり、……家具店……ううん、いっそ、ホームセンターも……。便利さを求めすぎ? 空き区画もそろそろ広さに限りがあるし、厳選したほうが……いっそのこと、広げる?」


 よくわからない単語を交えつつ、考え込んでるリンにそっと触れる。

 口が聞けないから、こうして意思を伝える。


『これ、どうやってあけるの?』


 すっかり冷たくなくなった、それを差し出す。

 異世界の飲み物だというなら、ぜひ、飲んでみたい。

 

「え? あ、ペットボトル、開け方わからなかった? あぁ、そうだよね。ごめんね、気がつかなかった。上の白いキャップ、フタを回して開けるんだよ。うん、実演したほうが早いね」


 いいながら、ペットボトルとよんだそれを私から受け取る。


「うん。やっぱり、ぬるくなってる。これは冷蔵庫にいれて、新しいの買おう。自動販売機はすぐそばだから、一緒に行こうね」

『うん』


 自動販売機というのが、あの箱型のことなら、たしかにすぐそばだ。

 彼が起きたとしても、すぐわかる。

 それに、自動販売機って何?と、好奇心がむくむくと沸き起こってくる。


「これだよ。飲み物を売ってるんだ」


 自動販売機は、やはり箱型のことで、同じ長さのペットボトル?、それから、筒型の形のものが並んでる。

 どれも色鮮やかに文字や絵や模様が描かれてる。


「どれがいい? さすがに、最初は炭酸やコーヒーとかはやめたほうがいいと思う」

『さっきと同じのでいい』

「わかった。ん? 押してみる?」

『おす?』


 好奇心いっぱいで物珍しそうに見ている私に気がついて、リンが聞く。

 迷うことなく、私は答えた。


『押してみたい』

「了解。ちょっと待ってね」


 コインかな? とても綺麗な均一な形をした丸い形の金属を、数枚、ここにいれるんだよと言いながらいれた。

 電子マネーのが早いけど、それはまたでと言いながら、私をヒョイッと抱き上げた。

 人間の幼児と変わらない大きさの私には、リンが押してみる?と聞いてきた出っ張りに、背が届かない。でも、浮遊魔法で浮けば大丈夫だと思う。

 だけど、大人しく抱っこされる。


「ここを押してみて」

『ん』


 指で、光ってるそれに触れて押す。

 力はいらなかった。

 ガタンと音がして、下の方に横向きに、さっきと同じペットボトルが転がって落ちてきたのがみえた。

 リンが降ろしてくれて、両手を伸ばして、それを取り出す。

 触ったそれは冷たかった。

 さっきと同じだ。

 それにしても、このペットボトルどこから来たの? 魔法? お金を払うと、魔法で取り寄せるのかな? 異世界すごい。


「よし、部屋に戻ろうか」


 リンにうながされて、部屋に戻る。

 ペットボトルは大事に抱えている。

 それから、リンに開け方を教えてもらって、キャップと呼ばれたフタをあける。ちょっと力がいる。だけど、魔法は使わない。

 これを閉めておけば、飲み残しても、こぼさず保存できるんだよと言ってた。でも開けたら、早めに飲まなきゃだよ、とも。

 コップは必要?と聞かれたけど、かまわず、両手で持って、かたむけて飲んでみる。


「!」


 果実水とは比べ物にならない。

 冷たくて、甘い、果物の味。でも、搾りかすなど不純物はなくて、さらりと飲みやすい。

 ごくごく飲んでしまう。


「美味しい? のど渇いてたんだね」


 にこにこしながら、リンが言う。

 

 氷がないのに、冷たい飲み物ははじめてだ。

 冬でなければ、氷属性の魔法でだすしかない、氷は贅沢品だ。


 こんなに美味しい飲み物は、はじめて飲んだ。

 外の自動販売機には、ほかにもたくさん種類があった。

 全部飲んでみたいと、思った。

 でも、さすがにおなかがタプンタプンになるし、ペットボトルは量が多い。


 彼が目が覚めたら、半分こして一緒に飲んでみたい。

 まだ深い眠りに落ちてる友達の横で、自分だけ美味しいものを飲んでることも悪い気がした。


 友達は、いつも仲良しで、おいしいもの半分こしたり、なにかあったら助けあったりするだいじな存在だと、彼が言ってた。

 私のこと、友達と思ってくれてるかな? 私は友達だと思ってる。私、魔族だけどいいかな? でも……。

 優しい彼なら大丈夫だと、わけもなく、確信できたのが不思議だ。


 二人で、それから、リンも一緒に飲んだら、楽しいと思う。

 

 ずっと、にこにこしながら私を見ているリンに、これはどうかな?と、差し出された容器には、黄色くて底に焦げ茶のものがはいってるのがみえる。冷たい。軽い透明なスプーンも一緒に渡された。


 ちっちゃい子は、やっぱりプリンだよね、お約束と、リンは、うんうんと、うなずいてる。


 プリンはやっぱりとっても美味しくて、一緒に食べたいものリストの一番上に位置することになった。


 見るもの全てがめずらしくて、それに目覚めない友達のことも頭の半分以上を占めていて――お父様がいなくなった私のことを思い、嘆き、絶望しているなんて、まったく頭に思い浮かんでいなかったんだ。



 本当にごめんなさい、お父様。反省します。



 

 



 

 

 

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