37 許さない
ウソつきは許さない。
どうして、こんな目にあわなきゃいけない?
いつもそばにいてくれた先生はいない。
私を置いて逃げた?
こんな、恐ろしい魔族たちの前に捨て置いて、自分だけ、逃げていったの?
ずっとおそばにいますって、いったよね?
ウソつきは、許さない。
こんな、ばかみたいに強い魔族にかなうはずはない。
圧倒的な力で弾き飛ばされて、防壁に激突した。
口から血が吐き出されて、ズルズルと力をなくして、地面に落ちていく。
たぶん、いろいろとぐちゃぐちゃになったね。
私の心の中よりもっと、ぐちゃぐちゃに、骨とか内臓とか、逝ったと思う。
「……っ」
痛みで叫びたい。罵りたい。恐怖に震えたい。
だけど、身体は指一本、動かせない。
――あなたのその力で、魔族に脅かされる非力な私たちをお救いください。
――襲われています。罪のない人びとがあなたたちに、助けを求めています。
どうか、お願いします。
私たちも、ともに行きますから。
ウソつきだ。
ともに、なんて、いないじゃない。
私は、一人だ。
ここで一人で死んでいくの?
なぜ、こうなったのか、理由も知らないまま?
死ぬの?
嫌だ。
許さない。ゆるない、許さない。
私に、魔力はほとんどなくて、でも、剣道を習っていたから、剣を手に取った。
たくさんの大会で優勝してたから、自信があった。
一緒に召喚された他の子より、剣技は抜きん出てた自信はあった。
でも、それはスポーツとしての武術だった。
本当の意味で、戦うとはどういうことなのか、わかっていなかった。
倒れ伏した私の右手に、獣が噛みついている。グイグイとひっぱっている。
痛い、いたい。のたうちまわりたい。
でも、身体が動かない。
ねぇ、引きちぎって、食べようとしているの?
私の、大事な竹刀をふるための腕を。
ここにきて与えられた本物の刃のついた剣は抜く隙すら与えられず、どこかへ弾き飛ばされた。
私の身体ごと。
このまま、獣のエサになって、惨めに死んでいくの?
嫌だ。そんなのは嫌だ。許さない。
私から未来を奪った、ウソつきなあいつらを許さない。
ずっと続けていた剣道で推薦は確実にとれるといわれていた。だけど、万が一があるから、抜かりなく勉強もしてた。
私には目標があって、おじいちゃんやお父さんのように、警察官になりたかった。うちはそういう一家だった。
正しい心を待って、きちんと毎日を過ごしていれば、私の願いは叶って、未来は明るいっておもってた。
明るくて、前向きで、頼りになるとよく言われていた。学級委員長は、何度もやった。生徒会にも入った。
だから、異世界に召喚されるなんてわけのわからないことになっても、不安でどうにかなりそうになっても、前向きに考えてれば、生きていけると思っていた。
ひとりだけ、あなたがたはだまされています、お逃げなさいと、ささやいてきた侍女さんがいた。
私はおかしなことを言われたと先生に告げ口をした。そして、彼女のことは見かけなくなった。
彼女は、ウソつきではなかった。
騙されていたばかな私が、彼女の言葉を信じなかった。
いなくなった侍女さんは、今、どこにいるのだろう?
――そして、私は、今、獣の餌になろうとしている。
獣が腕をちぎりかけ、今度は首に噛みついた。
痛すぎて、壊れそうだ。
……こんな、みじめで、ばかみたいな死に方を、どうして、私がしなくちゃいけない?
アイツらが悪いのに。
勝手に私たちを召喚したやつら。
言葉巧みに、駒のように動かし、使い捨てにした。
許さない。許さない。……許さなくていい。
許さなくていい?
そう……。そうだよね、そうだ。
ああ、なんだか……お腹が、冷たいけどあつい……。
熱いけど、つめたい。
ふつふつと、身体の奥底から、なにかがあふれてくる。
これは魔力?
なんだろう?
魔力なの? 私があまりないといわれたもの。こんなに冷たくて、熱くて、禍々しかった?
でも、いい。
それがなんであれ、私に、力をくれるのなら……。
もう、正しさなんていらない。
「ギャン!」
一声大きな声を上げて、バシッと防壁に獣がたたきつけられた。血と、何かが飛び散る。
私はゆっくりと立ち上がった。
首がグラグラしている。
腕は皮一枚でつながっている。
ボタボタと血が落ちる。痛みは消えた。
「……ゾンビみたいね。……でも、私はまだ、生きてる」
無事だった左手で、首に触れる。
黒い禍々しい色の闇が私の指先から溢れる。
それが私の腕と首、それから身体の痛んでいる場所をなおしていく。
ぐるりと周りを見渡せば、同じように立ち上がっている数人。目が合う。その目はどんよりと真っ暗だ。私も同じだろう。
そして、遠くではまだ、戦いの音が聞こえている。まだ、魔族相手に持ちこたえている人がいる?
そう、未だ魔族はいる。戦いは終わっていないみたいだ。
「……」
私はまだ、自分が、自分たちがどう変わったのか、わからない。
圧倒的力の差を感じた魔族に、今の私で再戦して勝てるかといえば、わからないとしかいえない。
「今は、ここから離れるのが、いい……」
でも、必ず、報復する。
ウソつきは、許さない。
そして、この世界を、許さない。
壊してやる。
私がされたように、ぐちゃぐちゃに壊してやる。
憎しみで心を満たすのはなんて気持ちがいいんだろう。
私はいつの間にかそばに集まって、同じように堕ちた仲間とうなずき合い、そして、跳んだ。
準備を整え、確実に、必ず、何倍もの、報復をするために。
今は、ここから離れる。




