39 聖女(一応)あらため、聖女見習い
いくらイケメンだとしても、人の顔をみるたび、ため息をついたり、睨みつけたりするような人は、王子様失格だ。
私の斜め前に座り、私を見てためいき、睨んでからためいきばかり……。
言いたいことがあれば言えばいいじゃんと思う。
けどまあ、返ってくる言葉はいつも同じだから、あえて聞かない。
――なんで、こんなの、連れて帰ってきたんだ。
自分しか守れない、自己中結界。何の役に立つ?
帝国はめんどくさい異世界人を押しつけることができて、さぞかし喜んでるだろう。
こんなのが、話し相手って、有益な話できるのか、これに。無理だろう。
ムカつくことしか言われたことないので、無視しておくに限る。
はじめてみたときはなんて美形と思ったけど、中身を知ると、遠慮します、だよ。
テーブルの上に、頬杖をついて、目の前におかれたティーカップから湯気があがるのをみつめる。
ちょっと、肌寒くなってきた。冬が近いのかもしれない。
もう、ひとつの椅子は空席。約束の時間はまだだけど早く来てほしい。
「はぁ……」
また、この王子、ため息ついた。
ここに私といるのが、イヤならもどればいいのに。王子なら仕事あるよね。
忙しすぎる聖女であるお姉様と、婚約者として少しでも交流がしたいと、私とのお茶会に毎回乱入してくるのだ。迷惑。
私を、帝国から救い出してくれたお姉様。
お姉様に保護されている私は、王城の隣にある教会で聖女見習いとして暮らしている。
私、聖女なのに、なんで見習い?って思ったけど、深く考えるのは苦手なので、ま、いいかと思ってる。だって、考えすぎると動けなくなる。
お仕事の手伝いをしたり、勉強頑張ったりすると、ありがとうとか、よく、頑張りましたねと、お姉様がほめてくれるから嬉しい。
私、生まれは、兄弟多めの長女。物心ついたころから、家の手伝い――主に弟達の世話するのが当たり前と思われていて、ありがとうっていわれたことが記憶にない。
勉強頑張っても、ほめられたことない。
やる気をバキバキに折るのが、うちの親だった。
一時期、やさぐれて、やばい道にもすすみかけたことがあったなぁ。
けど、私がいないと飢え死にしそうな弟達に、お腹すいたとぎゃーぎゃー泣かれて、グレてるひまなかったな。
今思うと、うちの親、ネグレクトだよね。お金だけ渡せばいいってわけじゃないのにね。
弟達どうしてるかなぁ。姉は、異世界です。
お前たちももう小学校高学年。我が家では家事ができて当たり前。強く生きろ。
私は、なりたかった、憧れの末っ子のように、姉に甘やかされる妹状態で生きてるよ。しあわせ。
ごはんも自分で作らなくていいし。
教会で、食器洗いとか、洗濯とかすることもあるけど、ぜんぜん平気。だって、泥汚れとかゲロ汚れとか、ほか、いろいろやばい汚れついてないし、最高。あまりにひどいと、洗濯機にそのままぶち込むことはできないんだよ。だから、手洗いには慣れてる。しかも、洗うのは自分の分だけなので、少なくて、まだ、できるよって感じ。
来てすぐのとき、感じの悪いほかの修道女や、見習いが、私が家事ができるのをみて、驚いた顔をしていたのを覚えてる。
ふふ、こうみえて私、女子力高いんだよ。決して、おかん力ではない。
そういえば、お嬢様っぽい見習いが、異世界から来たとはいえ、平民だからできるんでしょう、下々の生まれなのねとか、悪役令嬢ぽいこと、いってたなぁ。
女子力高いけど、しばらく、恋愛はいいかなぁ。
異世界の定番の真実の愛とか、やってみたりしたけど。
あの皇女さまの婚約者さんは、異世界に来て戸惑ってた私に優しくしてくれて、いい人だったし、顔も良かったけど、今はもういいかなぁ。
真実の愛とか、卒業パーティとか、断罪とか、それを背景に、めっちゃなりきって盛り上がったけど。
なんか、舞台でも演じてる気分だったよね。
そういや、家事で忙しくてはいれなかったけど、部活、演劇部もいいなぁと思ったことあったな。文化祭の劇、娯楽の少ない日々を送ってた私にはとても楽しかった。
ほんと、真実の愛とかいいつつも、なんだか、演じてるというか、そんな感じだったな。
私、熱しやすく冷めやすいのかもしれない。
異世界にきてからの、初めての彼氏だったけど未練は無いし、元の世界でも、付き合ったことはあったけど、どれも短期終了だった。
みんな、美形だったし、悪い人でもなかったんだけどな。
とくに、真実の愛かと思ったあの人はとても優しかった。
「……」
皇帝にめっちゃ怒られて、引き離されたけど、今じゃ、あんまり、思い出すことも少なくなったよね。
元気にしてるかな。追放とかいわれてたけど、大丈夫かな。生活力なさそうだったよね。
うちの父、母みたい。
なのに、恋愛はして、子供は、バカスカつくって、うむんだよねぇ。で、育児はできない。で、私、長女の出番だった。
ほんと、迷惑。
恋愛が成就して、結婚したらゴールじゃなくて、そのあと現実の生活が続いてくんだよ。仕事だけじゃなく、家事育児もしろ。
あのときは異世界に来て、現実味がなくて、真実の愛なんて盛り上がれたのかもしれない。
今は、無理かな。
経済力はあっても生活力ゼロの父、わがまま自己主張の激しい弟達。優しいけど、それだけだった真実の愛だったかもな人。
美形だけど、会うたび、ため息ついて、上から目線の王子。今もためいきついたよ、この人。
ろくな男、いないな。
小学生の時、七夕の短冊に、一人っ子になりたい。末っ子になりたいと、書いた私。
今は、お姉様の話し相手をして、過ごす日々が幸せ。
心が満たされているので、恋愛は今はいい。真実の愛は、違ったみたい。また、今度で。
美形は観賞用で。
でも……
私とお姉様の、幸せな日々を邪魔したり、婚約者だからといってお姉様に害を与えるようなことをしたら……
この、ため息王子は、許さないよ?
「……ん? その目つきはなんだ?」
めざとく、私が少し睨んだことに気がついた、ため息王子が問う。
「目つき? 勉強頑張ってるので、少し疲れ目になってるだけですぅ」
「あら、それはいけないわね」
澄んだ綺麗な声が響く。
ほっそりとした白い指先が私の額に触れる。
ふわっと優しい力を感じる。
聖女であるお姉様の癒しの力だ。
「疲れるほど勉強してはダメよ。ちゃんと見極めて、休まなければ」
「はい、お姉様」
優しい聖女のお姉様。
帝国の皇女様のことも、お姉様と呼んでたけど、彼女はどちらかというと、お兄様かもしれない。男装めっちゃにあってたし。
「ごめんなさいね、遅くなってしまったわ」
「きみは、この見習いのために、わざわざ転移魔法までつかって、どうかしてる、本当に」
あきれたように王子がいうが、二人とも無視で。
「さぁ、お茶にしましょう。今日はどんな話をしてくれるのかしら?」
「今日はですねぇ」
私のどんな話でも楽しそうに聞いてくれる。
元の世界のこと、いろいろ思い出しつつ話していく。
自分をみてくれて、大切に思ってくれる人がいるって幸せだと、異世界に来て初めて知った。
薄情でいいよ。向こうの家族のことなんて、忘れた。
真実の愛は、私には一過性のものだった。
お姉様との時間が私の、幸せ。
だから、誰も邪魔しないでね。
したら、……許さないよ?




