38 白い霧の中の、ふたり
ふわふわと宙を進む赤ちゃんについていく。
時々、ちゃんとついてきてるか、確認するかのように、う? とかつぶやきながら、振り返るのが可愛い。
運動が苦手じゃなくてよかった。
道というより獣道?を歩くのは、大変だ。
石は転がってるし、木の根ははりだしてるし、なんなら倒木も転がってる。水たまりもあれば、飛び越えられる幅の小川があったりもする。
避けたり、よじ登ったり、ジャンプしたり、飛び越えたり、……ポイ捨てされたとき、元の世界の制服に着替えさせられててよかった。
ここにきて着せられていた、裾の長い衣装だったら、裾は泥まみれ、草の汁まみれ、どこかにひっかけて破れてただろう。
靴はローファーなので、ちょっと足裏が痛いかもしれない。
ふわふわと浮かびながら、前をゆく赤ちゃんの、浮遊魔法がうらやましい。
私もおぼえたいなぁ。
ここにきて、覚えられた魔法は、癒しとか強化魔法くらい。
それも、詠唱とか覚えられなくて、手を握って、なおれとか、守ってとかつぶやきまくってしかできない。
だって、光の神なんちゃらよとか、風の神なんとかさんって、ぜんぜん、知らない神様の名前をよんで、助力を求めると言われてもよくわからない。
異世界の神様、しらないから、祈れとかいわれてもよくわからない。というのが、心にずっとあったせいか、詠唱するほうが、威力が弱かったんだよね。
詠唱だと打ち身しか直せないけど、手を握ってなおれと念じると骨折まで余裕でいけるという感じだった。
攻撃魔法なんて、まったくだめ、詠唱はダメだし、癒し系のように、なおれとか、守れとかなら、なんとかいけたけど……。
攻撃系なら、殺れとか、倒せとか? ――無理。ぜんぜん知らないものに対して、そんなの無理。気持ちがついてかない。
こんなんだから、マガイモノとか言われて、間違いだったとか言われて、ポイ捨てされたのかな……。
う……、落ち込む。
必要ないとか、偽物、失敗だと、面と向かっていえるってすごいなぁと思う。
痛い言葉を相手に投げつけるということは、相手を傷つけるってことわからないのかな。
私は無理だ。
「う?」
「わ!」
私が足を止め、うつむいてるのに気がついたのだろう。
赤ちゃんが、心配そうに顔をのぞき込んでた。
大丈夫?って、気遣ってくれてる気がする。
「ごめん、ごめん。大丈夫。行こう」
私は笑顔を浮かべた。
「う…」
まだ心配だったけど、赤ちゃんはまた、ふわふわと前に進みはじめる。
「うわぁ、ここ?」
「う」
それから1時間ほどたって、ようやくたどり着いたのは、くるりと白い塀に囲まれた、平屋の家だった。
森の中の、ひらけた場所にあった。
そばには井戸もあり、畑もある。納屋もある。
畑はしっかり手入れされてる。
まだ、青いけど、トマトみたいな野菜がなっている。何色に熟すのかな?
「ここが、きみのおうち?」
それにしても、人の気配がしないのはなぜだろう?
この子を探しに行ってる?
ここにいますとか知らせるすべがないので、たぶん、もどってくるよね? 探し続けて、どんどん遠くに行ってないといいな。
「う」
ふわふわと漂って、玄関の木の扉まで行く。
赤ちゃんがドアノブに手を触れると、きいっと音をたて、外側に開いた。
中へ入っていく赤ちゃんに続く。
「おじゃまします」
ドアを開けると、広いホールだった。
2階へ続く階段が正面にある。
手すりも磨かれていて、つやつやしてる。
ん? 2階?
あれ、ここって平屋じゃなかった?
それになんでこんなに広いの?
外観に比べて中が広すぎる。
しかも素朴な外側だったのに、中身は豪華だ。
絵も飾られてるし、生花が生けてある花瓶もある。
「ええっ、どうなってるの。わ、ちょっと待って」
混乱状態の私にかまわず、赤ちゃんは2階へ続く階段を、浮いて登っていく。
こんな広いお家というより、屋敷なのに、人の気配がしないのはなぜだろう。
ふわふわ浮いてる赤ちゃんの後ろについて歩きながら、疑問が次から次へと浮かぶ。
人気がない割には、ホコリ一つなく、掃除は行き届いてる。
屋敷の中、全員で、外に赤ちゃんを探しに行った?
でも、何人かは残すよね。行き違いとかにならないために。
「あう」
声を出して、私にふりむいて、どうぞというような感じで、ひとつのドアを開ける。
「わぁ」
可愛らしい女の子の部屋だ。
人形やぬいぐるみ。小さめの家具、転落防止の柵がついたベッド。レースの縁飾りがされた布団は明らかに寝たあとがある。
小さなテーブルの上には、ころんと、哺乳瓶がころがってる。少し、飲み残してる。
小皿には、たまごボーロみたいなお菓子がいくつかのってる。
この部屋は生活感がある。だって、微妙にちらかってる。
「ここはきみの部屋なんだね」
「う」
にこって笑顔を浮かべて、赤ちゃんはうなずいた。
「かわいい部屋だね。子ども部屋だね。ん? 赤ちゃん部屋かもしれない」
「う」
「きみの家族が戻るまでここにいさせてもらっていいかな?」
ていうか、宿無しなので、とめてくださいってお願いしないと、今日は野宿だ。
「ないない」
「だめ?」
野宿決定か。木の上にでも登るかなぁ。動物出てきたら、怖いし。
「ちゃう」
「え?」
赤ちゃんが手をふると、ひらひらと一枚の紙が落ちてきた。
床に落ちる前に、キャッチする。
「う」
「よめってこと?」
そこには、少し可愛らしい丸文字で、こう書かれてた。
『 かわいい妹 ハル へ
いつまでもいつまでも寝て起きないから、待てなくなりました。
おねぼうさんにはつきあってられません。
お姉ちゃんは、旅に出ます。
社会勉強の旅です。
行ってきます。
起きたら、知らせてください。
たぶん、手紙をおくります。
アキ お姉ちゃんより』
「ええっ、どういうこと!?」
思わず、さけんでしまった。
赤ちゃんが驚いて、びくっとする。
その後、赤ちゃんが一人暮らしだということか、判明して、さらに驚くことになるんだよね。
異世界だと、赤ちゃんは一人暮らしできるんだぁと感心して、そんなわけあるか!と、……一人ボケとツッコミしたのは、歩き疲れて、疲れはててたからだよね、たぶん。




